クエリーからはじめよう

mikiokousaka

Context Report

「ファクトベースで語るのは、間違えを恐れる人に多いが、帰納法も推論であり、演繹法も、逆行推論法も、事実に基づけばファクトベースなので、常に正しいとは限らない。
ファクトだけで、必要性の高いものを見極めようとするから間違うので、まずコンテクストを問わなければならない。」

なんてことを呟いてみたので、とりあえずコンテクスト(状況,脈絡,文脈)を誰かに伝える時に、自分で考えをまとめるためのツールを紹介しておきます。

網羅することは全く重要では無く、偏った思い込みで、誤った伝わり方をしないようにするために、全てをなぞって考えを見直すのに役立てています。
セールスとマーケティングとイノベーションを分けて考えていないので、既存事業の見直しや新規事業の立ち上げ時に使うだけではなく、スタートアップの人から真新しいビジネスプランを聞く時にプレゼンの要点を把握するのにも活用してます。
コンテクストを最終的に「一言で説明」One-Line description にまとめるための自分なりの5W1H+1Kの構成で、相互の連携を見渡すためのものです。
まとめていくと先人が言ってた事ばかりだったので、自分の気付きと分ける意味もあって、雑多にはなってしまってますが名前や著書なども書き出しています。


まず最初の「Where,What,How」ですが、一般的に使われる「Who,What,How」とほぼ同じです。
「何処」Where に「何」What を「如何」How に提供するのか?「顧客と課題の発見と解決策」という、基本的な事柄の整理を最初の段にまとめています。
【1】「何処」Where は、対象となる顧客の顧客課題Problem を明らかにする部分で、よくあるのはPain or Gain の考え方ですが、経験的に、過剰は得られるのであれば、どの位でも何でも良いということが多いので、Gain はHunger に置き換えています。
「苦痛の解消」Pain Point または「渇望の充足」Hunger Point で本当の課題なのかを見定めています。
深掘りすると、解決しなければいけない課題の対象者が別だったり、よく言われる、Is it your Candy (quick fix), your Vitamin (nice to have), or Painkiller (need to have)? のように、実は課題では無くて、あったら良い程度のものだったりしないようにしています。
不の解消、とリクルート社で呼んでいる、顧客が抱えているマイナスになる部分が、よりマイナスであればあるほど、解決するべき顧客課題になります。
ゼロからは何も生まれないという考え方の出発点です。
【2】「何」What として、提供価値(Solution)を考えるときには、David Aaker氏 がブランドの利得を4つに位置付けた(著者Aaker on Branding)内の、いずれかに、どの程度当てはまっているかを参照しています。
この分類を、製品ブランド(Product Brand)や企業ブランド(Corporate Brand)を考えるために、ではなく流用しています。
価値というと「機能的価値」Functional Benefits だけになりがちですが、感覚に訴える「情緒的価値」Emotional Benefits や「自己表現価値」Self Expressive Benefits に目を向けると、単なる課題解決を広く一般化して対象者に届けるための価値として有効ですし、「社会的価値」Social Benefits は、最近になって注目され追加された目指すべき提供価値(Solution)として重要です。
【3】「如何」How は、実現方法(Realization)として不可欠な4つの要素で考えていきます。
これらの要素は、Edmund McCarthy氏の提唱(著書Basic Marketing)でマーケティングの大家Philip Kotler氏によって広められ、Neil Borden氏による4P Marketing Mix (著書The Concept of the Marketing Mix)の枠組みでも使われるため、マーケティングの要素という印象が強いですが、「価格」Price 「製品」Product 「認知」Promはotion と並んだ「流通」Place が扱われているからこそ、如何に顧客へ価値を提供するのかを考えることができます。方法論としては、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)によって「如何」Howの解像度を上げるとと並行して、一人の顧客にも多面性があることを前提に考える必要があります。
顧客接点とも言える「流通」Placeは、「価格」「製品」「認知」が出来上がってしまった後からでも大きく変化させることができる要素として、最も優先度を上げて考えるべきことだと個人的には思っています。

【4】「何時」Whenは、実施計画(Planning)を考える時に、実際に今はどの時間軸にいて何を気にするべきかを見直すために使います。
時間軸のどこにいるかで、顧客課題に対応する提供価値や実現方法の重みづけを変える必要があるので「Where,What,How」と密接に関連している項目です。
顧客達へ普及させていくための時間軸なのでEverett Rogers氏が(著書Diffusion of Innovations)定義付けた5つの層の内、革新者(イノベーター)、初期採用者(アーリアダプター)、前期追随者(アーリーマジョリティ)という初期にあたる3つだけを取り上げて、後期追随者(レイトマジョリティ)、遅延者(ラガード)を、ここでは除いています。
この時間軸の中で非常に多い混同は、キャズム越えとプロダクトマーケットフィットの同一視で、この谷(キャズム越え)と峠(プロダクトマーケットフィット)の違いを見誤った実施計画によって、期待した通りの成果が出ていないことが往々にしてあります。
どの層に受け入れられたのかという正しい現状理解と、次の層の顧客達に受け入れられる提供価値と実現方法を認識し、それに合致した活動していくことが必須になるからです。
敢えて-1から1と記載してるのは、新しい製品やサービス等の価値を作り出すことを、0から1を生むゼロイチと言うのが通例になっている中で、ゼロからは何も生まれないことを改めて意識するためです。
表現としてのゼロイチに間違いは無いのですが、目に見えている1が実は氷山のように深く沈んだ課題の上に成り立っていることが常なので、1だけをすげ替えるように計画の中に置いても安定した成長にはつながらず、継続したゼロイチで成功できたとしても大成功することは無いためです。
革新者(Innovators) は、どの分野でもパーセンテージベースで存在しているので、最初期に興味を持って意見を聞かせてくれたり、購入してもらえる対象者になります。
この時点で提供する仮説製品(Minimum Viable Product)は、検証効果を確かめるためにも単純な機能の提供であるべきですが、実物として出来上がっておらず動作だけが確認できる状態でも問題ないですし、クラウドファンディング(Crowdfunding)で購入者を募る企画書という手法からでも良く、Eric Ries氏が言う通り仮説製品(Minimum Viable Product)は「誰も欲しがらない製品を作るのを避ける」ために作り上げるべきです。
Everett Rogers氏のイノベーター理論とAbraham Maslow氏の欲求5段階説が重なるという気づきから、イノベーターが求める自己実現欲求を優先した価値提供のままではなく、アーリーアダプターを獲得するための適合状態(Product Market Fit)の山を越えるためには、価値提供が承認欲求を優先するものに変えていくことを意識しています。
Andy Rachleff氏の言う適合状態(Product Market Fit)は、良い市場に良い製品が合致して、凄い勢いで顧客購入が起きることを指しますが、この時点での製品・サービス拡大による失敗例は多々あります。
革新者(Innovaters)と初期採用者(Early Adopters)の合計16%の市場しか獲得できないことに気付けなければ、Jiefri Mua氏の唱えた、谷を越える(Crossing the Chasm)前に脱落することになるわけです。
Steve Blank氏が指摘した通り、最小機能製品(Minimum feature set)に機能を追加していくという間違いを犯さず、機能を入れ替えるという、いわゆる本来あるべき姿のピポットで、承認欲求ではなく社会的欲求を優先する前期追随者(Early Majority)の獲得を目指す必要があります。
機能の追加は、Clayton Christensen氏が破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)と共に位置付けた、持続的イノベーション(Sustaining Innovation)であり、この谷(Chasm)を超える前に行うべきでは無いということを意味します。

最下段の「Why,Who,Know」は、コンテクスト(状況,脈絡,文脈)の本質的な意味合いを構成するものです。
「何故」Whyに「誰」Whoが「智見」Knowを提供できるのか?「実効性の裏づけ説明と優位点」という、解くべき論点を見極める際には根本として不可欠で必要性が高い事柄の整理を最終の段にまとめています。
「Where,What,How」だけを一次情報だからとファクトとして扱うと、間違えでは無いように見えても解決に至らず徒労に終わることが多くなります。
また実は、人々の共感を得るためには常に「Why,Who,Know」を先に語るべきです。
【5】「何故」Why は、万能な問いのように扱われていますが、今である理由「Why now」,これである理由「Why this」,顧客が受け入れる理由「Why me」,あなたがやれる理由「Why you」、への問いに分解して考えることが必要です。
「Why now」と「Why me」は外部要因なのでSWOT分析でいうOpportunity(機会)とThreat(脅威)の二軸にして、「Why this」と「Why you」は内部要因なのでSWOT分析でいうStrength(強み)とWeakness(弱み)の二軸にして、それぞれ整理します。
特に意識すべきは、今である理由「Why now」で、全てがどんなに良い内容でも、早過ぎたり遅過ぎれば意味が無いので、主観ではなく客観になっていることを確認するため、Philip Kotler氏の提唱するPEST分析を用いることもあります。
「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」という4つの外部要因となる情報から、事実と解釈に仕分けし、事実をOpportunity(機会)とThreat(脅威)に分類して、それらの影響が短期的か長期的かを見極めるのがPEST分析ですが、精緻な分析が目的では無いので、何故今まで無かったのか?何故今ならできるのか?何故今は他の人がやってないのか?という、今である理由「Why now」の客観性を確認するための利用です。
【6】「誰」Whoは、自分と仲間や協力者についてです。
私達は誰で「Who I am」、私達は何を知っていて「What I know」、私達は誰を知っているのか「Whom I know」、に立ち返る重要性については、Saras Sarasvathy氏が未来予測が不可能で目標が不明確な時には目的ではなく手段を優先すべきだと説く(著書Effectuation)中の一部分として触れていますが、自分達で出来ることしか出来ないのだ、という原理原則の要素が「誰」Who です。
自分達が、自分達の事を把握し、足りない部分を理解しているからこそ協力者がいる、という状態は自明の様で出来ていないことが多いので、自らの力で大きく変化できる部分でもあります。
【7】「智見」Know は、問いの基本形とされる5W1Hから外れた項目ですが、直感や先入観によって非合理的な判断を(認知バイアス)してしまうことを前提に、意識して問うべき最低限を項目にしています。
コンテクストの焦点は、誰も知らない独自の機会「The Secret」であり、5W1Hがそれを取り囲む枠組みになっていれば強固に構造化されます。
また、競争ではなく独占に目を向けるべきで、拡大可能な独占できる市場を創れるか「Creative monopoly」が最も重要だと、Peter Thiel氏は、誰も知らない独自の機会「The Secret」の必要性と共に(著書:Zero To One)語っていますが、
競争に晒される中で当たり前の様に競争に巻き込まれてしまうのを避けるのと同様に、不確実なことを避けるためリスクを選ぶ行動を取ってしまうPaniel Ellsberg氏のエルズバーグパラドックス(The Ellsberg paradox)や、損することを避けるため利益を得ることを優先しないDaniel Kahneman氏とAmos Tversky氏によるプロスペクト理論(Prospect theory)に縛られ、過ちを犯してしまわぬよう、自らに問うべき重要な智見です。


改めて、このツール「Context Report」は、コンテクストを最終的に「一言で説明」One-Line description が出来るようにするためのものなので、時間をかけ項目を網羅して書き出す使い方は無駄になります。
また項目は相互に関係しますが、対象によって相関関係には濃淡ができるので、1対1の二次元な関係性で考えるのではなく立体的な連携を意識するために使っています。
対象について、項目を点と点で結ぶ直線的な思考(Linear thinking)で捉えがちなのを、それぞれに跳躍して思考(Exponential thinking)するためのものです。
そうやって導いた解決する意志が含まれたコンテクストによって、見極めるべき課題も、はっきりと設定できると考えています。
現場にある一次情報(ファクト)を積み上げて間違いが無いはずだとなってからの「判断」ではなく、答えが出ていなくても解決すべき課題を見極めて行う「決断」に必要不可欠な、状況,脈絡,文脈(コンテクスト)を問うことの薦めでもある「クエリーからはじめよう」のためのツールです。

Mikio Kousaka

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