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男女別で考える最新フィットネス③:男性を基準にデザインされた環境で生きる女性の「身体のケア」

世の中には、もともとの利用者が男性だったために、今でも男性を基準にデザインされ続けているものが沢山あります。

女性の身体には合っていないものを使ったり、合わない環境に長時間いたりすると、女性の身体は男性とは異なる負担を経験します。今回の記事では、科学的な視点から一旦外れて、その性差に注目しながら社会学的な視点で「女性にピッタリの身体のケア」について考えていきたいと思います。

科学に重点を置くフィットネス界ではあまり語られる視点ではありませんが、私が指導をする際に頭の隅に必ず置いていることなので、ぜひ参考にしていただけたら嬉しいです。

◆女性が社会に進出してから、デザインは変わったか?

女性が社会に進出し始めたのは、洗濯機などの電化製品が発達して家事に1日のほとんどの時間をとられなくなった頃。「女性も男性と同様に『労働者』として平等に扱おうね」と定めた男女雇用機会均等法が成立したのは1985年のことです。

それから40年近くも経っているのに「男性の身体を基準にしたままデザインされて続けているもの」を見つける機会は日常生活でたくさんあります。

そんな物・環境をいくつか例を紹介しますので、身体のケアやメンテナンスに役立ててみてください。

▼オフィス

部屋の温度は「成人男性の基礎代謝」を元に設定されています。
男性の方が基礎代謝が(=高い発する熱が高い)ので、男性が心地よい温度のオフィスでは女性はガタガタ震えてしまうのです。この環境では、寒さや暑さに適応するための「環境ストレス」は女性の方が高くなります。

常に寒すぎる環境にいることで冷え性が改善しにくくなったり、寒さで縮こまって肩周りが硬くなったり、女性特有の影響が考えられます。

また、オフィスの机、キーボードの形、椅子の形、コピー機などは女性の体型や筋力に合わせてデザインされているでしょうか?

成人男性の骨格や体重をベースに作られた椅子に女性が長時間座ることで、股関節や背骨への影響はどう変わるでしょうか?

オフィス内には、研究ではまだ明らかになっていなくても、身体への影響を自分で推測したり観察したりできることがたくさんあります。同じオフィスで働く男女でも、身体のケアで着目する点が異なると考えるのは当然のことなのです。

▼ジム

ジムに置いてあるマシンも、その多くが男性用にデザインされています。
フィットネスが生まれた当初から現在まで、筋トレ用のマシンを利用する人の大多数は男性。平均的に男性よりも小柄な女性には、ジムのマシンは大きすぎるのです。

バーの位置が高すぎて手が届かなかったり、小さな手にはハンドルが太すぎたり。角度も男性の身体をベースに設定されているので、サイズを小さくするだけでは女性には合わない可能性もあります。

教科書やビデオに出てくる正しいフォームは、「男性がその男性向けマシンを使う時のフォーム」が参考にされていますよね。

私が女性の指導でほとんどマシンに頼らないのも、マシンの多くが「女性にはベストな選択肢ではない」と感じているのが理由です。

女性用のマシンをデザインする会社が出てきてほしいんですが、まだ聞いたことないですね。女性専用ジムでも男性向けデザインのマシンを使っている状態です。いい会社・マシンがあったら教えてください。

▼音楽

クラシック音楽が生まれた何百年も前、クラシック音楽界は元々「100%男性の世界」でした。(女性の音楽家が増えてきた今でも、女性であることがキャリアに響くこともあるという話を聞きます)

歴史的な有名な作曲家もみんな男性ですね。当時は、ピアノを弾く人も男性。もちろん、ピアノの鍵盤の広さ・重さも男性の手をベースにデザインされています。そのため、女性ピアニストの怪我は男性と比べて約50%も多いという研究もあります。

平均的に女性の方が男性よりも筋力が低いので、大きな楽器を扱う時の身体の負担も女性の方が大きくなります。特に、低音サックス、チューバ、コントラバス、アコーディオンなどを扱う場合は、男女で身体のケアは変えるべきです。

▼車

車も男性向けにデザインされています。
例えば、シートベルトは男性の身体を元にデザインされているため、事故をした時に女性の方が重傷を負う確率が高く、死亡率も17%高いというデータがあります。

衝突実験で使われるマネキンも、標準は男性の身体を模倣したものです。「『女性マネキン』を別で使った方がいい」という声が上がり始めたのは1980年に入ってから。衝突実験が始まってから30年もかかっています。

アメリカに関しては、実際に『女性マネキン』を導入し始めたのは、なんと2011年からでした。しかし、そのマネキンも、ただ男性マネキンをひと回り小さくしたバージョンであったりする場合もあり、改善の余地はまだまだたくさんありそうです。

少しずつ(遅すぎるくらいに)変わってきているようですが、今だに「妊婦向けのシートベルト」が実用化されないのも、こういった背景が関係していると言えるでしょう。

また、男女で骨盤の広さ身体を支えるための筋力が異なりますが、座席の形ハンドル・座席の位置も男性の身体を元にデザインされていれば、男性が長時間座るのと、女性が長時間座るのでは、身体の影響はどれほど異なるでしょうか?

急ブレーキ・急カーブの時に女性の身体は男性と同じように揺れるの?

腰への負担は?

体型に合っていない座席に座って長時間運転する女性は、男性よりも身体が受ける負担が大きい可能性があります。女性運転手(特にバス・トラック)にとって、そうした影響をデータで知り、身体のケアの方法を理解することは生活に関わる大問題ですよね。

◆データにすらなってないことが沢山ある

社会のデザインには、女性の視点から見てみないと気付きもしないことがたくさんあります。

身体の影響の受け方は人それぞれ違いますし、生活様式によってそのデザインにどれくらい影響されるかも異なるので、一概に「これならこれをやるべきだ!」とアドバイスをすることは出来ません。
(例:1週間に1回しか車に乗らない人と vs 毎日通勤で車を使う人)

でも、この記事が、これまでと別の角度で社会のデザインを見てみたり、自分の身体と向き合ってみるきっかけになったら嬉しいです。

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