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愚痴を愚痴で終わらせない(母の難病#18)

【11月5日】

母がお世話になっているホスピスのことを、私は以前こんなふうに表現した。

「このホスピスは、いわば"空箱"である。
まずはホスピスに入所するのでホスピスの会社との契約、そこで看護を受けるので訪問看護ステーションとの契約、といったように、訪問介護ステーション、ケアマネ、介護用品会社、訪問診療、訪問歯科、と契約を結んで空箱を埋めていく。そこで初めて入所者オリジナルのケア構造が成立するのである。」

私は薄々気づき始めていた。
このシステムを維持するには各部との連携がとても大切で、連携を持続させるための仕組みが大切だと私は思っている。それがうまくいっていないのだ。

それは契約のときからだった。
ある事柄について一度電話で説明を受けて私は承諾していたにもかかわらず、契約当日、異なる情報のままの書類にサインを促されたり。

訪問歯科の受診日が私に知らされていなかったので私の付き添いなしで診察が行われようとしていたのだけれど、偶然私が面会に訪れて歯科医師と出会ってしまったことで、かえって話がややこしくなってしまったり。

準備物の中にバスタオル5枚フェイスタオル5枚と書いてあり、同じように説明も受けていたので大体その通りに持っていったのだが、後になってから全然足りないから買い足して欲しいと言われたり。

他にもまだあった気がするけれど、勘弁してくれ案件第1位は、加湿器騒動である。

母の異臭を相談したとき、口の中が乾燥してしまうことが大きな原因だと看護師さんから言われた。その会話の中で、
「入居者さんの多くはお部屋に加湿器を置いていらっしゃるんです。置いてみてもいいかもしれませんね。」
と言われたため、私は友人が勤めている早速家電量販店に買いに行った。

臭いが気になっていた私はその友人とも相談し、加湿空気清浄機を購入。清浄機ではあるが加湿機能がしっかりしていて脱臭効果もある。まあまあの大きさがあるが、小さい物を床に置く方が視界に入りにくく危なかったり汚れるのが早かったりするのではないかと思い、それに決めて購入した。

翌日ホスピス内に持ち込もうとすると、受付からスタッフが血相を変えてとんできた。

「それ、加湿器ですか?持ち込む許可を得ましたか?」

加湿器を持ち込むのに、許可なんているのか???

そういえば、契約の最後に加湿器を持ち込むかどうか尋ねられた。そのときは持ち込むつもりがなかったので「持ち込まない」と答え、加湿器の話はそこで終わってしまっていた。その話に続きがあるなんて知らなかった。

加湿器は手入れをしっかりしないとカビの温床になり、時にはそれが入居者の健康を損ねることもある。そのため、持ち込む場合は推奨するタイプのみ持ち込みを許可しているとのことだった。
血相を変えてとんできたところを見ると、私が持ち込もうとしたものはそのタイプではないのは明らかだ。

私は不機嫌な声で言った。
「昨日看護師さんとのやりとりの中で、口の乾燥を防ぐために加湿器を置いたらいいんじゃないか、ということになったので持ってきたんですけれど…」

「ああ、そうだったんですね。取扱説明書を見せてもらえますか。」

その後なぜそのタイプを推奨しているのかを説明されたが、腹が立っていてよく覚えていない。

「清掃はこまめにお願いします。スタッフは電化製品に触らないことになっていますので。水の入れ替えもご家族でお願いします。」
看護師とのやりとりの末に購入して持ってきた、ということで、運びこみは許可された。

部屋には運び入れたが、看護&介護の点からあまり置いて欲しくない場所があるかもしれない、と思い、看護師さんに聞いてみた。看護師さんは、「どこでも大丈夫ですよ」と言った後、「タンクにお水入れてきますね。」とタンクを持って行った。

水、入れてくれるのかw

こういうすれ違い、患者家族にはキツい。
自分の親のことを受け止めることにいっぱいいっぱいなのに、本来なら家族が関係ないことで神経をすり減らしたくない。

さすがにこの日は夫に愚痴を聞いてもらった。


誤解のないように書いておくが、このホスピスで働いている方々はとても真摯で、それぞれが入居者思いでそれぞれに信念があって働いているように見受けられる。

しかしここが組織である以上、個人の発言=その組織としての考え方、と捉えられる。どんなに真摯でもどんなに信念があっても、「組織としてどう在るのか」という一貫性が浸透してないと、あっという間にその言葉から不信感が生まれてしまう。
そして、複数の外部組織と連携するのだから、情報の共有の仕方を明確にする必要がある。そうしないと一貫性は生まれない。

これらはこのホスピスのみならず、どんな職場、学校、組織にも言えることではなかろうか。

とはいえ、ここでぐちぐち言ってもしょうがない。
患者家族にもできることがあるはずだ。このホスピスが空箱ならば、まずは挨拶、コミュニケーションを入れてみよう。連携ができてないなら、こちらが動くまで。疲弊するなら、気持ちよく疲れる。

愚痴を愚痴で終わらせないって、大事だと思うのだ。

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