
葉巻は居で吸う
葉巻は「CIGAR」で頭文字はC。
葉巻=CIGARにマッチする食べ物や飲み物は、頭文字Cの組み合わせ
だ。
たとえばCOFFEE、CHOCOLATE、CHEESE、CAKE、CREAM、CARAMEL。
すべて試したが、すべて葉巻にマッチする。
酒なら、COCKTAIL、CHAMPAGNE、COGNAC。
葉巻を単体で吸うよりも、ここに列挙した頭文字Cの嗜好品と組み合わせることで、CIGARタイムはグッとふくよかになる。
「C」が合うならばと、ふと思い立ってCALPISを飲みながら葉巻を吸ったら、なかなかの好相性だった。
CIGARと「C」の入門編として
まずはCHOCOLATEとCOFFEEをセットして、葉巻に着火することをお勧めしたい。
これだけで葉巻はグッと美味しく吸える。

葉巻は「居」を吸うものでもある。
「環境」「空間」「机辺」を含めて楽しむ嗜好品なのである。
最も手間なく「居」を手に入れたいならシガーバーがある。
東京のシガーバーをいくつか紹介
Connaisseurとはフランス語でこだわりの意味。
『ル・コネスール』は、渋谷、六本木、銀座、丸の内などに店舗を構えるシガーバーだ。
リラックスできる革張りの椅子、上質な木家具、テーブルが待っている。
私がよく通うのは、本郷の『金魚坂』でル・コネスールよりはカジュアルな雰囲気だ。
何と言ってもCOFFEEが絶品である。
さらにカジュアルなシガーバーなら、浅草田原町の『ルワン』がある。マスターの奥さんが作るCAKEが美味い。
原宿の『シャドネイ』はめったに行かないのだが、葉巻仲間のデザイナー井上頌夫氏と語り合うなら、この店で決まりである。
私が自宅で葉巻をくゆらせるとなると、井上頌夫がデザインした葉巻用南部鉄器灰皿か、ビレロイ&ボッホの葉巻灰皿をセットして、照明を落とし、キャンドルの炎をゆらゆらとさせ、いざ葉巻をカットしてSTデュポンのライターで着火する。
自室空間の落ち着きの中に、煙とともに、たゆたうように落ち着いてゆく自分の精神をも味わう。それが葉巻である。

こうした空間を整えずに葉巻を吸うのは、愚の骨頂である。
「居」を無視して、粗雑に葉巻を口にくわえる姿から、葉巻=マフィアのボス=金のある粗雑な人というイメージが一般に広まってしまった。
本来は、紳士の嗜好品が葉巻である。
20年ほど前の門下生が集う忘年会で、門下のひとりである作家の佐宮圭が関西取材から日帰りし駆けつけた。
私の誕生祝いを兼ねての居酒屋での忘年会だった。
「お祝いに葉巻を買ってきたんですよ、さぁ吸ってください」
と差し出されたとき、大いに困った。
居酒屋のガヤガヤした空間の中で葉巻が美味しく吸えるはずがない。
「葉巻はそういうものではないんだよ」
と苦言を呈したのだが、佐宮は早く早くと急かすばかり。

ダビドフ・アニベルサリオNo.3は、こうして灰燼に帰した。
小学館ノンフィクション大賞受賞作家にして、この認識である。
いつか教えなければならないと思いつつ、20年が過ぎてしまった。
葉巻を手に構えるときは、人生を急がないゆとりを構える。
「居」が整うと「時」も「己」も静かに整ってゆく。
葉巻から教えられる人生訓は、寡黙にして雄弁である。
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