「Q子どものための哲学」活用方法徹底解説!
NHK for SchoolというNHKのチャンネルで「Q~子どものための哲学」というものがあります。今回はこれの使い方について解説します。
「Q ~こどものための哲学」のよいところ
まず、この番組のよいところ。
「そもそも自分らしさってなに?」や、「ふつうってどういうこと?」など20個もの哲学的テーマがあります。Qくん(声は本田翼さん)とチッチ(声はガッツ石松さん)など、かわいい登場人物のやりとりを見て、見ている子どもも一緒になって疑問を持てるような演出がされています。昔ながらの人形劇がとってもかわいい。
日常生活のいろんなことに疑問をもって考えてみよう、ということが伝わる、子どもに哲学を身近なものと思ってもらう導入として、とても良いと思います。小学校でも取り入れられそう。
「Qこどものための哲学」の気をつけたいところ
ただ、私が気になるのは、テーマです。「そもそも自分らしさってなに?」や、「ふつうってどういうこと?」は、全く問題なく、哲学的なテーマです。
でも、特に第一回、「なんで勉強しなきゃいけないの?」。これは、なかなか議論が深まりづらい問いのかたちをしています。
私の言葉であらわすと、精密度が低いです。
精密度とは???
詳しく説明しますね。
まず、哲学的問いにおいて、「なんで〜?」と「〜しなきゃいけないの?」は一つの同じ問いの中に一緒にあるべきではありません。
だから、この「なんで勉強しなきゃいけないの?」という問いは、「なんで勉強するの?」と「勉強しなきゃいけないの?」が混在してしまっているわけです。
問いが「なんで勉強しなきゃいけないの?」だと、大前提まで立ち返ることができません。「勉強しなきゃいけない」ことが自明の事実みたいに語られているからです。でも実際勉強しなくていい国とか、勉強したくてもできない人とか、いろいろいますよね。日本の中にも、「勉強しなきゃいけない」と感じていない人も多いはず。勉強が好きな子とか、勉強するのが当たり前だと思っている子とか。
だからこの問いに対しての答えは、「役に立つから?」「大人になったら使うから?」とか、そういったものしか出てきません。
そのかわり、「なんで勉強するの?」を問いにしてみましょう。
すると、そもそも勉強するって何?と語源を探る。「学ぶ」との違いは?
どこで勉強する?学校?家?塾?
勉強する国、しない国、勉強する人、しない人、はいる?などの問いが出る。
「勉強しなきゃいけないの?」を問いにしてみると・・・
勉強するのは必要だから?それとも義務だから?
勉強しないとどうなる?という風に広がります。
良い問いは、少ない言葉で、そのあとに無限の広がりを与えてくれるもの。
他にも、この番組内のテーマで、ちょっと変えればもっと哲学的に面白い議論ができる、っていうのがいくつかあります。屁理屈言うな、文句言うなって思っちゃうかもしれないですが、こども哲学のテーマ設定の参考になればと思うので、ここで20個のテーマを「◎・○・△」の三段階で格付けします。
繰り返しますけど、はじめて哲学する子たちにとっては、見ていて楽しめるとってもいい番組だと思いますよ!あくまで、テーマの哲学的精密度の話をしたいだけです。問いのかたちは哲学的な議論で超重要ですので!
テーマ20個全部紹介
では参ります。
1. 何で勉強しなきゃいけないの?:△
2. カッコイイってたとえば?:○
3. 便利って本当にいいこと?:○
4. 死んだらどうなるの?:○
5. 似てない人と仲良くできるの?:◎
6. ルールって本当に必要?:○
7. なんでウンコでみんな笑うの?:△
8. なんでお母さんはいつも怒るの?:△
9. そもそも自分らしさってなに?:◎
10. 良いこと、悪いことってなに?:◎
11. 大人ってどんな人?:◎
12. お金で本当に幸せになれる?:○
13. ふつうってどういうこと?:◎
14. なんで人は作り笑いするの?:○
15. なんであだ名をつけたがるの?:△
16. なんで裸ははずかしいの?:△
17. ウソをつくのは悪いこと?:◎
18. なんでお母さんは化粧をするの?:△
19. ともだちってたくさん必要?:○
20. なんで夜はこわいの?:△
理由は前述したものと重なるところが多いです。
Qワード紹介
番組内で、「Qワード」という哲学アトリエで使える疑問詞「なんで?」や「たとえば?」などがあり、これは普段の会話でも取り入れられるものなので、その使い方も解説します。
Qワード11個ぜんぶ紹介(ホームページでもみることができます。)
https://www.nhk.or.jp/school/sougou/q/origin/shiryou/
なんで?
たとえば?
反対は?
ほかの考えは?
もし〜だったら?
くらべると?
立場をかえたら?
そもそも?
どんな?
本当に?
どういうこと?
場面別おすすめQワード
日常で使える、おすすめQワードを考えてみました。
わりと真面目な議論(哲学カフェ・企画案・アイディアを出すときなど)
・くらべると?
他の国、時代、家庭・・・議論が進んでいったときほど、これは役に立ちます。どんどん深く狭くなっていったとき、煮詰まってくる感じがあると思います。そのとき他の国や時代など、比較対象を持ってくることで、また会話が開けてきます。
・立場をかえたら?
女性、男性、子ども、大人・・・いろんな視点に立って考え直す、というのも大事ですね。
知識ひけらかす人対策用
・そもそも?
「資本主義が〜」「人間の自由意志は〜」など、わざと?と思うほど難しい用語を使って話す人、いませんか?
その人に、その言葉、そもそもどういう意味で使ってるの?と聞くことで、相手に考えさせることができます。実はあんまり考えて使ってなかった、というときもありますので、無理に「うんうん、なるほどね」と話を合わせず、ちゃんとお互いの使っている言葉の意味のすり合わせをするといいです。これはフランスでの哲学教育の基礎にもなっているところです。
・たとえば?
具体例を挙げてもらうと、知識レベルの会話ではなく、実生活に落としたところで会話ができるようになります。知識より、経験から話す方がどんな人にもアクセスしやすい会話になるので、ぜひ使ってみてください。
仲良くなりたい人に
・なんで?
「なんでそう思うの?」と問うことで相手の考えの根っこの部分がわかります。これも経験談を話してもらうことにつながっていますね。
・もし〜だったら?
「もしあなたがアメリカの大統領だったら?」「もし今と違う性別(男性なら女性、女性なら男性、はたまたそれ以外)だったら?」
「もし自分が権力者だったら、上から男女平等を実現していく」のか、それとも「権力者になったらただ権力行使して遊んでお金使いたい」のか、色々ありますよね。普段聞けない本音みたいなものを聴ける機会になるかもしれません。
Qワード使用の際の注意点
これらは言い方やトーンを間違えると悪印象になるのでは?と(この内容をポッドキャストで配信した時)質問がありました。
たしかに、会話の中で急に「どういうこと?」「なんで?」と単体で取り入れるのはちょっと危険かもしれません。
もしあなたが「どういうこと?」というQワードを使いたいのであれば、例えば自由について話していたとしたら、「今あなたが言った、鳥は人間より自由ってどういうこと?」というように相手の言ったことを繰り返して聞く方がいいですね。「なんで?」を使うときも、「なんでそう思ったの?」や「なんでそういう風に考えるようになったのかな?」など、「なんで?」の後につけたす言葉があるといいかもしれません。
あくまでこれらのQワードは、思考・考えを導くためのヒントとしてとらえてもらうといいかと思います。
また、外国ではこのQワードをどんな風に使うか?という質問もありました。
フランスでも、「なんで?」とか「たとえば?」だけだと、ちょっとぶっきらぼうな感じがします。
ですので日本語と同じく、「なんで私たちはこう考えるんだろう?」とか「たとえばこういうこと?」とかQワードの後につけたす言葉は必要かと思います。
ただフランスと日本の違いで言えば、「本当に?」というQワードは日本独特かと思います。日本人って驚くと、「えー、ウソ!」とか、「マジ?」とか「本当?」って言いますよね。フランス人にしてみたら「いや、ウソじゃないから、本当だから言ってるんだし」となるそうです。日本語の「ウソー!」は別に嘘つきと言いたいわけではないですよね。でもフランス語では「嘘」という言葉は結構重い意味を持っていて、嘘つき呼ばわりすると、「虚言癖がある人」くらいの意味でとらえられてしまうので、ここは気をつけてください。
「本当に?」は、事実や根拠がはっきりしていないときだけ、使うようにするといいです。
以上Qワードの補足説明でした。
公式ホームページからは、Qワードカードとワークシートを無料でダウンロードすることができます。
私が特におすすめするテーマはこちら↓
ふつうってどういうこと?
カッコイイってどういうこと?(テレビでは「カッコイイってたとえば?」だったのが、本では「カッコイイってどういうこと?」となっています。)
そもそも自分らしさってなに?
どれもシンプルな問いです!
また、全部セットになっている本も発売されているそうです。
参考になれば幸いです!
stand.fm、各種ポッドキャストも配信中♪