京都日記 | ひとり丸太町で
7月23日(火)
京都へ行く新幹線の中、スピッツの「桃」を聴きながらこれを書いている。このイントロが好き。
さっきからずっと、隣に座っているおじさんがたのしそう。駅弁のお品書きをじっくり読んだり、富士山が見えたら慌ててスマホを構えたり、肩越しに高揚感が伝わってきてくる。
わかります、この時間がいちばんたのしいですよね、と心で話しかける。おじさんはどこへ行くのだろう。いい旅になりますように。
京都駅について、バスで北へ向かう。
バスを降りると、空気がじっとり熱くて、肌がじんと痺れる。彼の家は細い路地に佇む一軒家。近くには歴史ある銭湯や神社があって、だけど来るたびに新しいお店もできていて、古さと新しさが絶妙な塩梅で入り混ざってるのを感じる。
家に着くと彼が「汗だくだ」と笑って出迎えてくれた。この前東京で会ってから数週間ぶり。
14時過ぎ、遅めの昼食。豚肉、玉ねぎ、それから「そろそろ使い切りたい」とリクエストがあったマーマーレードで、名もなき炒めもの完成。お肉と果物の組み合わせが好き。今度オレンジチキンをつくりたい。ちょっとジャンクな味の。
わたしが桃を剥いて、彼がお茶を淹れてくれて、「山の上の家」を読みながらうとうとお昼寝。すっかり夏休み気分。
夜は別々に。みどりさんに教えていただいた「トラモント」さんを覗いてみたけれどこの日はお休みで(ちゃんと調べてなかった..)近くの「つるや」さんへ向かってみる。
結局みどりさんおすすめのお店はタイミングが合わず行けなかったのだけれど、彼が「どれも柚佳ちゃんが好きそうなお店だ」と言っていたので、きっと好き。次回行くのがとてもたのしみ。
つるやさんへ入ると「あとひとり分でお蕎麦が終わり」とのことで、運良く滑り込み。カウンター席、常連さんらしきご夫婦のお隣に失礼させてもらう。
梅ソーダ、かしわ天、十割石臼せいろを頼む。お酒を飲む人と同じように、梅ソーダとかしわ天を先に出してくださり、最後にせいろを持ってきてくれたのが嬉しかった。
かしわ天はふわっと衣が軽くてジューシー。無限に食べられそう。これはビールと合わせたら最高だろうなと想像する。お蕎麦は色白で細く繊細。塩をつけると上品な甘みが引き立って、これは日本酒だと納得する。下戸なくせに思考が呑兵衛なのは、お酒の案件を数年ディレクションしているのと、周りにお酒好きが多いから。
途中でお隣のご夫婦が「若いのにひとりで蕎麦屋なんて偉いね」と声をかけてくださった。東京から来ていてと話すと、お店の方も「それはそれは」と喜んでくださり、みなさん祇園祭のことや京都のことをたくさん教えてくれた。
ご夫婦の旦那さんは、翌日の山鉾巡行で鉾を担ぐのだと話されていた。最後につるやのお母さんが「祇園祭のお供に」とお店特製のうちわまで持たせてくれて、あたたかい気持ちでお店を後にする。
学生の頃、鎌倉の「ふくや」というお蕎麦屋さん(今は京都にもある)で時々お手伝いをしていた。夜になるとカウンターは常連さんで埋まり、皆おつまみとお酒をたのしんでから、最後の締めでお蕎麦を頼んでいた。そんな常連さんを見て、いつか私も「蕎麦屋で一杯」がやってみたいと思っていたのだ。
今夜は梅ソーダだったけれど、憧れが叶ったようで嬉しかった。
そのまま帰るのが惜しくて、少しだけ鴨川を眺め、船岡温泉で汗をながして家路につく。東京にも銭湯がもっとあったらいいのに。
翌日が彼の誕生日だったから起きて待ってようかなと思ったけれど、気づいたら先に眠ってしまった。いい夜だった。