猫と換毛
分厚い冬の毛をサラサラした夏の毛に換え終わった時って
ほんとに気持ちが良いんだよね。
なんかね、頭から尻尾の先まで涼しい風が吹きわたる感じ。
抜け落ちた冬の毛たちはベランダの春の風に乗ってフワッと舞い上がる。
お日様の下、冬毛がキラキラと輝いて最後のお別れを告げているみたい。
みんな、もう行っちゃうんだね。
あのね冬の毛たち、知ってるだろうけどわたしはこのお家から出られないんだ。
だから貴方たちがわたしの代わりになって色んな所を見て来て欲しいと思ってる。
そして、外の世界でどんなことがあったか夢の中で教えてほしい。
たとえば・・この家の娘さんが教えてくれたタンポポの綿毛ってどんなの?
抜けて丸く絡まったわたしの毛が綿毛に似てるって本当?
お父さんが毎朝早く行ってる会社ってどんなところ?
ちょっと鞄に引っ付いて見てきてくれないかな。
それから、この時期に遠いところからやって来るツバメに引っ付いてみて。
それでね、夏になったら風に波打つ稲穂を渡ってみてよ。
ああ・・きっと気持ちいいだろうね。
・・さあ、みんな行ってらっしゃい。
気を付けてね。
バイバイ。
バイバイ。