『度胸星 続編もどき』_第16話「死ぬなブラッドレー」
scene_大破した機体からの脱出
機体は斜めを向いたまま着地し、支持脚を捻じ曲げ、側面のエアバッグを押しつぶし、砂地にめりこむように停止する。
船体はぐしゃりと押しつぶされていたが、爆発炎上はしていない。
エンジン部分は不時着の衝撃を免れたのだった。
度胸「・・・みんな、無事か?」
茶々「わ、私は・・・なんとか・・・生きてるわ。首を打ったみたいだけど・・・」
武田「・・・・・」
度胸「どうした、武田?」
度胸はシートベルトを外し、武田のもとに駆け寄る。
すると、武田が座っていた場所は機体の損傷が激しく、落ちてきた構造物に太ももが挟まれて身動きが取れない状況。
度胸は構造物の下に潜り込み、肩にかけて押し返そうとする。
武田「ぐぬぅ、軽い素材で作られているとはいえ、チタン合金の構造材は相当重いぜ。」
度胸の目がクソ度胸モードに突入する。
度胸「待ってろ、武田・・・」
――シ、ミシ、ミシ、メキ、メキ、メキ
という音を立てて、構造材が「ボキッ」と折れる。
足を負傷した武田を引っ張り出し、度胸が支えながら、首元を押さえた茶々とともに船外へ脱出する。
すると、外には宙に浮いた超立方体のテセラックが浮遊している。
・・・・・
ローバーをぶっ飛ばし、駆けつけるブラッドレー。
「キキキーーッ」とローバーを急停車させると、早足で外に飛び出す。
後ろから慌てた様子の筑前とブロンソンが続く。
――プシュー、バタン、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
筑前「ダメだ、落ち着くんだ、ブラッドレーさん!」
ブラッドレー「どけ、筑前、邪魔するな!」
「俺はあいつにタックルをぶちかます!」
「一発ぶちかましてやらなきゃ気が済まんと言っただろ!!」
そう言って、テセラックに突っ込んでいくブラッドレー。
その姿を脱出した度胸たちも目撃する。
一方のテセラックは、駆け足で近づいてくるブラッドレーに合わせるかのように、超立方体から立体十字架へと姿を変えていく。
それとともに足から裏返っていくブラッドレー。
ブラッドレー「グオォーー、痛い、痛いぞぉ。」
裏返されながらも走るのをやめないブラッドレー。
そして、テセラックに届く手前で完全に裏返される。
その姿のまま立体十字架型のテセラックに体当たりする。
――ゴツッ
という鈍い音を残してテセラックに衝突するブラッドレーの裏返された身体。
テセラックは上昇していき、ブラッドレーの身体は支えを失い、地面に「ドサッ」と倒れる。
ブロンソン・筑前「ブラッドレーーー!!」
叫び声が風に反響する。
scene_地球への帰還方法の討論
翌日の居住モジュール内。
沈んだ雰囲気の中でこれからどうするかの議論が始まる。
モニターにはハリコフが映り、M1とも交信しながらのオンライン会議であることがわかる。
ブロンソン「せっかく助けに来てくれたのに、散々なランディングになってしまったな。」
「しかし、みんななんとか無事で何よりだ。」
「ブラッドレーのことは無念だが・・・あいつは自分らしさを全うしたんだ。尊厳ある死だと思う。」
全員「・・・・・」
筑前「・・・みんな眠れたか?」
武田「あぁ。・・・悪夢をみる元気もなかったぜ。」
ブロンソン「私たちの火星探査を邪魔しているのはテセラックだ。」
「そして、テセラックがいつ攻撃してくるのかはまったくわからない・・・」
「こんな状況だから、なるべく早く火星を離れたほうがいいと思う。」
「ハリコフ、どうだろうか?」
モニター越しにハリコフが答える。
ハリコフ「・・・同感だ。」
「我々M1探査船の第一のミッションはスキアパレッリクルーの救出だ。」
「それを優先するなら、帰還を急いだほうがいいだろう。」
茶々「でもサムームが大破してしまったから、火星を離陸できるのは、もうアメリカのERVだけよ。」
「ERVだとダイモスまでは飛べないし、M1とはドッキングできないから、どこか宇宙空間で静止して船外で乗り移らなくっちゃいけないわ・・・」
*註:実際は国際ドッキング規格というものがある。
武田「船外活動ユニット(MMU)やセルフレスキュー用の推進装置も必要だな。」
筑前「・・・そうだ。だが、もっと大きな問題がある・・・」
深刻な顔の筑前とブロンソンのアップ。
筑前「ERVは・・・四人乗りだ・・・」
「おまけに、ERVは何度も火星と往復できる設計になっちゃいねぇんだ。」
「つまり・・・誰かがここに残らなくっちゃならねぇ・・・永遠にな・・・」
それを聞いた全員が戸惑うように下を向く。
ブロンソン「・・・その件はまた後で話そう。」
「それよりも、離陸のときにテセラックが邪魔しないとは限らない。なんらかの対策が必要だ。」「しかし、その対策が皆目わからないときてる・・・」
度胸「いや、ひとつありますよ・・・」「筑前が一度やった手だ。」
「重力装置を使えばテセラックを惹きつけることができるはずだ・・・」