『度胸星 続編もどき』_第13話「スキアパレッリの教訓」
scene_M1探査船 火星着陸方法の変更
同じ頃のM1探査船では、火星での母船から着陸機の切り離し、母船の軌道、着陸地点などについてハリコフから修正プランが提示されていた。
ハリコフ「・・・このM1探査船は火星の高度500km地点の周回軌道を確保する予定だった。」
「テセラックのような得体の知れない存在のことがなければ、我々も火星に着陸して14ヵ月探査にあたる・・・それが当初計画だったよな。」
武田「ああ、そうだ。」
ハリコフ「しかし、テセラックに母船を2度も撃墜させられたスキアパレッリの教訓に学ばなければならない。」
「・・・私は母船の待機場所を変更しようと思っている。」
真剣な表情で聞き入る度胸たち三人。
ハリコフ「それは衛星ダイモスだ!」
茶々「・・・ダイモスって、火星からの軌道半径が23,500kmでしょ。遠すぎないかしら。」
ハリコフ「いや、その遠すぎるってところがテセラック対策として有効だと思う。」
「それにダイモスには太陽光に常時照らされる場所がある。これは太陽光に電源を頼る母船にとっては好都合だ。」
武田「しかし、急に変更するってことは手動で着陸しなけりゃいけなくなるぞ。そんな訓練していない俺たちにできるものなのか?」
ハリコフ「心配ご無用。これはもともとロシアの腹案のひとつだ。」
「離着陸に必要なデータはすべてコンピュータにインプットしてある。」
度胸「火星の周回軌道上だと、着陸機の切り離しも任務後のドッキングも容易にできる。」
「だけど、ハリコフ。母船をダイモスに着陸させることになると、誰かが母船に残らなくちゃならないんじゃないか?」
*註:ロシア探査船の場合、着陸機と上昇機は同じ機体を使用するという設定。
ハリコフ「ああ、そのとおりだ。」「・・・私が残ろう。」
三人声をそろえて「エーッ」
ハリコフ「ロシアとの通信役として私が適任だ。」
「それに日本人同士のほうがコミュニケーションしやすいだろう。」
「この非常事態では一瞬の判断が命取りになることもある。」
「意思疎通のスピードは速ければ速いほどいい。」
茶々「でも、ここまで来たらあなたも火星の土を踏みたいでしょ?」
ハリコフ「心配するな、市原。私はダイモスの調査も重要だと考えている。」
「君たちがいない間は火星の衛星の成り立ちの謎を解くことに集中するさ。」
無理に笑顔をつくっているようにみえるハリコフ。
ハリコフ「問題は火星から離脱してダイモスまでどのようにして帰着するかだ。」
「我々の着陸機サムームは、高度1,000kmくらいなら問題なく帰還できる燃料を搭載している。」
「だが、ダイモスまでとなると搭載燃料だけでは足りない。」
「どうしたらいい?」
武田「そうか! アメリカのISPP(現地生産プラント)から燃料を調達しようってわけか!」
ハリコフ「そうだ。ISPPは1年半ほど稼働しているはずだから、サムームに補填できる燃料はあるはずだ。それを使おうと思う。」
「・・・いずれにせよ、火星には長居できそうにないな。」
scene_火星からの通信、再び
M1探査船の到着予定日があと2ヵ月を切ってからというもの、3日おきに交信を試みている火星モジュールだったが、この日ようやく交信が可能になる。
モニターにはチューニングしている電波の波形が映る。
――ジリジリ、ザーザー、チュイーン、ザーザー、チュイーン、チュイーン
だんだんノイズが少なくなっていく。
ブロンソン「おーい、二人ともここに来てくれ!」
「どうやらハリコフたちと交信できそうだぞ。」
その声にハッと作業の手をとめ、急いで駆けつけるブラッドレーと筑前。
ブロンソン「スキアパレッリ4号よりM1へ。応答願う。」「スキアパレッリ4号よりM1へ。応答願う。」
「ハリコフ、聞こえるか? オーバー。」
【場面スイッチ】
ハリコフ「こちらはロシア火星探査船M1のハリコフだ。やっと交信再開できるな。オーバー。」
火星の三人「やったーー!!」
ブロンソン「ああ、テセラックに大型アンテナを壊されて交信が不能になった。」
「こうして内蔵アンテナで通信できるようになるまでずっと待ってたんだ。」
ハリコフ「そういうことだったのか・・・」「無事を信じていたぜ。」
ブロンソン「・・・そうだな。だけど石田はもういない・・・」「テセラックの犠牲になった・・・」
顔が凍りつく度胸たち三人。
度胸「なんだって! くそぅ。」「石田・・・間に合わなかったか・・・」
筑前「石田の無念は俺が受け継ぐ。だが、それは復讐することじゃなく、テセラックを理解することだと思ってる。」
度胸「筑前、そのとおりだ。暴力の連鎖からは何も生まれない。」
筑前「それに俺はもう、テセラックにコンタクトした。」
「やつの内部を旅したんだ!」
驚くM1の四人。
【場面スイッチ】
茶々「そうよ、テセラックに意思や感情が伝わる可能性は坂井輪博士も否定しなかったの。」
「そして、重力がテセラックを刺激するかもしれないこともね。」
「あなたがやったことは、奇跡的に正しかったのよ。」
筑前「奇跡的っていうのはずいぶんな言い方だな、ハハハ。」
「でも、俺はギャンブルに勝った!」
度胸「筑前、それを口にするのは地球に帰り着いてからだ。」
「だけど、本当にすごいな。別の次元に入るなんて・・・俺にはそんな度胸はないよ。」
筑前「それだけじゃないぜ。俺は感じたんだ・・・」
「未知の物質の存在を・・・」