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解かれた氷の封印|女の哲学

  ヒマラヤで体験したこと。
  それはずっと封印していたこと。

  長い長い間、
  私の中でなかったことにして
  氷河のなかで永遠に凍らせた事。

  今になって取り出すと
  その意味がはっきりと分かる。
  年月というカギで呪いが解けたように。

  当時はまだまだ若かった私。
  女がただ一人
  男の修行者に混じって修行したとき
  どうしてもかなわないものがたくさんある。

  私の心は悔しくて鬼になり
  嫉妬心で夜叉になる。

  女であることを恨みながら
  そして女であることを持て余しながら
  ヒマラヤで過ごした日々。

  そして私は光を見失った。
  次々と現れる暗闇に疲れ果て
  私はヒマラヤを去った。

  それなのに日輪は後ろから私を見守り続け
  いつでも戻っておいでと
  優しく何度も語り掛けた。
  私は泣きながら耳を塞いだ。


  年月が過ぎ、様々な体験を経て
  そしてあなたと出会った。

  官能の喜びを知った時
  ヒマラヤから多くの贈り物をもらっていた
  という事実に驚愕した。
  私の身体はすでに
  ひとつという感覚を知っていたのだった。

  私はヒマラヤの大自然の中で
  ひとつであることを、
  そうとは知らず毎日体験していた。

  そのは全ての女性へのギフトであった。

  私は女の身体で
  ヒマラヤの全てと溶けあっていた。

  空気の薄い風を受け止め
  源流の冷たい水に流され
  真っ白雲を眺めながら
  いつもヒマラヤとひとつだった。

  倍音はエクスタシーの音
  虹色の霧は絶頂
  冷たい風は天の愛撫
  太陽の日差しは暖かい抱擁

  私は神の懐に抱かれ
  至福という恍惚の中
  女としてヒマラヤとまぐ合っていた。

  それは思考を超えた記憶。
  それでも身体は覚えていた。
  ひとつになるという感覚を。
  苦しみは心からの渇望だった。
  そこになないと誤解していたもの。

  闇と光は常に一つ。
  片方だけを手放すことはできない。
  片方を失くせば、両方が死んでしまう。

  私がヒマラヤで感じた救いようのない暗闇は
  とんでもない極みの光だった。

  未熟だった私は、そのことを知らず、
  暗闇だけにとらわれた。
  その辛さに、自分自身を放棄した。

  しかしその暗闇は光は
  私の中でずっと生きていた。

  そしてあなたの光に接したとき
  両方が蘇った。
  そしてあっという間に両方の意味が抜け落ちた。

  両極を完全に受け入れた時
  光が本当の姿を顕した。
  形となって。
  その時分かった。
  私はいつもひとつだった。
  神と。

  女の身体は全てを知っていた。

  女は考えなくとも、全てを体で記憶する。
  ただ流れ
  ただ今を生き
  その今という永遠の瞬間を
  常に内包する。

  今この瞬間を完全に感じる生き物だった。

  そのことを長い間忘れていたのに
  忘却さえも許される自由があった。

  その完全な自由の中で
  のたうち回り苦しみ、
  喜び笑い全てを忘却しようとした。

  それでも女の身体は覚えていた。
  自由というゆりかごの中で光は蘇った。

  もう一度あなたに抱かれることで
  氷河の中に封印したはずの記憶が溶けだし
  炎となって蘇った。

  その莫大な記憶は
  今の私を戦慄させる。

  わたしは知っていた。
  最初から
  あなたと
  ひとつだということを。

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(photo: ©MikaRin)







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美加りん 詩人
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