歌集:波と線
波も線だけれど波が線の時波は波ではいられずに線
ハワイ島は日本に近づいているが海溝に呑まれ消えてしまうと
トンネルがいずれくるけど今だけは風を浴びたい綺麗な海だ
満ちたときしか濡れない場所 引いたときしか行けない場所 その間広い
満ち引きがあるのは月のせいらしくならば許そう水際に立つ
寝転んで月を見るけど街灯が一番眩しい 取り留めも無い
ながれぼしに否定形で祈るほど燃え尽きて石塊になってしまった
誰のでもいいよ傘なんて長い目で見れば全てが循環する星
降り出した雨、振り出しには戻れずに留まることしかできない自転車
ビーサンで歩く三条河原町そこを近所と思えば近所
タクシーで誰も知らないところまで賃走が空車に代わるその時
もう僕は壊れてしまって直せないリコールされたらもっと壊される
悲しいねひかりの速さも分母には時間があるから古くなる「新」
触れてから熱いと感じるまでの熱 最新と新との間が必要
所有権がどの季節にもないような夜 行きたかったところに漸く行けた
本来はどこでもいけるドアだけど誰かが居ないだから行けない
はじめての大陸に来たみたいだった雨が好きだと濡れながら行く
バイバイと言うとバイバイバイと言う終わらせる気がないだろ じゃあね
大好きと愛を可視化する腕残酷だもう伸びない測りしか持ってない
12時間表記でいいよ言わずとも分かることなら言わないのが良い
中古車は年式によって値が変わり人は誕生日をわざわざ祝う
神様の存在を君に委ねてる無神論者になる日が怖い
とくべつがしたいとくべつがしたいただの友達と区別がしたい
何主義だとかは無いけど君がしゅき巫山戯た儘で愛させてくれ
ここはタイそれでも君がいるような気がして探す許してほしい
なんだってするしなんだってしないからきてよブランコで待つし待たない
最近は催眠術に凝っている だんだん僕を好きになる なれ
恋は毒 君か僕かが死ぬまでは気づかないふりしてウォッカを飲もう
一塁を蹴って二塁に来たけれどホームベースから一番遠い
君はオノヨーコになれるが僕はジョンレノンになれない 終戦も先
口癖はもともと誰かの口癖だ 気付きたくないことに気づいた
サーモグラフィーで映る君さえ愛しくてもしかして君を好きじゃないかも
死がないと人は生きてはいられない花を吊るそう恋人に死を
希望とはいつかは枯れるミモザさえ押し花にできる程度のことだ
自分にも水をやらなきゃいけないな枯れたらきっと二度と死ねない
カロリーのメイトは僕の友でなく1日20本食べなくちゃ死ぬ
作ろうとしたらこの味になりましたみたいなカロリーメイトのプレーン
納豆の糸も飛行機雲だから君は翼を持たなくてもいい
酒蔵の多い町では用水路の水さえ綺麗だ喉が渇いた
水さえも完全な無味ではなくて困る自販機よ2台続くな
希死念慮念慮があって死にたいと思ってる時一番生きてる
体験版のように首を吊ってみるここから先は有料なのか
殉職と言えばいつだってそうでそれは死なない理由にならない
マトリョシカいくつもいくつも取り出した最後の一つの中身は空洞
人を死なせた人の罰には死があってその構造を遡ってみる
死刑にも賛成多数の二組では僕は上履きを脱いで歩いた
僕たちは今日も隅っこで笑ってる小さな独裁社会の隅で
社会とは地歴公民倫政が全てであると教える社会
裏社会逆社会対偶社会どれか一つは真であること
何だって言葉にしようとしないでよ言葉の要らない国で歌えない