「さよならサンタクロースプロジェクト」をもう一度。
「サンタさんなんて、本当はいないんでしょ?」
子どもから突然聞かれたら、世の中の大人はどうやって答えるのだろう。
毎年12月になると、ネットを賑わす話題のひとつでもある「サンタ問題」。
子どもが幼い頃、大人はサンタクロースの存在を必死に刷り込もうとする。
しかしそのストーリーには「出口」がない。
「サンタクロースなんて、本当はいないんだよ」
この残酷な真実を、ただ文字通りに伝えるべきなのか。
なぜ、サンタクロースを信じさせようとしたのか。
大人が回答するためのヒントを、一緒に探してもらえないだろうか。
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私の母は、4歳の時に、戦争で父(私の祖父)を失った。
2歳下の妹と、お腹の中にもう一人の妹がいた母の母(私の祖母)は、
27歳で戦争未亡人となり、女手一つで必死に3人の娘を育て上げた。
父親のいない母子家庭。
疎開生活のなか、「家族行事」は限りなく質素。
誕生日ケーキもなくて、祖母がカボチャを煮るのがお祝いの食事だったらしい。
「家族行事」にずっと憧れていた母の思い入れだったのかもしれない。
都営住宅の我が家では、友達を呼ぶ誕生会をする余裕もなかったけれど、
なぜかクリスマスだけは、ちゃんとサンタクロースがやってきた。
トナカイにミルクとクッキーを用意する物語も知らなかったけれど、
手紙を書くと、クリスマスの朝に、プレゼントが届いていた。
包み紙の中身は、手紙でお願いしたものとはまったく違う代物だったし、
たまにサンタが忘れたのか、26日の朝に届くこともあった。
「きっとサンタさんも忙しかったのよね」
母の言葉を、そのまま素直に受け取っていた。
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あの頃、「カルピスこども名作劇場」というテレビアニメが流行っていた。
「アルプスの少女ハイジ」「フランダースの犬」「あらいぐまラスカル」など、いわゆる世界の名作を、本を読まずして知ることができる、魅力いっぱいの番組だった。
我が家は週末だけ、夕飯の時間が早かった。
さっさと食事を済ませて、週末だけはテレビを見せてもらえた。
土曜の夜は「8時だヨ!全員集合」、日曜の夜は「カルピスこども名作劇場」が定番だった。
「母をたずねて三千里」のなかに「アメデオ」という猿のキャラクターがいた。
番組の最後に流れるお知らせでは、カルピスを買ってシールを集めると、そのキャラクターのぬいぐるみがもらえるという魅力的な企画をアナウンスしていた。
しかしお中元かお歳暮でいただく以外に、カルピスが登場することのない我が家では、そんなシール集めには興味すらわかなかった。
その年のクリスマス。
わたしの足元(なぜか枕元でなく、いつも足元だった)に置かれた包装紙には、アメデオのぬいぐるみが入っていた。
サンタさんにお願いしたわけでもないのに。
なぜ西友の包装紙なのかも分からなかった。
アメデオはテレビで見るよりずっと可愛くなくて、抱っこしてもちっとも嬉しくなかった。
その後、台所の戸棚にカルピスのシールが入った箱を発見した時、私の「サンタ問題」は卒業式を迎えようとしていた。
きっと母が誰かにお願いしてシールを集めていたのだろうと想像できたのに、誰にも言えなかった。
ただ、母の愛とせつなさを感じた。
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「サンタクロースなんて、いないんだよ」
学校でみんながそう言い出し始めた頃、わたしも平然と答えた。
「そうだよね、いないよね」
どこかで信じていたい気持ちもあったのに、大人になりたくて、背伸びをした。
家に帰り、サンタクロースに手紙を書いたら、
クリスマスの朝、ちゃんとプレゼントが届いていた。
相変わらず、リクエストとは違うものだったけれど。
父は出張で不在、母は早朝から仕事に出ていた。
「うちだけには、特別に来てくれたんだ」
帰宅した母に報告すると、母は嬉しそうに微笑んだ。
それからも、ずいぶん長いこと、家では知らないふりをした。
母に気を使っていたこともあったけれど、
「信じる気持ちの大切さ」を、わたしは噛み締めていたのだと思う。
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2016年、冬。
絵本作家の幼なじみから、冒頭のプロジェクトが持ちかけられた。
ちょうど娘ちゃんが、サンタ卒業するかどうかという微妙な年齢。
いつか娘に問いかけられた時のために、と彼女が用意していた素敵なストーリーを、広く世界に届けたいという想いを繋ぎたいと思った。
フランスにいる友人に協力を仰ぎ、まずは日本語と英語とフランス語で。
猛ダッシュで走り出したプロジェクトは、クリスマスにギリギリだった。
映像も翻訳もスペルミスも、本当は直したいところがいっぱいだったけれど、クリスマスまでに届けたいと、リリースした。
これはひとつのヒントに過ぎなくて、きっといろんな伝え方がある。
サンタ問題で悩んでいるパパとママに、ひとつのアイディアとして贈りたい。きっと正解はないから。
(英語直したいけれど、久しぶりに公開します。↓↓↓)
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2020年、冬。
コロナで世界中が大混乱して、毎年恒例の「サンタコン」というイベントも
早々に中止が決定した。
「マスクをしていなかったトナカイが、コロナに感染してしまった」
そんな言い訳がまかり通る時代に突入してしまった。
ニューヨーク5番街のクリスマスライトも、例年よりグッと控えめで、
ロックフェラーセンターとサックスのライトアップだけが、頑張っている。
それでも、子どもたちへは、きっとプレゼントが届いたと思う。
我が家も「信じてるふり」をし続けてくれる末娘が、手紙を書いていた。
「すべての子どもたちに 目に見えないものを 信じる力を贈りたい」
それが、サンタクロースの使命だから。
もう一度、この動画を作り直したいと思いながら、2020年が暮れてゆく。
来年は、世界中の言語で、この物語を届けたい。
Happy Holidays to Everyone !!
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