開催中の個展「こまぎれの色どりたち」では、中尾は母親の嫁入りダンスの中身の模写を出品している。
10年近い前、彼女にインタビューした記事を見返してみた。中尾の制作への気持ちやスタンスはこの時と変わっていない。じっくりと対象に向かいつづける「模写」の仕事の気の長さと、そこから持続して彼女が得ている充実感の深さを考えた。
描く対象として加わったものは、5歳になった娘の成長がある。
娘が絵や折り紙、肌身離さず持っているタオル。過去と同様、目の前でみるみる成長してゆく娘の身辺も、やはり綿密に、心を入れて模写している。
場所をとっていた遺物は模写することで小さな巻物になり、その思いを残して、ものは処分することができる。後年、その絵を見た人は、この品物の所有者の娘の思いを受け取ることだろう。
デジタル保存はそのものを正確に残すことができるが、そもそも記憶や時間や愛着は「正確さ」とは関係がない。