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事件です。奴が、出たんです。



勘がいい人は、タイトルでもうお察しのことでしょう。

ええ。
ついに出てしまったんですよ、奴が。

築4年の我が家。
奴とは無縁だと、根拠なき自信があった。

しかし、出てしまった。
ついに。


就寝前、次男が急に叫んだ。


「あっ!!!!!!」


何事かと思い、指さす方向を見ると・・


はい。
いました。
ゆらゆらご自慢の触覚を揺らめかせながら真っ白な壁の上を歩いている


焦茶色の大きめサイズの奴が。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇやだやだやだやだやだ」


母、プチパニック。

息子たちは、興奮気味にきゃっきゃっしているが、2人ともなかなかの逃げ腰だ。


実は夕方、ヒカキンの部屋に、奴が出たというYouTubeを見ていたばかり。
2人とも大爆笑しながら見ていたが、いざ自分の家に出たとなると、かなりビビっちゃってる。


ただならぬ母の様子に、次男が怯え始め、繋いだ手が冷たい。



「無理無理無理無理」

私は、奴が、大の苦手だ。
もう、ほんと、無理。


小学生の頃、ブーンとこっちに飛んできて、避けたら避けた方に飛んできて(きやがって)、おでこに当たったことがある。
恐怖でしかなかった。
あの、コツッと感が今もおでこに残っていて、思い出しただけでも鳥肌が立つ。


なぜ、奴は、飛ぶんだ!!!


私の母は、こんなのどってことない!と言って、スリッパでパーンっとできる人だった。

私は・・・


無理無理無理無理そんなん無理ー。


ビビる私と子供たちの前に、帰宅直後の夫が静かに現れた。


牛乳パック片手に。


「牛乳パックってーーー」


思わずツッコミを入れたが、夫の目は至って真剣だ。



彼は、本気だ。


ごめん!
牛乳パックに反応してしまってごめん!


牛乳パックを持ちながら、そーっと奴に近づく夫。
部屋の隅の方で身を寄せながらビビる私たち。


牛乳パックの中におびき寄せようという作戦だ。
夫曰く、奴の動きが鈍いらしい。


夫 vs  焦茶色したアイツ


頑張れ我が夫!
家族に平穏な夜を取り戻すんだ!!!


汗だくの夫。
奴の前に牛乳パックの入口をチラつかせるが、なかなか入ろうとしない。


「入口が小さいな・・・」


夫は牛乳パックを諦め次に手にしたものは、


A4サイズの茶封筒だった。


「封筒ってーーー」



私はまたツッコミを入れてしまったが、ハッとして、慌てて口をつぐんだ。

なぜなら、夫の目は、獲物を捕らえようとしているハンターそのものだったからだ。


ごめん!
またまた封筒に反応してしまってごめん!


再び夫は、奴にそーっと近づいた。

ピーンと張り詰めた空気が部屋の中に漂う。


ゴクン。


・・・・・・


!!!!!!!!!!!!!


奴が入った!
茶封筒の中にまんまと入ったぞ!
作戦成功!

おおお!!!!!!!
拍手喝采!
でかした我が夫!!!!!


再び私たち家族に平穏が訪れようとした


その時!


茶封筒から、いきなり奴が、奴が、飛び出してきたのだ!


オーマイガー!
なぜ、なぜ、奴は、飛ぶんだ!!!

夫が、本当に茶封筒の中に入ったかどうか確認しようとしちゃったもんで。

さすがの夫も驚いて「うおっ」と声が漏れた。
奴を避けた拍子にバランスを崩し、長男のLEGOの作品を踏んづけて壊してしまった。


「あー!僕のLEGOがぁぁぁぁ」


しかし、長男には申し訳ないが、そんなことに構ってられない。


なんてったって、1番恐れていたことが起きたのだから。


それは、


奴を見失うことだ!


これほどの恐怖はない。


「どこ飛んでった?」

「カーテンの方に飛んでった気がする」

「こっち?」

「そこそこ!なんかその辺の裏に行ったような」


カーテンをめくる。

いない。

どこだ!どこいった!出てこい!

見失うとかマジでヤメテ。


ソファにもいない。

どこにもいない。


もう、コレ、恐怖でしかないやろーーーーー
このままじゃ眠れないやろーーーーー


壁を叩いてみる。

出てこない。

不意に、LEGOのボックスをどけてみる。


「いた!」


夫が叫ぶ。


「今度こそ絶対逃さいで!!!!!!!!!」


と、ものっすごい遠くから叫ぶ妻。



「あれ持ってきて!!殺虫剤ある??早く!」

「はい!!!!!」


私は、収納を確認する。


げ。
蚊・ハエ用のアースジェットしかない!


「もうなんでもいいからそれで!」


走ってアースジェットを夫に手渡し、一目散で逃げる妻。


奴に、アースジェットをかけまくる夫。


その勇姿を前に、私は息子たちに言う。

「お父さん、頼りになるね」

頷く息子たち。


そして、


弱った奴を茶封筒に入れ、新聞紙でくるみ、


んああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!


と、夫は奴にとどめを刺した。


今度こそ、我が家に平穏が訪れた。


その夜。


寝床で興奮冷めやらぬ息子たち。


次男「ヒカキンで見てたら、本当に出てきたねー!」

長男「なんでぇ、人は嫌がるんだろう。
何もしないのにさ。そもそも、名前がよくないよね!・・・コキプリとかさ!可愛いんじゃない!あと、色もよくない。もっと、、エメラルドグリーンとかさ!」

次男「虹色とか!」


あんなにビビっていたくせに、盛り上がる2人。
想像してみる母。


・・・・・


無理無理無理無理。
エメラルドグリーンとか、虹色とか、
奴が奴である限り、無理だわー。


その日から、家中にブラックキャップを設置した。


しかし、そのブラックキャップにビクッとなる母。

カブトムシのおもちゃが床に落っこちているのにもビクッ。
ただのゴミにもビクッ。

夫のふと壁を見る目線にも、ビクッ。


ひとり、ひたすらビクビクしている。


奴の影響力って凄まじいな。

何にも害ないのにね。
ただ、歩いているだけなのにね。


奴には悪いけど、


お主だけは、無理だわー。


友だちが言ってたけど、ファブリーズが奴には効くとか?

本当かな。

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