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息子が突然「学校に行く」と言い出した


息子の「その時」は、いつも突然やってくる。


息子は、小学2年生。
学校に行かなくなってから約1年半が経とうとしている。今は、週2、3回フリースクールに行ったり行かなかったり。


その日の朝も、いつも通りフリースクールに行く準備をしていた。行くかわからないけど、とりあえず準備だけ進めておく。

先日、私はnoteに本音を叫んだばかりだ。(記事「本当は、叫びたい」)

みなさんからのコメントで私の中に優しい色が戻り、朝から比較的落ち着いていた。

「やっぱり行かない」って言うかもしれない。その心の準備はしておこう。うん。行かないかもしれないけど、それでもオッケー。自分に言い聞かせる。もし、フリスク行くことになり私と離れられたら、買い物と銀行に行こう。


自分の中で2つのパターンを準備しておく。


「じゃあ、行こっか」


いつも通り、声をかける。
なるべく、穏やかに。


息子の顔つきが曇る。


今日も、やっぱ行かないか、、。
ま、いーや。


私の脳内で「行かない」というパターンにシフトしようとしたその時、

「学校行きたい」


へ?

まさかの「学校」だ。
ちょっと待って。
そのパターンなかったんですけど。


息子はいつも予想外のことを言ってくる。


しかし、ここで動揺を見せてはならぬ。
私は平静を装いながら「あ、そうなんだ。オッケー」と、軽く受けこたえした。


こんな風に、息子の「その時」は、いつも突然やってくる。


「先生に電話して準備するからちょっと待ってて」


脳内で「学校に行く」パターンに急いでシフトする。えっとえっとぉー。


急げmika!!!


なぜ、そんなに急ぐかって?
繊細っ子を持つ親ならばおわかりでしょう!


そう、彼らは、一瞬にして気が変わるからだ。

さっきまで「行く」って言ってたのに、もう、こちらが一瞬よそ見した瞬間に「行かない」に変わってしまう。
え、今の一瞬に何があった?って、何度も経験してきた。


次にいつ「その時」がくるかわからない。

だから


急げmika!!!



「荷物どうする?リュックで行く?ランドセル?それともお母さんが持つ?」


こたえはまさかのランドセル。

クローゼットにしまっておいたランドセルをひっぱり出す。
ああ、やっぱりランドセル見ると、胸の奥がぎゅーっとなる。ランドセル姿、また見られるのか。嬉しい。傷ひとつないランドセルを見ながらそんなことを思っている、、、


暇はないぞ!


急げmika!!!


次はなんだ?
上靴だ!
サイズ!
サイズは大丈夫か?

前回からだいぶ日が経ってしまったのでサイズが気になったけど、もしこれでサイズが小さくなっていたら、そこで気持ちが落ちて「行かない」って言い出すかもしれない。

私は脳内で起こりうるパターンをイメージした。


結論、サイズ確認スルー!
もし小さくなってたら踵を踏ませりゃいい。


次は何だ?
ボトルだ!
急いで麦茶を入れる。
付き添う私の分も忘れずに。


チラッとテレビを見ながら待っている息子を確認する。顔つきは穏やかだ。
しかし、油断するな。テレビに引っ張られると行かなくなるぞ。


だから


急げmika!!!


先生に今から行くと連絡を入れ、いざ!!!


ぜーはー
ぜーはー


「さ、さぁ!行こう!」


もう気持ちは「学校に行く」一色になってるようで、すぐにテレビを消した。


ホッ。


さて、ここからあの儀式が始まるぞ。


「貝殻持っていくー。あと、これも。あ、これも。あと、プラモデルも見せたい。あと、マイクラブロック先生と作りたい。あと、ポーラちゃん(くまのぬいぐるみ)も」


あれもこれも持っていくの儀。

うんうん。持っていきましょうや。今日は車で行くフリスクと違って徒歩だけどね。お母さんインフルエンザの予防接種したばかりで左腕腫れてるけどね。いいんです。そんなんいいんです。


お持ちしましょう!


どこ行くねん!ってくらいの大荷物を担いで、私と息子は学校に向かった。


ピカピカのランドセルを背負った息子。
ちょっと照れくさそう。
嬉しい。


学校に到着。
息子は下駄箱がある所からは入らない。
個別級は中庭に面していて、いつもその中庭から教室に入る。
私が窓をコンコンとすると、担任の先生が来てくれた。
息子は背負っていたランドセルを窓のすぐそばの机に置き、中庭にある砂場へと行ってしまった。
どうやら教室には入らない模様。


砂場で砂を掘り出す息子。


私は、そばでその姿を見守っていると、


「ほら!お母さんも掘って!」


と、喝が入る。
ですよね、、。


私も、スコップを持ち穴を掘る。
息子と一緒に、穴を掘る。
掘って
掘って
掘りまくる。


おそらく、人生で今が一番穴掘ってる。


40代になって、まさかこんなに穴掘るとは思わなかった。
腰が痛い。
人生まだまだ何が起きるかわからない。
と同時に
私、何やってんだろ、、。
って気持ちがチラつく。


ようやく先生が来た。
中休みに突入し、その後3限目は個別級の「生活」の授業で、砂場で遊ぶことになっていたらしくタイミングがよかった。
中休みが終わり、個別級のみんながやってきた。
やっと穴掘りから解放され、ホッとする。

初めましての1年生の男の子が、「この人だぁれぇ」と聞いてくる。息子は私をチラッと見てニヤニヤしていた。嬉しそうだ。
同級生の男の子も「◯さんだー!」と嬉しそうに話しかけてくる。息子、無言。でも、嬉しそうだ。


嬉しいよね。
嬉しいよね。


続けて、初めましての女の子が息子のところに来た。


「あなた、お名前なんていうの?」


お?
なかなかのキラキラテンションだぞ。
砂場のプリンセスの登場か?


「ねぇ、あなた、お名前なんていうの?」


グイグイくるプリンセス。
無言で穴を掘り続ける息子。

プリンセスは息子の顔を覗き込み、


「穴を掘っているの?あなたのお名前は?」


諦めないプリンセス。
穴を掘る息子。


頑張れプリンセス!


「ねぇ、ねぇ、お名前は?おーなーまーえーーー」


諦めないプリンセス。
穴を掘る息子。

「○さんだよ!」と、同級生の男の子が遠くから叫ぶ。

「○くんっていうの!素敵なお名前ね!」


息子の耳が赤い。


この2人、可愛すぎる。
私はニヤコラしていた。

「ねぇ、あなた、穴を掘っているの?私も一緒に掘っていいかしら。わぁ!すごい大きな穴ね!掘りましょう!奥深く掘りましょう!○くん!私と奥深く掘りましょう!


その後もプリンセスはずっと息子に話しかけている。

「○くんが掘っている穴、とっても美しいわ!素敵よ!もっと奥深く掘りましょう!


プリンセスはその後も「奥深く掘りましょう!」を連呼する。


私は、だんだんプリンセスの「奥深く掘りましょう!」が気になってきた。


「わぁ!○くん!だんだん深くなってきたわ!でも、もっともっと奥深く掘りましょう!


ダメだ、プリンセスの「奥深く掘りましょう!」が完全に私のツボに入ってしまった。


すると、ついに、息子が口を開いた。


「・・奥深くって言い過ぎ」


私にしか聞こえない声でそう呟いた。


プリンセス!!よくやった!息子の心が開いたぞ!私は心の中でプリンセスにグッジョブサインを送った。


その後も2人は、奥深く、奥深く穴を掘り続け、ついに


カチッ


「あっ!先生ーー!1番下まで到達したー!!!」


息子が大きな声で叫んだ。
穴を掘り続け、なんと、砂場の1番下まで到達しちゃったのである。


「やったわ!○くん!2人で力を合わせて奥深く掘ったからだわ!やったわ!やったわ!」

プリンセスが嬉しそうに拍手をしている傍で、息子は照れくさそうに笑っていた。


駄菓子菓子、プリンセスはまだまだ攻めてくる。


息子がだいぶまわりと打ち解けてきて、同級生の男の子とどことどこを繋げるか話し合っていた。


その時である。


「なんのはなしをしているの?」



え。
プリンセス、今、なんと?


この言葉に私のときめきセンサーは瞬時に反応した。


「ねぇ、なんのはなしをしているの?私にも教えて」


プリンセスは、息子と同級生の間に割って入った。


ああ、プリンセス、ありがとう。
付き添い登校で穴を掘り、何やってんだか、と落胆していた私の心に、思いもよらないときめきをプレゼントしてくれて。
ありがとう。
私は心の中でお礼を言った。


「マーメイド島を作ったらどうかしら!◯くん!いい?ここに、ここにマーメイド島を作りましょう!」


プリンセスは息子たちの計画を完全にスルーして、「マーメイド島」を提案してきた。
勘弁してくれ、と言わんばかりの表情で私をチラ見する息子。


私はプリンセスの「奥深く掘りましょう」に次ぐ名言を期待していたが、ここでチャイムが鳴ってしまった。


先生が終わりの合図をみんなにする。
みんなは、手を止めてあっという間に教室に入って行った。


この時、息子が綺麗な小さい石を見つけた。


「先生!これ!綺麗な石見つけたー!」


息子が小石を手のひらにのせ、手を高く上げた。
先生は、忙しなく「持って帰っていいよー」と、遠くから叫ぶだけだった。


手を高く上げた息子の背中が、寂しそうだった。


「お母さんに、見せて」


息子は私の手のひらに小石を置いてくれた。
いろんな模様といろんな色した小さな石が2つ。


「とっても綺麗だね」


私はその石をIDケースの中に大切にしまった。


先生が息子にも声をかけるが、息子は引き続き砂遊びをすることを選んだ。
プリンセスが息子のところにやって来て、


「いい?ここ!ここにマーメイド島を作っておいてね!!」


と言い残し、軽やかに去って行った。


「もう、マーメイド島って何」

また、息子と私の2人になった。
さっきまで騒がしかった砂場が、とても静かになった。


息子は1人、砂場で遊んでいた。


みんな、チャイムが鳴ったらすぐに教室に入って行ったなぁ。
私も小学生の頃、それを当たり前にしてたんだよなぁ。
なんとも思わなかったんだよなぁ。

でも息子と日々向き合っていたら、その当たり前が当たり前じゃなくなってしまった。

やることが全部決まっていて、時間で区切られてて。水を出すタイミングも全部指示されて。砂遊びなのに「汚れるよ」と注意され。


先生、一度も息子の見つけた石、見なかったなぁ。


仕方ない。時間が決まっているし、チャイム鳴っちゃったし。
でも・・・


『素敵な石を発見したから先生に見せたい』という、息子の気持ちはどうすればいいんだろう。

その小さな「寂しい」の積み重ねと、注意と指示ばかりの時間が、1年半前の息子の気力を取り去り、息子は外に出られなくなった。


息子にとって、「学校」とは。



給食の時間になり、別室に息子の給食を準備してくれていた。
別室に息子と私と先生の3人。あと、たくさんのぬいぐるみが置いてあった。
ぬいぐるみが好きな息子のために先生が用意してくれたのだ。
給食のいい匂いがする。
私の給食は、ない。
持ち込みもダメなので、ヨダレを垂らしながら息子が食べているのをただ見ている。

じーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

美味しそう・・・。


給食が終わり、掃除と昼休み。
教室の外からガヤガヤ子供たちの声が聞こえてくる。
息子は「ちょっと様子見てくる」と言って、1人で別室を出て行く。
戻ってきたと思ったら、持参した貝殻を持ってまた出ていく。

私の手を一度も引かずに。


息子の成長を感じた。
ほとんど家にいるのに。
いつの間にか。


結局下校時間まで学校に居続けた。
一度も「帰る」と言わなかった。
先生が、幼馴染のHちゃんに声をかけてくれていて一緒に下校することになった。
Hちゃんの他にも同級生が5、6人いた。
みんなでわらわらと下校する。


息子が私の手をギュッと握るのがわかる。


「○くん、ランドセル背負ってるー!かっこいいーーーー!」


と、Hちゃん。
チラッと息子を見ると、

鼻の下を伸ばしながら照れていた。


「誰ーーーーー??」


と、ある男の子が息子を見て話しかけてきた。
黙る息子。


「お前と同じクラスの○くんだよ!!!知らないのかよ!!!」


と、Hちゃん。


私は、Hちゃんの「お前」と「のかよ!!!」に、びっくらこいた。


そこには、私が知っている幼稚園時代のHちゃんの姿はなく、小学校という荒波に揉まれ逞しくなった小学2年生の女子の姿がそこにはあった。

別の女子が、


「てめー!何やってんだよ!」


と言って、体操着袋をブンブン振り回して、男子を笑いながら追っかけている。
ゲラゲラみんなが仲良く笑っている。
もちろんHちゃんも。


その真ん中で、手を繋ぎながらビビる親子。


小学生ってこんなにパワフルなのか。
この小学2年生達の荒波の中、私たちは手を繋いで小さくなりながら下校したのだった。


帰宅し、再び考える。


息子にとって、「学校」とは。

時間通りにみんなと同じように動き、決められたことをする。
それらが苦しくて仕方がない息子。

この環境で息子の心は豊かに育つのだろうか。

私はそんな風に思ってしまうけど、砂場で遊んだ時も給食も下校時も、息子の表情はとても明るく楽しそうだった。
「学校」に行き、「友達」と遊べたのが楽しかったのかな。
モヤついているのは、私だけ。
息子が楽しければ、それでいいんだろうか。


息子と毎日一緒にいて息子を見ていると、全く他に流されないその姿を肌で感じる。
僕は僕だと。

「学校に行かない」

他と違うことをする勇気なんて、私にはなかった。

とても繊細ではあるけど、見方を変えれば、自分の信念を貫く強靭なメンタルの持ち主なのではないだろうか。


そんな息子を私は誇りに思う。


なーんて、またかっこいいこと言っちゃって。
先日記事で叫んだくせに。
私の心も忙しい。


あんなに楽しそうに学校で遊んでいるように見えたけど、「また学校行く」とは言わないし、フリスクにも行き渋るようになっている。
珍しくソファで寝てしまうし。

たった数時間学校で過ごしただけだけど、結構エネルギーを使ったのかな。


学校でも
フリースクールでも
なんでも


ワクワクする方へ。


前回の「その時」は5月だった。
次の「その時」はくるのだろうか。

私はランドセルをクローゼットにしまい、そっと扉を閉めた。


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