【小説】母だって静かに本を読みたい
みよ子はどことなく体や心の異変を感じて、今までと同じことをこなせなくなってきたことにふと気がついた。振り返ればそれは40歳を過ぎた頃からであった。
30代の時と同じように「あれもしなきゃ、これもしなきゃ!」と、考えてはいるのだが、なんとなく記憶力の低下やカラダの疲れからか、不安になったりイライラしたり、頭痛がしたりするのであった。
みよ子はそれに気がついたから良かったのではないだろうか。気が付かずに若い頃と同じようにがむしゃらに頑張っていたら本当に体を壊していたかもしれない。
「今まで家事と子育て中心で頑張ってきたけど、疲れちゃったの。少しくらい好きなようにしても良いよね?」
夫にそう言うと、夫は「いいんじゃない?」と、関心があるのかないのかわからないような返事をした。みよ子は自分を甘やかしてみようと思った。
「是非、そうしろ」と言ってくれれば、気兼ねなく好きなように出来るのに、いいのか悪いのかわからないから罪悪感はあったが、みよ子は罪悪感を払い退けて先ずは小さなことから自分のやりたいことを始めてみようと思った。
「穏やかに本を読みたい」家では色々なことが気になり集中できないから金曜日の夜に子供を夫に任せて1人でカフェに行った。1杯500円もする贅沢なコーヒーの香りとそのカフェの空間は家事と仕事と子育てで慌ただしかったみよ子にとって、これ以上の至福なひとときはなかった。どうしてこんなに簡単なことが今まで出来なかったのだろう?みよ子は子供と留守番している夫に感謝しながら、週末の夜を1人静かに過ごした。
そして、40代は真面目過ぎた自分を崩していこう、周りに何を言われようとも心の奥底で秘めていた自分のやりたかったことを、思っているだけでなく実行していこうと決めたのだった。