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レトロな空間でこだわりのコーヒーを。地域に根付く調布市仙川のカフェ「siphony coffee」
芹口大輔さん
東京都世田谷区出身・調布市在住。首都圏を中心に展開している喫茶店「椿屋珈琲」(以下「椿屋」)で約8年、国領(調布市)のベーカリー2店舗で1年半、合わせて約10年間修行を積む。「子育てをしながら地域に根付いた形で働きたい」という想いから、2019年10月、調布市仙川町に妻の陽子さんとsiphony coffeeをオープン。看板メニューはサイフォンで淹れるスペシャルティコーヒーと全粒粉を使ったパン。
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「子どもの成長を見守りながら、地域に根付いた働き方を」地元・調布市にカフェをオープン
ーー芹口さんは、都内の喫茶店とベーカリーで計10年間修行をされていたんですよね。最初はどのような経緯で喫茶店で働くことになったのでしょうか?
最初からコーヒーに興味があったわけではないのですが、本を読むことが好きだったので、学生時代に読書をするときなどによくカフェを利用していました。そのなかで「お客さんが思い思いの時間を過ごす、居心地良い空間づくりに関わってみたい」という気持ちが生まれ、学生時代にチェーン店のカフェでアルバイトを始めたのがひとつの原点です。
大学卒業後は、新卒でカフェとは全然関係のない、注文住宅の営業の仕事に就いていました。お客さんに理想の家をヒアリングしながら家を建てる、楽しい仕事だったのですが、なんと入社から半年で会社が倒産してしまったんです。そこから自分の進路を見つめ直して、大学時代に経験したカフェの仕事に関わってみることにしました。
勤務先を選ぶにあたっては、ただコーヒーを飲むだけが目的ではなくて、飲食する時間も楽しめるようなお店に魅力を感じていました。例えば同じコーヒーでも、ばたばたと朝の支度をしながら飲むのと、おだやかな空間の中で時間に余裕をもって飲むのとでは味の感じ方が全然違いますよね。椿屋はコーヒーの味だけではなく、サイフォンでコーヒーを淹れるスタイルや、店内のレトロな雰囲気も付加価値として楽しんでもらう喫茶店です。そんな居心地の良い空間づくりに携わりたいなと思って椿屋で働くことにしました。
ーーその後、8年ほど働いていた椿屋から独立して、自分のお店をオープンしようと思ったきっかけを教えてください。
大きなきっかけとしては、子どもが生まれて生活リズムが変わったことです。妻とは椿屋時代の同期で、今は小学校1年生と3年生になる2人の息子がいます。2人目が生まれたタイミングで、子どもを育てながら自分の住む町との関わりをもって、地域に根付いた形で働きたいと思ってお店を持つことを考え始めました。
妻は妊娠を機に退職したのですが、当時の店長から送別の品としてホームベーカリーをもらったんです。僕は子どもが生まれる前までは夜まで働いていたのですが、生まれてからは夜早く寝て深夜2~3時に目が覚めるようになったので、早起きした時間にホームベーカリーを使って朝食用にパンを焼き始めました。これが、現在お店で提供している自家製パンの始まりです。
それから椿屋で働いている間に、コーヒーのコンテストに出場させてもらう機会が何度かありました。ある大会では、自分でオリジナルブレンドを考えて、「こういう意図で、この産地の豆をこれくらいの焙煎度合いで仕上げたものをご用意しました」というプレゼンをしたり、別の大会で創作ドリンクを作ったりしたこともあります。コーヒーにあまり詳しくなかった僕も、コンテストへの出場をきっかけにだんだんとコーヒーの世界に引き込まれていきました。その経験から、自分のアイデアを表現してお客さんに提供したいという想いを持つようになったのもお店を持ちたいと思った理由のひとつです。
椿屋を退職してからは、国領のベーカリーで働きながら経営に関するセミナーに参加したり物件を探したりして準備を進め、ちょうどタイミング良く今の物件に空きが出たことを知りました。そして2019年10月、仙川の地にお店をオープンすることができました。
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「お店でしかできない体験を」こだわりのサイフォン式コーヒーと自家製パン
ーーお店のコンセプトやメニューのこだわりについてお聞きしたいのですが、お店の看板メニューとして、サイフォン式のコーヒーや全粒粉を使った自家製パンを選んだのはどういう理由でしょうか?
せっかくお店にコーヒーを飲みに来てもらうなら、お店でしか体験できないようなものにしたかったんです。サイフォン式コーヒーはやろうと思えば家でもできるけれど、器具を揃えるのが大変だったりかさばったりして、ハンドドリップほど気軽にできません。
また、待っている間に見て楽しめるのもサイフォン式コーヒーの魅力です。フラスコを熱してお湯を沸騰させ、その上に設置したロートにフラスコ内のお湯を蒸気圧を利用して押し上げ、そこでコーヒーを抽出する。注文してからでき上がるまでの過程が視覚的にわかりやすく、幻想的な光景です。
とはいえ、こだわりを押しつけたりはしないので、あくまでお客さんそれぞれの過ごし方で楽しんでもらえればいいなと思っています。
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自家製のパンについても同様で、ここでしか食べられないものであれば、それを目的にお客さんも来てくれるのではないかなと。全粒粉は香ばしくて麦の香りが立ちやすく、ぷちぷちとした食感が面白いのが特徴です。コーヒーの香りにも負けず、トーストするとよりおいしく感じられます。たまたま、お店の近くにスポーツジムがあるので、健康意識の高い人にも支持してもらえるかもしれないと思いました。
パン屋では1年半ほど製造の仕事を経験しましたが、1年半では到底及びもしないほどパンの世界って奥深いんです。お店の規模的にも扱える種類は限られますし、だからこそ、差別化を図るためにも全粒粉のパンをお店の看板商品として作り上げていきました。そして、パンとコーヒーを結びつけることで、モーニング、ランチ、ディナーと、日常の色々なシーンで楽しんでもらえるようにしています。
それから、地元に貢献しながらお店を営業していきたいと思っていたので、近隣のお店との関わりも大事にしています。惣菜パンのなかで人気が高い「サイフォニードッグ」というホットドッグに使っているウインナーは、隣町の世田谷区成城にある城田工房さんから仕入れています。オープン時に契約して野菜を仕入れていた地域の農家さんとは、コロナ禍で仕入れが少なくなり関係が切れてしまったところもあったので、ゆくゆくは関係を復活させて地産地消にも力を入れていきたいですね。
「豊かでかけがえのないひとときを過ごしてほしい」
ーー今年の10月でオープンからちょうど3年が経ちましたが、とくに印象に残っていることはありますか?
新型コロナの感染拡大で一番最初の緊急事態宣言が発令されたのが、2020年4月でした。2019年の10月にオープンしてから、毎月少しずつお客さんが増えていき、軌道に乗ってきた頃のことです。
緊急事態宣言下で、そもそもお店を営業するかどうか、営業するにしてもテイクアウトだけにするか。前例がない事態のなかで自分たちはどうするか、色々考えて決断しなければいけませんでした。その頃は世間的に飲食店を営業しにくい雰囲気があり、ちょうどお店の外装工事による騒音なども気になっていたので、試しにテイクアウトだけで営業してみました。それまでテイクアウトでの利用はあまりなかったので正直どうかな?と思っていたのですが、やってみたら思いのほか需要がありました。
「お店は大丈夫ですか?」と気にかけてくださったお客さんもいらっしゃり、その頃のお客さんは今も継続して来てくれています。お客さんと一緒に危機を乗り越えて、より距離が近くなったと感じています。コロナの影響は必ずしもマイナスだけではなかったです。
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ーー日々どんな想いで営業されていますか?
飲食業界の専門誌を読んでいたときのことです。桜上水にある「メガネコーヒー」というお店の記事で、オーナーの方が「自分でパン焼いてコーヒーを淹れて、それができると暮らしが豊かになる」と言っていて。実際に、僕もホームベーカリーでパンが焼き上がる時間に合わせてコーヒーを淹れ、家族が起きたときにパンとコーヒーを用意してみたんです。すると家族の機嫌が良く、気持ち良く一日のスタートを切れることに気づき、とても共感するものがありました。
僕は営業中、ほとんどの間お店に立っているけれど、お客さんが滞在するのはおよそ1時間〜1時間半。来てもらうのが当たり前ではなく、せっかく来てくれたその時間が、その人にとっての豊かな時間となり、一日の中のかけがえのない時間になればいいなと願っています。
ちょっとした息抜きでも気分転換でも、思い思いの時間を過ごしてほしいです。
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ーーこれからやりたいことがあれば教えてください。
時間が足りないくらい、やりたいことが本当にたくさんあるんです!
もっと多くの人に届けたいという想いがあるので、まずイベントでの催事出店。そしてパンの種類を増やしたり、焼きたてのパンを届けたりするためのパン工房を作りたいです。今はお店の設備が小さく、パンやお菓子を焼ける量がどうしても限られてしまうので。
あと、仙川は個人経営のコーヒー屋さんが多い街なので、それぞれのコーヒー屋さんが自分のお店のオリジナルのコーヒーを持ち寄ってフェスなんかもできたら楽しそうですよね。
ドリップだったりエスプレッソだったりフレンチプレスだったり、お店によってコーヒーの淹れ方も個性があるので、チケット制にして5~6種類を飲み比べたりしたら味の違いがわかってより楽しんでもらえると思います。
それから、季節ごとの商品を充実させていきたいです。定番商品に加えて、ハロウィンやクリスマスなどで限定商品を出したり。常連さんが多いからこそ、ちょっとした変化を楽しんでもらえるようなお店にしていきたいと思います。
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siphony coffeeのInstagramはこちら↓
https://www.instagram.com/siphonycoffee/
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