ルーベンスを公開修復しているアントワープ王立美術館~KMSKA in Antwerpen
オランダとベルギーの規模の大きな美術館のトレンドとして、公開修復がひろく行われるようになってきました。
これまでも、美術館の奥まったところにある修復室の一面に窓を設けて中の様子を見せたり、決まった時間に修復中の作品を展示室に出して修復家が来館者からの質問を受け付ける時間が設けるなどはされていました。
しかし、最近では修復の現場そのものや作業の様子を積極的に公開しています。たとえば、展示室の一部を区切って修復室(修復場所)にして、来館者が修復家がしている実際の作業を見られるようにするなどです。
よく知られているところだと、オランダのアムステルダム国立美術館が所蔵するレンブラントの《夜警》は2019年から展示室内での修復を続けていますし、
オランダのデン・ハーグにあるマウリッツハウスでは今年からパウルス・ポッターの《牡牛》の公開修復が始まっています。
修復とは違いますが、マウリッツハイス美術館だと、美術館の修復家が行った2018年にフェルメールの《真珠の耳飾りの少女》の科学調査も一般公開されていました。
美術館内部で行われている修復やそれにかかわる科学調査をオープンにして、美術館の裏で行われている作業をひろく来館者に紹介しようとするのが近年のトレンドだと言えるでしょう。
上の写真は、「ルーベンス・プロジェクト」と銘打たれている、ベルギーのアントワープ王立美術館でのルーベンス作品の修復作業の様子です。
展示室の一部を区切り、そのなかで額を外して横向きに寝かせたルーベンス作品の修復作業を行なっています。
作品の両側に設置された、背の高いバナーにはこのプロジェクトに出資したスポンサーのロゴがあります。
文化芸術分野を存続させるためには、資金が必要です。一館の予算だけでは不足するので、こういう活動は必要だと思います。
作業場所の周りをぐるっと低い台が囲んでいます。
作品について知ることができる大きな本。
修復作業に使われる道具。
左のコットンは、実際に作品の表面の汚れをぬぐったものです。こんなに汚れているんですね。真っ黒!
台の周りの床に貼られた「修復作業中につき、お静かにお願いします」と書かれたテープ。
そして、今日の修復作業でなにをしているかお知らせするボード。
このボードは3月に訪れた時のもので、「ワニスの除去」作業中と書かれています。
3月に訪れた時は、上の写真のように画面表面全体にかけられているワニス(油)の除去作業中でした。
下半分は古いワニスが残っていて黄色く濁った色をしています。一方、上半分はワニスの除去が済んで、黄色いくすみがなくなって爽やかな色味です。
ワニスを除去すると表面の光沢がなくなって色褪せたように見えたり、色があまりに変わっているので絵の具を剥ぎ取ったんじゃないかと心配する人もいますが、これがワニスの下に隠れた本来の色です。
7か月後の10月の様子。表面のワニスはすでに全て除去されて、もうすこし細かな作業に移っているようです。
作品の上下の向きも変わっていますね。
聖母マリアをアップで写すとこんな感じ。
ワニスを除去したりオーバーペイント等を除去すると、以前の暗い画面では見えなかった絵の具の剥がれなど、絵画が負っているダメージが露わになります。
上の写真では、聖母マリアの左肘から台座にかけて白くうねった線が見えます。なんらかの理由で絵の具が失われている箇所です。これだと鑑賞の妨げになるので今後の作業で補彩をし、ルーベンスが描いた当時の画面に近づけていきます。
再びアントワープ王立美術館を訪れた時にはまたどれくらい修復作業が進んでいるか、楽しみです。
おまけ
上の写真はアントワープ王立美術館の修復室です。美術館の2階の一番奥にあります。
修復室の一面の壁がガラス張りになっていて、中を見ることができるようになっています。
手前のイーゼルに乗っている作品はアンソールの作品です。すごく黒く見えますが、修復後はアンソール没後75年を記念して開催中の「アンソール」展に展示中の作品と同じように美しい色彩を放つようになるんだと期待しています。
アントワープ王立美術館
KMSKA (Koninklijk Museum voor Schone Kunsten Antwerpen)
Leopold de Waelplaats 1, 2000 Antwerpen