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ととにぽてぃかんそくじょ〈4〉

風の中に
かすかに

ととにぽてぃかんそくじょ
アンテナ うごかします
ギーッコ ギーッコ

……………………

3時間10分、
たっていました。
歩いてここまでやって来て、
今まで勉強したことや、
これからのことを、
話しに来たのだけれど。
あんなに考えていたのに、
なんだかうまく言葉が出てこなくて、
最後に
「どうして、あれはやめてしまったのですか?」
そう言われて
「とてもとても疲れてしまって…」
そう答えると、
会話はそこでおしまいになり、
何も上手く話せずに、
3時間10分、
たっていました。

外は、いつの間にか
雪が降りはじめていて、
積もりはじめていました。
お迎えを頼もうかと思ったけれど、
軒下にはお迎えを待つ人達が、
たくさんいて、
賑わっていました。
わたしは歩いて帰ることにしました。

軒下の端っこで、突然にわたしは、
やわらかい大きなネルの布を取り出して、
自分の疲れを、
自分で拭いてやりました。

帰ろう。
また歩いて。

ネルの布が、
一体どこから出てきたのか、
わからないけれど、
疲れを拭ける布が、
あるんだなと、
持って来たんだなと、
思いながら。

……………………

アンテナが、拾います。
【ネル、布】

古風な観測所は、見つけたことを
紙に書きます。
今回の記録係は、
人の観測員、ティコです。


絵はがきと詩〈2016年11月〉

海に夜が明ける
わたしは目を覚ます
とてつもない哀しみの夜明けの海
海の底で健気にあんこうが
ちょうちんを光らせている
どうにもならない寂しさの
夜明けのかたわら
ねこはわたしのとなりで
笑顔である

わたしは起き上がる

ひとまず
お茶にしよう
紅茶の香りに包まれて
あたたまる
わたしの足の裏

わたしは立ち上がって
そうして今日も
歩いてゆく

ぬぐいきれない不安と
健気なあんこうと
笑顔のねこと
あたたかいお茶を
友達に

抱えていられるものだけを抱えて
歩いてゆく

日が沈むまで


……………………

ティコ観測員の記録…
どうして突然、あんこう?
どうして?は自分が1番
わかっていること。
ネルの布でもいい、あんこうでもいい、
猫もいい、お茶もいい。
自分の疲れを拭けるものが、
あるならば。
自分の疲れの理由を知っている自分が、
いてくれるのなら。
自分の疲れの本当の意味を聞いてくれる人は、
なかなか見つからないのです。
本当に話したい大事なことを、
一緒に大切に思いながら聞いてくれる人は、
なかなか少ないのです。
話せないまま、
話さないまま、
過ぎてゆきます。

ティコは昨日のことを、
ほとんど忘れてしまいます。
毎朝、新しい朝がやってくる、
そんな観測員ティコです。
どうして昨日を忘れてしまうようになったのか?
ティコにも理由があります。

話せる人が見つからなくて、
誰にもわかってもらえなくて、
そんな時、
自分の疲れを拭いてくれるのは、
自分だけかもしれないのです。
本当は誰か他にいてくれたら、
もっといいのだけれど。
自分の中に、
やわらかい大きなやさしい布が、
あるかもしれません。
どこから出て来たのか、
どこから出てくるのか、
わからないけれど…
突然出しましょうか。

観測所のアンテナは、拾いました。

哀しみも寂しさも、
その疲れをちゃんと包んで、
やさしくしてくれるもの…
自分の中から取り出して、
みましょうか。

そうして、
また歩いてみます。

ティコより

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