ファッションは自己表現!若手理学療法士・川副泰門さんが作るブランドの原点と展望
こんにちは。理学療法士でライターのみっこです。今回は、「ファッション×リハビリテーション」と題して、障がいの有無に関わらず誰もがファッションを楽しめる世界を目指している川副泰門(かわぞえ・たいと)さんを独自に取材しました。
川副さんは名古屋市にあるベンチャー企業「合同会社Think Body Japan」に理学療法士として入社し、勤続3年目にして社内のオリジナルブランドの立ち上げに奮闘されています。既存のブランドでは障がいのある方がファッションを楽しめない現実を知り、誰もが着心地よくおしゃれに着こなせるようなブランドを目指しています。
2022年6月には、日本理学療法士協会が開催した理学療法士としての夢への挑戦を応援する大会「Little Physio」に出場し、大賞とオーディエンス賞のW受賞を成し遂げ、理学療法士の強みを活かしたファッションブランドを立ち上げる夢に向かって一歩踏み出しました。
その活躍が注目され、先日、理学療法士連盟が主催した若手理学療法士に向けたイベントに登壇。「やりたいことに全力で向き合うために」というテーマで熱弁された様子をレポートさせていただきました。
自主企画のイベントレポートはこちら↓
講話を聞くうちに、「川副さんに影響を与えているさまざまな人とのエピソードが知りたい」、「ファッションにかける行動力はどこから生まれているのだろう?」という思いが高まり、今回の取材に至りました。
この記事では川副さんがファッションブランドを立ち上げたいと思ったきっかけと今後の展望を深堀りしています。今まさに夢に向かって全力投球中の川副さんを突き動かすものは何なのか詳しく紹介します。
川副泰門(かわぞえ・たいと)さん
長崎県出身の25歳。
国際医療福祉大学・福岡保健医療学部・理学療法学科に在学中、有名雑誌でのモデル出演や自作の服を販売するなどの活動を行う。
卒業後、名古屋市にあるベンチャー企業『合同会社Think Body Japan』に理学療法士として入社。現在は、同社の新規事業としてファッションブランドに注力している。
◇ファッションは自己表現!ブランド立ち上げの「原点」とは?
理学療法士でファッションブランドを立ち上げるという、新たな試みに挑戦されている川副さん。その眼差しからは、ファッションにかける熱量をひしひしと感じます。まずは、川副さんがどうしてブランドを立ち上げようと思ったのか、その原点に迫ります。
1)ファッションに興味をもったきっかけ
ーーー理学療法士としての強みを活かして、障がいの有無に関わらずファッションを楽しんでほしいと、ブランドを立ち上げようとされている川副さんですが、そのきっかけについて教えてください。
登壇したイベントのなかでも触れましたが、大学時代に出会った義足の男の子から、洋服のさまざまな悩みについて聞いたことが大きく影響しています。義足を装着するからこそ、ズボンの丈が合わず、裾が破れたり汚れたりを繰り返しているんだそうです。この話を聞いたときに、障がいを持っている方は、洋服について想像以上に多くの悩みを感じているのではないかと思いました。
その後、名古屋駅で一人、洋服の悩みについての街頭調査をしたんです。そのとき、「車いすに乗っているから服選びが難しい」など、既存の洋服ではファッションが楽しめない人々があふれていることを知りました。そんな課題を解決したいと行きついたのが、ファッションブランドの制作でした。
ーーーなるほど。障がいを持った人の悩みに触れたことがきっかけなんですね。川副さんはもともとファッションへの関心が高かったのですか?
僕にとってファッションは「自己表現」なんです。これは、幼いころからずっと変わらない部分だと思います。母の話では、洋服へのこだわりがとても強い子どもだったそうです。人が選んだ洋服は着ずに、毎日一から自分で選びなおしていたそうです(笑)
周りの誰かに影響されたのではなく、無意識のうちにファッションが好きになって、ファッション誌を読み漁ってはイケてる組み合わせを考える毎日でした。大学時代にモデルの仕事をしたり、友人とオリジナルのTシャツを作ったりしたこともありました。今もファッションに携わっているのは、自己表現の延長線上ですね。
だからこそ、「ファッションを楽しみたくても楽しめない」——そんな人たちが僕の作ったブランドの洋服を着て、輝いている姿を見ることが僕の大きな夢なんです。
2)「インクルーシブデザイン」という考え方に行き着いた経緯
ーーー川副さんのブランドでは、「インクルーシブデザイン」という考え方を用いていると聞きました。それは、「ファッションを楽しみたくても楽しめない」方にとってどんなメリットがあるのでしょうか。
インクルーシブデザインとは、「今まで標準とされてきた概念から外れてきた人たちを巻き込んでいこうよ」という考え方なんです。ファッションでいうと何かしらの理由で既存の服は合わない、うまく着こなせない人たちにも楽しめるデザインを指します。
僕のブランドでは、障がいが理由でファッションを楽しめなかった人たちが着心地よく、自分らしく洋服を着てもらえるようなメリットを生み出したいです。
ーーーファッションに悩みを抱えている人との隔たりをなくすための考え方なんですね。川副さんが「インクルーシブデザイン」という考え方に出会った経緯について教えてください。
インクルーシブデザインについて知ったのは、本当に偶然でした。大学4年生のときにファッションデザインについて考えていたら、理学療法士である父から「泰門がやりたいのはこういうことじゃないのか」と薦められ、奈良県香芝市にある就労支援施設「Good Job!Center」に見学に行きました。そこでは、障がいを持った人たちの制作物の展示や販売をしていて、僕にはない豊かな発想に感動したことを覚えています。
例えば、ウルトラマンの変身シーンをダンボールを使って立体的に再現していたり、歯ブラシで絵の具を飛ばして何層にも鮮やかな色を重ねて絵を描いていたり。鉄道を擬人化したキャラクターもありましたね。その展示物を見たとき、「どうやって思いつくんだろう」という不思議な感覚と羨ましさを同時に感じたんですよね。
そして、Good Job!Centerでは、就労支援の一環としてアート作品を展示・販売することを「インクルーシブデザイン」と位置づけていて、障がいのある人を社会に巻き込んでいく仕組みを生み出しているんです。そんないい循環をファッションにも活かせないかと思ったのが、この手法を僕のブランドにも取り入れようと思ったきっかけです。
ーーー大学時代の経験が現在の活動に大きく影響しているんですね。インクルーシブデザインという手法はこれからの時代にどんどん浸透していきそうです。
3)理学療法士の大先輩であるお父様の存在
ーーー理学療法士であるお父様の一言が、インクルーシブデザインを知るきっかけになったようですが、川副さんが夢に向かってつき進めているのは、お父様からの影響も大きいのでしょうか?
そうですね。父の存在は僕にとって本当に大きなものです。自分のしたいことにフルコミットするきっかけをくれました。父、川副巧成も地元の長崎で、理学療法士としてケアハウスやデイサービス、訪問看護ステーションなどの地域支援事業を経営しています。
川副巧成(かわぞえ・こうせい)さん
Liaison Group(リエゾン グループ) 代表取締役 /NPO法人全国在宅リハビリテーションを考える会理事
理学療法士/社会福祉士/介護支援専門員
1996年、長崎県にて社会福祉法人春秋会リエゾン長崎を創業。2009年にTotal Hanilitatiom Sysyem株式会社を設立し、現在はLiaison Group(リエゾングループ)の代表取締役として地域支援に取り組む。
「その人が、生涯を通じて最大限に住み慣れた所で暮らせる為に必要な介護」と「地域に住む人々みんなが街づくりに関われる」ことを目指し精力的に活動。
2015年には、NPO法人全国在宅リハビリテーションを考える会の取り組みとしてスマ―トフォンなどのICTを活用した情報共有ツール「i Therapy」を開発し、「リハビリテーション」の見える化を進めている。
圧倒的に力の差はあれど良きライバルといいますか、父が頑張っていることが自分のモチベーションを高めてくれています。
でも、子どもの時は「川副さんの息子さん」と呼ばれることがとても嫌だったんです。だから、川副泰門という一人の人間として、自分らしくありたいという気持ちが強いんだと思います。父や周りの尊敬する方々のようになりたいわけではなくて、自分のやりたいことにまっすぐでありたい。それが、自分の好きなファッションに、自分の強みや経験を取り入れるきっかけだったのかもしれませんね。
ーーー影響し合える良きライバル。お父様と同じ理学療法士という職種でも、自分らしく熱中できる道を見つけたんですね。ご自分の好きなことと強みを活かす行動力がすばらしいと思います。
◇ファッションブランド立ち上げを後押しした仲間の存在
川副さんは、大学時代の衝撃的な出会いやお父様という大きな存在に後押しされ、ファッションに関わる道を選択しました。そして、現在の会社に入社し、心強い仲間ができたことがファッションブランドを立ち上げるきっかけになったのだとか。その仲間の存在と現時点の活動状況についても聞いてみました。
4)現在の会社に就職したことがブランド立ち上げの転機に
ーーー川副さんが、実際にファッションブランドの立ち上げに至ったのは、現在の会社に就職したことが大きく影響しているのでしょうか?理学療法士が新卒で企業に入社するケースは珍しいので、就職がターニングポイントになったのではと推察しています。
そうなんです。新卒で介護現場、しかも企業に就職したことが転機になりました。もし、ファッション一直線でアパレルの会社を選んでいた場合や、多くの理学療法士が辿るように一般病院に就職していたら、ブランドを立ち上げるような考えには至らなかったでしょうね。
僕が所属している合同会社Think Body Japanは、地域に根差した介護事業を展開しており、行動指針として「未来志向」を掲げています。利用者の方々が自ら考え健康的な身体づくりや自分らしさを追求できるようサポートしていて、僕自身も長期スパンで物事を計画するようにしています。
だから、目の前の厳しい課題に取り組むことが、10年後20年後に必ず役立つだろうと思考転換し、楽しむようにしているんですね。頼まれたことは基本的に全部引き受けるし、自分でやると決めたことはやらざるを得ない状況にして一つ一つクリアしています。
企業に就職したことで主体性が磨かれ、物事を俯瞰して見られるようになりました。社会人としての総合的なスキルを身につけられたことはもちろん、視野を広げ視座を高くを持ち、課題解決思考に基づいてアイデアを具現化するプロセスを学べたのは、とてもポジティブなところですね。
柔軟な社風も、成長できた大きな要因かもしれません。会社見学のとき、僕がやりたいことを社長に話したら、「じゃあ、やってみたらいいんじゃないかなあ」とポンッとおっしゃったんですね。僕も「この人の下でならやりたいことを自由にできるかもしれない」と感覚的に思いました。
ーーー柔軟な社風だからこそ自ら考え行動できるようになったのですね。しかし、目標に向かう川副さんの日常はとてもお忙しそうです。
そうですね(笑)。周りから見た僕の印象は忙しくしていてストイックに感じるかもしれませんが、ずっと全力で取り組んでいるわけではないんですよ。目標の軸がはっきりしているから長期的なモチベーションはぶれないけれど、日々の変化はありますからね。でも、僕は昔から目標から逆算して日々の作業を細分化し、計画的にクリアすることが得意なんです。だから、一つ一つの作業量は多くない。それが辛くならない秘訣かもしれませんね。
それに、期待に応えたいという気持ちが大きな原動力になっていると思います。いつもお世話になっている社長や、頼りにしている役員の人が僕にポジティブな声かけをしてくれるんです。そんな環境で働いているからこそ、ワクワクした未来を描けるのでしょうね。
ーーー心強い仲間がたくさんいらっしゃるんですね。
5)いよいよファッションブランド立ち上げに向けて本格始動!
ーーー川副さんが取り組まれているファッションブランドの、現在の進捗状況について教えてください。
はい。2021年12月から社内でプロジェクトを立案し、現在は車いすユーザーの利用者様にご協力いただき、「着やすさ」や「着せやすさ」、「着心地」などの機能性とデザイン性を両立させた洋服を制作中です。
これまで調査してきたファッションに関するたくさんの悩みを反映して、一作目はポンチョ型の洋服を試作しました。これから、PDCAを繰り返して障がいの有無にかかわらず「ファッションを楽しみたい方」に届く洋服を作りたいです。
また、プロジェクトの認知を高めて予算を集めるために、今秋にはクラウドファンディングの実施を計画しています。クラウドファンディングの審査に向けて、書面の作成やSNSの発信に注力し、プロジェクトの内容をフルオープンにするための準備を進めています。
理学療法士である僕が、「なぜ、ファッションブランドを立ち上げようと思ったのか」ーー今までのストーリーやこれからの計画を全部お伝えして、「理学療法士がファッションブランド?面白そう」と思ってもらい、ブランドのファンを増やしたいと思っています。
↑クラウドファンディングに向けてSNSでの発信
ーーークラウドファンディングに向けてさらに忙しくなりそうですね。SNSを通して私も川副さんの活動を応援させていただきます。
◇若手理学療法士・川副泰門が目指すファッションブランドのゴールとは?
川副さんは今、会社の新規プロジェクトとしてファッションブランドの立ち上げを実現するために、まさに歩みを加速させています。最後にそのプロジェクトの展望についてお聞きしました。
6)ファッションブランドのさらなる目標と展望
ーーー川副さんが目指すブランドの展望や今後の目標について教えてください。
ブランドを立ち上げた後は、僕たちが制作した洋服のマニュアルを作り、就労支援施設にその作業工程を共有していきたいと考えています。名古屋市にある就労支援施設の利用者の方に仕事として洋服づくりをお願いして、就労支援につなげることを計画中です。
インクルーシブデザインの考え方を用いて、ファッションに関する悩みがある人を、洋服づくりのプロセスから巻き込んでいくことが理想ですね。ゆくゆくはGood Job!Centerのアート作品のように、多彩なデザイン性が組み合わされたファッションブランドにできたら楽しいでしょうね。
そしていつか、ブランドのファッションショーを開催しようと思っています。障がいの有無にかかわらず、さまざまなモデルがステージに上がって、いきいきとファッションを楽しんでいる姿を披露する。ーーそんな世界を体現していきたいと考えています。
ーーーファッションに悩みを抱えている人を巻き込んでいきたいという思いから、たくさんのアイデアが生まれていますね。最後に、今後も夢に向かってさらにスピードアップされる川副さんが大切にしていることがあれば教えてください。
そうですね……。目標から派生する部分や、仕事以外の時間も大切にすることでしょうか。それから、フットワークを軽くすること。仲間や会社のつながりの飲み会にも、呼ばれればすぐに行きますよ(笑)。
仕事でも仕事以外でも、その場を楽しむからこそ夢への道が開けてくると思います。例え、一瞬がしんどく感じても目の前のボスを倒したら絶対にレベルアップ出来ると妄想するんです。僕のオリジナルのRPGゲームをこつこつプレイしている感覚ですね(笑)。そうやって、装備を強くしてレベルアップしていくとものすごく楽しいですよね。
ーーーオリジナルのRPGゲーム(笑)。それは、ものすごくやりがいのあるゲームですね。今後もステップアップされる川副さんを陰ながら応援させていただきます。本日はお時間いただきありがとうございました。
現在、川副さんはブランド立ち上げのために9月からクラウドファンディングを開催しています。ファッションに悩みを抱えているより多くの人に川副さんの思いが詰まった洋服が届くよう、応援よろしくお願いします。
クラウドファンディングの開催ページは下記から
川副さんのSNSはこちらから
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