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【読書感想文#1】 荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』

これはすごい。ページを繰る手が止まらず、買った日のうちに読んでしまった。面白いのはもちろんのこと、とても読みやすいです。ご本人の中に確たる哲学があるのでテーマが全くぶれないし、どの文をとっても一読しただけで一意に取れるので、読んでいてストレスがない。
こりゃあおすすめですわ。

こちらの本、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの作者荒木飛呂彦が漫画を描く上での王道(黄金の道)を伝授してくれるという内容です。

「良い漫画」は、キャラクター・ストーリー・テーマ・世界観のバランスが優れているという。それぞれの要素を構成する上での実践的な取り組み方が紹介されているので、漫画に限らず創作に携わる人は大いに参考にできるのではないかと思う。最初の一コマ目、最初の一ページでいかに人を惹きつけるかといった工夫は、プレゼンテーション全般に活かせるし、創作以外でも通用するだろうね。

そしてこの本が面白いのは、売れる漫画やウケる漫画をどう描くかではなく、漫画家が「黄金の道」を歩む上での心がけに主眼が置かれている点だと思った。
ジョジョシリーズのファンならばピンとくる、「黄金」というキーワード。これは、「一時の儲けや仮初の地位のような表面的な報酬ではなく、人として貫き通すべき正しいあり方」を指す。

真に「黄金の道」を歩もうとした作品だけが、時代を超えて読者に愛されるような普遍性を獲得するという一文には深く頷いてしまった。それと同時に、「なんて厳しいんだ」とも思った。

流行りの漫画を単に真似る、一度ウケた絵柄に固執する、etc.
そういう楽なやり方に流れるのではなく、自分が本当に描きたいものを見定め、自分が求めるレベルでそれを表現するにはどうあるべきか。
生半可な姿勢ではなく真剣勝負で挑みなさい、そういうことだ。ウケてもウケなくても、自分が良いと思うものにまっすぐ取り組むべし。
そう。これは「覚悟」の話なのだと思う。

逆説的だが、初めはとっつきにくくても作者が良いと思い真剣に取り組んでいる作品こそ、読者の心を掴むのだろう。
手を抜いている、読者を舐めている、嫌々やっている……そういう態度は必ず受け取り手にバレる。裏切られたと感じれば、読者は去っていく。
読者にそっぽを向かれるのは職業漫画家としての生活が成り立たなくなるから一大事だ。それと同時に、真っ当でない仕事は、自分自身の「魂」を裏切ることにもなる。それではいけない、「黄金の道」を心に抱きなさい、この本にはそういう教えが詰まっている。

「俺はいいけど、YAZAWAはどうかな?」

これはミュージシャン矢沢永吉の言葉だ。ごめん、急に矢沢の話になって。
YAZAWAは、矢沢永吉が自身の理想とする姿で、理想の俺ならこんな時どうするべきかという指針の表れだ。
今この場にいる自分は未完成の自分であって、理想の自分に向かって進化し続けるんだ、そういう前向きな人生哲学が感じられる。「黄金の道」の覚悟にも通ずるものがあると思う。


あと、本の中にあった「ストーリーは必ずマイナスではなくプラスに向かうべし」というのも興味深かった。「プラスとは何か」の部分には作者の人生哲学が色濃く出るんじゃないかな。
例えば、「キャラクターの死」という単語だけ見れば「マイナス」に受け取られかねないけど、私自身は「キャラクターが使命を全うするか」「キャラクターがキャラクター自身との約束を守れたか」がマイナスとプラスを決めるポイントだと思っている。これは単純な生死だけで決まるものではない。

精神の成長を実感できることこそが幸福なのだと思う。
暗闇の荒野に道を切り拓く。その旅の過程こそが精神的な成長を促す。だから人生には荒野に足を踏み出す勇気が必要だ。

ああ〜〜〜、全部ジョジョで表現されてきたことだわ〜〜〜〜…!
すごいよ先生……めっちゃ芯が通ってる。

本の中で触れられていた、インプットの重要性は私も常々感じています。世界を表現しようと思ったら、高解像度で世界を「観察」して「理解」する必要があるものね。一見漫画とは関係がないような物事にもアンテナを張っておく、専門知識を積極的に取り入れる……連載漫画を描きながら勉強を怠らない上に、必ず作品舞台の現地に足を運んで取材するなどの姿勢、まさにプロフェッショナルだなと感じました。
あと編集者の意見に耳を傾けよ、謙虚さを忘れるなという教えも大事だなと思います。


続けて続編の『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』も読ませていただきますッ!!

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