愛しい白髪のはなし
イナダミホ
シンガーソングライター。
4人の子育てをしながら音楽活動をしている。
主婦になること10年、未だに掃除も片付けも苦手だが、毎日楽しく暮らす。
3、4番目の双子の息子たちを生んだ頃だろうか。白髪が激増した。
当初は「仕方ないとは分かっているけど、
こんなに増えるなんて。。。」
と大変に落ち込んでいた。
特に白髪染めはせずに、まだ髪型次第で隠せるくらいだった。
しかし今朝だ。
慌しい朝、身支度をしていた時のこと。
前髪をキリッとあげ、白髪が増えていることに気がついた。
しかし増えたことで気が付いたのだ。
「あっ...おかあさんと同じ生え方だなあ。」
小学生の頃、母が「白髪が増えていやだわあ。。。」と言いながら、
前髪を触っていたのを思い出した。
さらに記憶を辿ると、
祖母も同じような生え方をしており、
やはり前髪だった。
「私も、おかあさんや、おばあちゃんと同じように歳を取っている」
そう気がついた時に、胸がふんわり温かくなった。
自分の中で道が一本に繋がっているような感覚だ。
母も同じように子育てに追われなが歌っていたんだなあ。(声楽家のため)
同じ気持ちで鏡を眺めたのだろう。
祖母はもう少し白くなってて、
その白髪混じりの髪の毛が幼い頃のわたしを安心させてくれていたな。
「光穂ちゃんは黒くて、しっかりした髪の毛だねぇ。これはいい髪の毛だよ。」
夏休みのある日、
鏡台にわたしを座らせ、髪を結ってくれた祖母のことを思い出した。
「いいかみのけなの?」
「とってもいい髪の毛だよ。」
褒められたことがとても嬉しくて、
丁寧に髪をとかすようになった。
今、私も同じように白髪混じりの年齢になり、
同じように娘の髪の毛を結んでいる。
「いい髪の毛だよ」
と言っている。
大好きな母や祖母と同じことをしている安心感と嬉しさがこみ上げた。
家事をする彼女たちの背中を思い出した。
水仕事でシワシワになった手、
それにクリームを塗り込んでいる姿も。
毎朝、前髪をキリッとあげて、
一日の気合を静かに入れている姿も。
お出汁を煮出してる香り、
トントンと野菜を切れば木製のまな板の優しい音も。
たくさんの洗濯物を畳む、丸い背中。
その丸い背中が好きで、
いつも抱きしめに行ってたことも。
そして、今は子供達に抱きしめられていることも。。。
「わたしの人生」だが、
どこか、「彼女たちの人生の続き」な気がした。彼女たちの姿を思い起こしながら、とても誇らしく感じた。
淡い記憶が、
実感を伴った時に色鮮やかに思い出されることがあるみたいだ。
慌ただしい朝、
体をせかせかと動かしながら、
そんなことを考えていた。
わたしを落ち込ませる白髪から、
愛しい白髪になった。
わたしは今、この白髪を少し誇らしい気持ちで眺めている。
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