メルミの事件簿#2 東南アジアの「15分」
まえがき
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
みなさん、メルミの事件簿にようこそ。
今回もマレーシアのコールセンターでカスタマーサポートとして働くわたしが遭遇し、奮闘した物語をお話しする。
マレーシアに移住する手っ取り早い手段のひとつに、現地のコールセンターへの就職がある。日本語ネイティブを募集する日本人向け求人があるため、わたしも手っ取り早くその方法でマレーシア移住を実現させた。
ところが、カスタマーサポート職が具体的にどんな仕事なのか、想像できるような情報がない。おかげで飛んで火に入る夏の虫だ。それでもまだ、ここでがんばっている。
内情を知ることが君にとって吉と出るか凶と出るかはわからない。それでも知りたい欲が抑えられない君のために書いていく。覚悟ができたら先に読み進めてほしい。
それでは、そろそろ本日の業務をスタートしよう。どんなお客様から電話がかかってくるか。業務開始前はいつもドキドキだ。
「お電話ありがとうございます。メルミでございます。本日はいかがされましたでしょうか?」
「手配した車が15分も遅れてきたんだぞ。どうしてくれるんだ!」
のっけからテンション高めのお客様。
(え? え? なにが、どうした!?)
会話がスタートするや、予約番号も自分の名前も伝えずに、いきなり怒鳴り散らしてくるお客様というのは、残念ながら、いる。
いくらあちらがお客様、こちらがカスタマーサポートという立場であったとしても、それは人間の序列や優劣を決定づけるものではないはずだ。
それはサービスの利用者と提供者の関係であり、助けを必要とする側と手を差し伸べる側の関係にすぎない。立場の違いはあっても、人としては対等なはずではないのか。
それなのになぜ、一方的に怒鳴られなければならないのか。わたしがあなたになにかしましたか?
なんて正論じみたことを言ってみたところで、「おまえたちは、カスタマーサポートだろう? カスタマーサポートの仕事は客の話を聞くことじゃないか!」という声が聞こえてきそうなので、言っておく。
そのとおりだ。
お客様の話を親身になって聞き、必要なサポートを提供するのがわたしたちカスタマーサポートの存在意義である。
しかし、だ。だからといって、電話口で暴言を吐かれて尊厳を傷つけられるいわれはない。
「手配した車が15分も遅れてきたんだぞ。どうしてくれるんだ!」だって?
知らんよ。
自分のマイナス感情をマネージするのはそちらの仕事だ。わたしたちの仕事ではない。子どもじみた八つ当たりはやめていただきたい。
のっけから少々熱くなってしまった。悲しみややるせなさのはけ口がなくてカスタマーサポートに怒鳴りこんでくる心情はお察しする。
しかし、世のなかのサービス業従事者のみなさまのために、自戒もこめて、あえて書いておく。
自分の機嫌は、自分で取ってください。
とりあえず、話を聞いてみよう。
とはいえ、どんなお客様であってもわたしたちカスタマーサポートに助けを求めて電話をかけてきたことにはちがいない。話を聞いて差し上げるのが、わたしたちの仕事だ。
もうひとつ言うと、ただ話を聞くだけではなく、共感をもって聞く。それがカスタマーサポートの仕事である。
それでは、お客様のお話に共感をもって耳を傾けてみよう。
サポートしてくださったら飛び上がってヨロコビます。そしてしばしサポートしてくれた方に思いを馳せて、じっくりヨロコビを噛みしめます。我にかえったら、このヨロコビを言葉にのせて次の文章に向かいます。一人でも多くの方にヨロコビが伝染することを願って。