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#38 声にならないうめき声をあげて倒れていく
社会人になってはじめて投手というポジションを手に入れた。
といっても草野球ではあるが。
そこは当然ながらプロ野球などとは全く別次元の世界が拡がっている。
キャッチボールなぞ満足にできないわがパイレーツは、アウト一つ取るのが奇跡である。
そしてピッチャーは、エラーがあってもニコニコしてアウトを取ると
ワンアウトー ツーアウトーと皆に声をかけあい歓びをわかちあうのだ。
そして、マウンドには私がいる。
基本的に、草野球ではストライクがとれれば何とかなる。
プロ野球でストライクを集めすぎると打たれるのは、彼らのスキルが高いからである。
さらに、投げる球は速い方がいいというのは、頭の中でどれくらいのタイミングでバットを振ればいいかという予想をはるかにこえてくる、もしくは体かそれについていけないのでバットに当たらないとかバットが球に力負けするからなのですが、
タイミングさえ外せばいいのだという考えもできる。
自分が投げた時、今日は肩の調子がいいなあ、球が走っているなあというときは、バッターにとってタイミングがあいやすい、つまり予想通りの軌道を描くのだろう。
ある日 全く球が走らないなあという試合。
相手は大学生のチーム
とにかくフルスイング
そう草野球では打席は一試合せいぜい3打席
たまの休みの日の娯楽。
ファーボールではなくて打ちたいのだ。
ともかくフルスイングして遠くに飛ばしたいのだ。
ピッチャーの球がなかなかこない上にフルスイング
マイワールドへようこそ
いらっしゃいませ!
そして、振ろうとするのに球が来ないバッターは
声にもならないうめき声をあげてぼてぼてのサードゴロ
あまりにもサード、ショートにゴロが集中するので
サード、ショートから
勘弁してください。もう疲れましたとクレームがくる。
とにかくこんな日は、このポジションに一番うまい選手を置いておくに限る。
サード、ショートありがとう!
そして、凡退した相手の選手が次のバッターに
気をつけろ、このピッチャースライダーあるぞ。
私は平静を装ったが
心の中ではニヤニヤしていた。
スライダーとは文字通りスライドする球だが、時速100kmにも満たない球でそんな球を投げられるはずもない。たまに、指と指の間から抜くことはあるのでチェンジアップといえば格好がいいが
スローボールと超スローボールの2種類を投げていた。
来ない球が余計来ないので、待ちきれない。しかも遅すぎて地球の重力に負けるため
魔球 フリーフォール (自由落下)
と呼べばよいだろうか
バッタバッタと三振を取るのも気持ちよいだろうが、
声にならないうめき声をあげてぼてぼてのゴロを打ってくれるバッターをマウンドから眺めるのもまた快感である。
声にならないうめき声をあげて倒れていくのは、ゾンビだけではない。