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【文字迷宮】「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子(読書記録)

「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子 読了

人が見落としてしまう世界の片隅に美しいものを見つけ出す主人公、リトル・アリョーヒン。
チェスの名手となった彼は、自動チェス人形の中に入りチェスクラブの海底部門でチェスを指す職に就く。

少年の繊細さ、包み込む回りの人々、美しい童話のような世界に浸って読んでいましたが、唐突に社会の闇を突き付けられた時は呆然としました。
いや、闇というか、現実なのかな。
美しいその「海底世界」は何によって支えられているのか。

ー決して綺麗事だけではない世界。

静かな海底世界を失ったリトル・アリョーヒンは、海面に浮きあがり、自分にチェスを教えてくれた場所、動かなくなった回送バスを後方に見送り、新たな世界で居場所を見つけます。

静かで、そしてどこまでも深い世界。
チェスを指すことで人の深い深い心の内を垣間見ることの出来るリトル・アリョーヒンですが、彼は多くを語りません。ただ、盤上に詩を描くように誠意を込めてチェスを指す。

チェスはルールに則ったゲームであり、計算の上で勝敗のつくものです。
駒に投影される邪心のない緻密な計算。
その試合の描写が美しい。

私、「転機」の時に世界が壊れてしまったように感じたんですね。
けれど読み終わって、壊れてなんていなかったんだって思いました。

ー最初から最後まで世界は美しかった。

そういうお話でした。

【響く言葉たち】

海底チェスクラブのパトロン「老婆令嬢」は
自動チェス人形の中に入り「リトル・アリョーヒン」となった主人公の対戦相手第一号


ミイラはリトル・アリョーヒンと繊細で美しい世界を共有していた女性
彼女の姿に「世界は最初から最後まで美しかった」と思えた


海底のパトロンである老婆令嬢が
リトル・アリョーヒンに海面へ漕ぎ出すためのオールを渡す


甘い少年期の思い出、現実を知った青年期
未知なる次の世界へ向かう


老人専用マンション・エチュードで
リトル・アリョーヒンは眠れぬ夜を過ごす老人たちを相手にチェスを指す


小説の中で主人公の苦しみ・叫びは多くは語られない
けれど多くの人生経験を積んだ老人たちとチェスを指すことで
心に以前よりもなお深く澄んだ静かな場所が広がっていくことが分かる

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深拍-mihaku-
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