江戸川Qの「独想感想文」#3
過日、友人がJR貨物の論文で入賞した報告を受けたので、二人で雑談をしていると、友人が「鉄道の情景は日本人の心に響く馴染み深い情景だ」と極めて何でもない事を言ったのですが、その瞬間、自分の脳裏に或る一冊の本が浮かびました。
それが、本作「みやざき車窓紀行」(鉱脈社)です。
筆者は松下功氏で、この本はご本人が都農町の東洋ゴムタイヤ試験場勤務中に執筆され、出版されたようです。
そういう意味合いでは本作は個人的趣向の強い趣味本とも捉えられるかもしれませんが、しかしながら内容は歴史的物事のみならず、地域の風土文化にも深い研鑽の知を持たれる筆者の細やかな愛情が所々に垣間見え、さながら現代の風土記を読むような喜びと現在の宮崎を研究する郷土資料としての秀逸さを感じられる稀有な本と言えます。
宮崎県は日向灘に面して南北に伸びていますが、熊本側のえびのから見れば大きな銀杏の葉のように、つまり扇状に伸びていて、その骨脈として鉄道が敷かれており、筆者は実際に鉄道に乗って夫々の地域ごとの歴史的風土や人情を独自の視点で捉えています。
そしてその対象となる文物や歴史等との距離感は鉄道の車窓から眺めているような感覚でエッセイ的な文学的香りを与えてくれます。
ーー鉄道の情景は日本人の心に響く馴染み深い情景だ
本作はみやざきを紀行した筆者の豊かな体験と研鑽された知性から、その心に響く馴染み深い風景を思い起こさせてくれる顕著な一冊だと言えます。そして文学的内容の中に馴染み深い風景と共に生きる土地の人々の織り成してきた情景を思い浮かべる事ができます。
そんな一冊を是非、あなたに。
もしあなたが一冊の本を読み終えたら、是非、あなただけの「独創感想文」を。
文:江戸川Q