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反作用が生じるメカニズムは「存在しない」?

作用反作用の法則という法則がある。古典力学の基礎法則であるニュートンの3法則——慣性の法則・運動方程式・作用反作用の法則——の一つで、高校の教科書にも載っている。

手で壁を押すと、力を加える向きと逆向きの力が壁から手に伝わる。この手に伝わる力が反作用だ。これがないと壁に手が沈み込んでいくし、床の上に立つこともできない。

この反作用が古典力学においてどのように生じるか、という疑問にあなたは正しく答えられるだろうか?

「手が壁を押し込むと壁が変形し、壁が元の形に戻ろうとする力が反作用である」と、物理をある程度知っている人なら答えるかもしれない。実はこれは誤りだ。誤解のないように言うと、古典力学の範囲では誤りだ。

古典力学の世界での正しい答えは「反作用は手が壁に触れた瞬間に、突然現れる」だ。そんな馬鹿なと思われるかもしれない。これを理解するには古典力学の世界を正しく、そして注意深く理解する必要がある。

古典力学の世界の基本法則はあくまでニュートンの3法則だ。つまり、この3つの法則は前提であり、仮定である。そこにメカニズムは存在しない。古典力学の世界で「どのように、あるいはなぜニュートンの3法則が成り立つのか」という疑問に答えることはできない、ということだ。このように、古典力学の世界からはみ出さないように注意深く考える必要がある。

じゃあ、壁が変形して元に戻るというメカニズムが間違いかというと、そうではない。実際はそのようなことが起こっているはずだ。ただ、このメカニズムを考えるには、古典力学をはみ出して、物性物理学の領域に足を踏み入れる必要がある。そのため古典力学の世界ではこの説明が使えないのだ。ある理論の枠組みからはみ出すことなく理論を矛盾なく構築できていることを、理論が閉じているという。つまり、古典力学で理論が閉じていることを要求しているため、壁の変形による説明は使えないのだ。

このことは、物理学科の大学生や高校の物理学の先生も意外と間違えがちだ。もしあなたが高校生なら、ぜひ先生に尋ねてみてほしい。または塾や家庭教師の大学生に訊いてみるのもいいだろう。もしも正しい答えが返ってきたならば、きっとその人は古典力学をよく理解している人だ。

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右螺子(理系大学院生)
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