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春を想う白菜、立春

2025年2月3日、立春。
寒い冬が終わり、春の訪れとされる日。
そんな春の始まりに、心に想うことをお話にしてみました。

一年の始まりともされる立春の日に願いを込めて。

あたたかい春が訪れますように。




いつも行くカフェがある。
家から歩いて五分ほどのところにある小さな店で、コーヒーの香りがいつもふんわりと漂っている。私はこの店が好きで、週に何度か、特に原稿を書く気分にならないときや、ただぼんやりしたいときに足を運ぶ。

「今日は寒いですね」
「いつもありがとうございます」

そんな、何気ない言葉を店員さんにかけてもらうたびに、私はなんだかふっと心があたたかくなる。

それだけのことで、背中に入っていた余計な力が抜ける。寒さで縮こまっていた肩が自然とほぐれる。別に特別な話をしたわけでもないのに、あたたかい飲み物を受け取るように、その言葉が心にしみていく。

「この前の詩、読みましたよ」

ある日、そう言われたことがある。私は驚いて、「えっ」と間の抜けた声を出してしまった。

「素敵でした」

店員さんはニコッと笑って、カフェラテをカウンターに置いた。

その日は、どうにも文章が思うように書けず、家を飛び出すようにしてカフェに来た日だった。自分の書くものがどこまで誰かに届いているのか、不安に思っていたときだった。だから、その一言が心の奥まで染みて、涙が出そうになった。

言葉はあたたかい。

そのあたたかさは、湯気のように心に満ちて、じんわりと広がる。

あたたかさの循環

私は考えた。

私はいつも、こうして誰かの言葉に助けられている。それなら、私も誰かをあたためることができるのではないか。

たとえば、コンビニのレジで「ありがとうございます」と少し丁寧に言うだけでもいい。道ですれ違う人に、ちょっとだけ微笑むのもいい。友達に「最近どう?」とメッセージを送るのも、きっと何かのあたたかさになる。

自分が誰かからもらったあたたかさを、また誰かに渡していく。

そうやって、あたたかさが循環する世界だったらいいな、と思う。

今日、カフェの帰り道に立ち寄った八百屋さんで、大きな白菜を買った。お店のおじさんが「今日は立春だから、そろそろ春の野菜も出てくるよ」と言った。

立春。冬が終わり、春が始まる日。

寒さのなかにも、ふっとやわらかい風が吹く。

きっと、人の心も同じなのだろう。冷たさの中に、ふとした瞬間にあたたかさが生まれる。そして、そのあたたかさが誰かに渡り、また次の誰かへとつながっていく。

そういう世界でありたい。

そんなことを考えながら、私は白菜を両手に抱えて家へ帰った。





ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

よき日でありますように!



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