家族の記憶とともにある絵本が いい絵本
ムスコは小さいころ、「これは だれのもの」という遊びが好きだった。
アイスクリーム屋さんのサーティーワンのチラシを見ては、どれが好きかと家族に尋ね、その調査(?)を元に、「これは、おかーさんの。これは、おとーさんの。これは、ぼくの」と、毎日毎日繰り返して遊んでいた。第一希望だけではなく、「つぎは?」「つぎは?」と聞いては、1人に2つも3つも割り当ててくれる。アイスクリーム食べたことないのにね。
『だるまちゃんとてんぐちゃん』の絵本を見ても、帽子や靴の「ものづくし」のページを見ては、同じように所有者を決めて楽しんでいた。
そんな遊びを満たしてくれた絵本の1つが『ぱん だいすき』。
福音館の0・1・2のシリーズから出ているこの本は、こんがりした焼き色がおいしそうに、リアルに描かれた「パン」が登場する。
すてきなのは、「定番の形のパン」で描かれていること。
クリームパンも、メロンパンも、チョココロネも、それから、デニッシュをぐるぐるっと巻いて間にレーズンがはさんであるパンも、くるみやレーズンが入っていそうな色の濃いパンも、「あぁ、これはあのパンだな」って、すぐに分かる。「町のパン屋さんで売ってそうな形」をしているのだ。
ムスコに「おかーさんは、どのパンがいい?」と聞かれて、答えながら、「あ、これは、じぃじの好きなパンだね」「こっちは、ばぁばが好き。かーさんも好き」などと、つい話が膨らんだ。
そんなやりとりをしてから、何カ月か経って。祖父母の家に遊びに行く時に、お土産に駅前のパンやさんでパンを買うことにした。
ムスコは、数カ月前の私との会話に忠実に、絵本に描いてあった通りのパンを選び、意気揚々とパンの袋を持ってくれた。祖父母の家につけば、1つずつ、どれが、誰のパンだか、解説をしてくれたのだ。
いい絵本、ってそういうことで。
その絵本にまつわる個人的な記憶が、何より大切なんだと思う。自分たちが生活してきた1日1日の中に残してくれたちょっとしたエピソードがあるから、その絵本が特別になる。
個人的なエピソードを重ねやすい絵本、というのは、もちろんあるし、私もそういう絵本は楽しみやすい絵本としてお勧めすることが多い。
でも、自分たちにとっての「いい絵本」というのは、結局のところ、ものすごく主観的なもので。その主観の1つは、絵本にまつわる子どものエピソード。何が嬉しいって、成長記録になっていること。
そんなふうにエピソードのある絵本に出会えると、きっと、幸せだと思う。