見出し画像

【最近は、こんな感じ】 お茶は、日常でできる勉強。

上海で生活する女の子たちの日常って?
ファッション、メイク、食べもの、よく行くお店。あと、普段考えていること。悩んでいること。そして目標。
そんなあれこれを、同じ目線で聞いてみた。
@mie_shanghai

27 賈俊

<Profile>
賈俊(ジア・ジュン)
生まれ年:1986年
出身:湖南省益陽市
職業:『老檟茶司』オーナー
小紅書 @老檟茶司

最近、上海の中国茶が自由だ。
「伝統×自由と独自性」みたいな。
賈俊さんは、
その先駆者的存在だと思う。
築約100年のオールドマンション内に佇む
『老檟茶司』を訪ねた。


――いま、淹れてくれたのは何のお茶ですか?
賈俊 正山小種(ラプサンスーチョン)です。ちょっと松のような風味。味わいが豊富なので苦くないでしょう? 淹れるごとに味が変わっていく。「工夫茶(中国茶の淹れ方)」って、味が変わっていく時間と過程を体験することなんですよ。

――賈俊さんが中国茶の世界に入ったきっかけは何ですか?
賈俊 音大を卒業したばかりのとき、お茶の文化に関する音楽劇をやったのがきっかけです。それと、大学でお世話になっていた先生がお茶好きで。当時は味などは理解できていませんでしたが、中国茶には文化やストーリーがたくさん内包されているのだということを知った。お茶を淹れる動作と、楽器を弾く動きが似ていることにも興味を持ちました。

――ここ『老檟茶司』はどんなお店なのでしょう。
賈俊 一般開放はしていないのでお店ではないです。主に朝のお茶の教室と、二十四節気ごとに開催しているお茶会のスペースです。私はもともと茶館で働いていたのですが、もっとお茶について勉強したいと思って独立した形。ここは2023年にオープンしました。

――でも、インテリアなども伝統的な、「ザ・茶館」という感じではないですよね。
賈俊 はい。中国茶は伝統的で古いものですが、日常的に楽しむものでもいいと思っています。でも変わりすぎず、一定の風格を保っている形が理想。なので、お茶を淹れるときの音楽はジャズでもパンクでもいいんです。その人が心地いい状態であればいい。教室でも、専門用語などを使いながら解説したあとは、みんなで旅行や食べものの話をしたりしています。

“自然と人とのつながりを感じる”

――楽しそう。
賈俊 伝統は、すごく長い年月のなかで生まれて磨かれてきたものなので、学ぶべきものだと思います。でも、それプラス創作していくことも大事だと思っています。この前、ある人に聞かれたんです。「先生、私タトゥーがいっぱい入ってるんだけどお茶って習える?」って(笑)。もちろん、誰でも習える。お茶は日常のなかでできる勉強なんです。

――ここ数年、中国茶好きの若い子が増えていますよね。
賈俊 そうですね。コロナなどで海外留学から帰国した人が多かったからだと思います。帰国して、自分の国の文化を探索しようとする人が増えた。お茶は彼らにとっては近いものなのに、深くは知らなかったのだと思います。私の生徒にも若い子がけっこういますが、考え方がすごく開放的な子が多いんですよ。

――日本でもお茶会を開いたと聞きました。
賈俊 2023年の10月に日本人の友達に招かれて。でも、最初誰も申し込んでくれなかったんです。いかにもという感じの、よくある中国茶の実演だと思われたのかも。そう思って、告知に普段のお茶会の写真を入れてみたら申し込みが増え始めて。結果、毎回満席でした。参加してくれた日本の皆さんには、「思ってもみない中国茶だった」と言われました。

日本でのお茶会にて(写真は賈俊さん提供)

――日本の印象はどうでしたか?
賈俊 皆さん真面目で、いろいろなことに気づいてくれるなと思いました。ある会で、「正山小種は海の味がする」という人がいて。あ、会話は友人が通訳してくれました。で、海と関係がないお茶なのに、かつおだしみたいな「旨味」があるというんです。私が「旨味」の概念がわからないでいると、皆さん私にわかるように考えてくれた。「旨味」とは、「五味すべてがある」ということなんだそうです。そういう、思わぬ知識が得られたりしました。またぜひ日本でお茶会をやってみたいです。

日本にて(写真は賈俊さん提供)

――では、賈俊さんにとってお茶の魅力とは何ですか?
賈俊 ただ飲みものであるというだけでなく、大自然と人とのつながりから成り立っているところです。育てる人の考え方やその地の気候など、さまざまな要素がつながりあって、さまざまな種類のお茶ができているということ。それと、人の文明は火から生まれたものだと思いますが、火があったからお茶や料理、酒が生まれ、それらが集まってお互いに享受しあえる社会が成り立っている。そういうつながりを感じられるところです。

“伝統を学びつつ、自由に”

――おいしいお茶を淹れるのに必要なことは何でしょう。
賈俊 技術、身体、環境、知識。それとリズムです。日々、日常で練習ですね。

――使っている茶器も素敵です。
賈俊 友人の作品が多いです。特にいつも使っているこの器は私の手にぴったり。色も好きなのでずっと使っています。上海人なんですが、ずっと景徳鎮に住んで作品をつくっている人なんですよ。あとは、使い方を買い手にお任せする『Open Object』の器も好き。

真ん中の紺の器がお気に入り

――お友達の作品。
賈俊 はい。洋服とかもデザイナーの友達にもらったものが多くて、服はほとんど買わないです。あとは、友人が着られなくなったものとか。今日のこの服ももらいもの。着られなくなったっていう、ブランドは多分『COS』です。

――では、お茶以外に趣味はありますか?
賈俊 アウトドア、登山かな。毎年春夏はお茶が自生する山に行っています。最近行ったのは雲南省の西双版納。熱帯雨林のなかにお茶が生えているんです。あとは武夷山。3つの省の境にあるのでなんだか神秘的な感じがしました。同じ岩などでも、お茶の産地によって形状や成分が違うんですよね。

山で茶摘みをする(写真は賈俊さん提供)

――賈俊さんは、これまでどんな人に影響を受けてきたんでしょうか。
賈俊 うーん……。毎回違う人に影響されていると思います。いちばんは自分自身かも。でも、教室に来た生徒さんに影響を受けることもあるし、お茶をつくっている人、生産者の方から影響を受けることもあります。毎回違います。

――では、今後の目標を教えてください。
賈俊 今後もずっと、勉強、探索を続けていくことです。伝統を学びつつ、自由でいることも、ですね。
(取材日:2023年12月14日 撮影地:『老檟茶司』復興西路34号)


<彼女のお勧め>

『恒春元』(上海市徐匯区華亭路93弄)
☆日本留学から戻ったカメラマンが経営している家庭料理店。『大衆点評』未掲載。料理したくないときなどに気軽に利用できる。

『園有桃』(上海市徐匯区新楽路167号)
☆生徒であり友人がオープンした湖南料理店。子供の頃に食べたものがあるお店。

『T12 Lab』(上海市徐匯区烏魯木斉南路218、228号1階)
☆素朴でおいしい。静かな雰囲気もいい。


text
萩原晶子
フリーライター。上海にて2007年頃よりガイドブック、ファッション誌、機内誌、ウェブなどの記事を手がけている。
カルチャー誌『Ketchup.』(上海と東京で販売)など。
ins:@hagiwara_akiko_
微博:Akiko06

photo
阿部ちづる
2006年にフォトグラファーとして独立。ファッション誌、ビューティー誌、週刊誌、写真誌等のグラビア、ポートレート写真を撮影。アイドルグループやグラビアモデルからのアーティスト写真撮影で指名されることも多く、女の子の新鮮な表情を切り取る。
佐々木希『ささきき』(集英社)、武田玲奈『Rena』(集英社)ほか多数。
ins:@chizuru0821
https://lov-able.com/photographer/chizuru-abe

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集