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ひきこもり当事者も家族もケアする支援を「三重県生活相談支援センター」
「兄弟が長年ひきこもっているが、どうやって声をかけたらいいのかわからない」「自身が年老いてきて、ひきこもっている我が子の将来が心配」。三重県生活相談支援センターには日々、このような相談が寄せられています。
ある日を境に、家族が家から出なくなる。当の本人はもちろんのこと、親や兄弟もその悩みや苦しみを外に話すことが難しく、なんとか家族の中だけで解決しようとしてしまう。しかし、そんな時こそ、勇気を出して、頼ってほしい機関があります。
津市桜橋にある「三重県生活相談支援センター」。2015年に施行された生活困窮者自立支援法に基づき、生活の自立に向けたあらゆる相談を受け付ける場所です。今回は、ひきこもりの方やそのご家族の方の支援を続けているアウトリーチ支援員の皆さんに、お話をお伺いしました。
(三重県生活相談支援センターについては、下記の記事でも詳しく紹介しています。)
家族を孤立させないために、地域の関心を高める
三重県生活相談支援センターでセンター長を務める小海途(こがいと)誠也さん。ひきこもりの方やそのご家族の支援だけでなく、この場所は「ひきこもり」に対しての認識を正しく伝える役割があると言います。
「やはり一部の事件などの印象から、ひきこもりに対して暴力的、暗い、怖いと決め付けている方も多いのではないでしょうか。しかし、実際に接している私たちからするとそんなことはなく、むしろ優しくて繊細、探究心が強い方が多いのです。世間が持つ一方的なイメージを変え、周囲の人たちがきちんと認識や理解をする。そうでないと、ご家族だけが孤立してしまい、支援が進んでいきません」
ひきこもりの方の家族だけでなく、周囲の人たちの理解があってこそ、幅広いサポートができる。
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「ひきこもり専門である『アウトリーチ支援員』がひきこもりの方のお宅へ赴き、一緒に時間を過ごさせていただいたり、ご家族のお話を聞くなどの支援を続けさせていただいていますが、緊急時には、地元にいる人たちの存在が肝になると思うんです。急なSOSを出していても、私たちは津からしか行けない。本当に困った時、どうすればいいかわからなくなった時、そのまちに1人でも相談できる人や機関があれば状況は大きく変わるんです」
ひきこもりのイメージを変え、「他人ごと」ではなく、少しでも「自分ごと」として捉えてくれる人を1人でも地域に増やす。それも、三重県生活相談支援センターの大切な役割なのです。
一人ひとりの状況や気持ちに寄り添う
現在、三重県生活相談支援センターにはアウトリーチ支援員が2人在籍しており、そのうちの1人が田中千紘(ちひろ)さんです。始めたばかりの頃は、ひきこもりの方に対して「部屋から出てきてくれないのではないだろうか」「目も合わせてくれないかもしれない」と不安な気持ちになったそう。
「でも実際お会いしたら、全然そんなことなくて。ちゃんと目を見て、しっかり話してくれますし、穏やかな人も多いんです」
なるべく話しやすい雰囲気づくりを心掛けているという田中(千)さん。同じ目線で、自分も楽しんで過ごそうという想いで、支援者との時間を過ごしているそうです。こうした時間の積み重ねで、少しづつひきこもりの方とコミュニケーションが生まれています。
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「好きなものについてお聞きすると、とても熱心に話してくれます。本当に知識が深くて、リサーチ力や分析力がすごいんです。でも自分では当たり前だと思っている。だから、質問されたり、褒めることで自分の得意に気づいて、何かしら自信につなげてくれたらなと思っているんです」
完全に家にひきこもっているのではなく、中には行きたいところや目的があると外出できるという方も。ひきこもりという言葉でひとまとめにするのではなく、一人ひとりの状況や気持ちに寄り添う支援が大切だと田中(千)さんは言います。
「私が支援に入らせていただいている方は、ご家族が心配して相談にこられたんですが、ご本人と話をすると『こうなりたい、こうしていきたい』という意思がしっかりあるんです。ただ、学校に行かない、人と関わろうとしないことを家族は過剰に心配してしまう。そういったお子さんの状態や、抱えている想いを間に入ってお伝えすることも、ひとつの支援の形なんだと思います」
家族の理解と対話を生む支援
ひきこもる家族に対して心配が募るのは、当然のこと。しかし、「ひきこもりの方も、そしてご家族も自分を責めすぎないでほしい」と、もうひとりのアウトリーチ支援員の田中智志さんは言います。
「ご家族の中には『自分の接し方が悪かったんじゃないか』と自分を責めたり、マスコミのイメージに引っ張られて、ひきこもっていると暴力的になってしまうんじゃないか、何か事件を起こすんじゃないかと想像しすぎてしまう方もいます。でもそんなことは本当に一部なんです。ですから、少しでもご家族の不安を取り除けるように言葉をかけています」
そうした支援の積み重ねで理解が深まり、しばらく寸断されていた家族間にコミュニケーションが生まれることも。
「実はパソコンを自作するぐらいものづくりが得意だったということをお父さんが知り、それを通じて会話することが少しづつ増えていったそうです。なんと最近になって、お父さんが働く電気関連の会社でアルバイトとして働き始めたとお聞きしました。これはお互いが関係性を再構築していこうとしたからこそできたことですよね。私たちも本当に嬉しくて、目頭が熱くなりました」
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「だからこそ家族はもっと周囲を、支援機関を頼ってほしい」と田中(智)さん。
「家族だけの煮詰まった状態から、第三者が入って、少し間を空けてもらう。そしたら、疲れ果てた状態から少しでも元気になってもらえるじゃないかと。親御さんが元気でないと、ひきこもっている本人も自分を責めます」
「だからまずは家族が元気になって、『家族が最近元気やな、自分も何か変われるんちゃうかな』っていう空気感を作り出していく必要があるんやと思うんです。私たちは本人さんに対する支援も大事にしていますが、同じぐらい家族への支援も大切だと考えています」
田中(智)さんは、ひきこもる本人にも家族にも「時間はかかるかもしれませんが、一緒に前を見て歩いていきましょう」と伝え続けていると言います。なぜなら「必ず人は変われるんですから」と。
それは周囲にいる私たちにも言えることかもしれません。まずはひきこもりのネガティブなイメージを払拭し、物事を正しく見ること。少しでも心ある言葉をかけること。周囲に関心を持つこと。そんな人が増えていけば、もっと悩みを持つ人たちと、「しんどさ」をわかちあえることができるかもしれません。
文・三上由香利(OTONAMIE)
▼三重県生活相談支援センター
三重県津市桜橋2丁目131 三重県社会福祉会館2階
TEL:059-271-7701 / FAX:059-227-5630
E-mail:self-reliance@miewel.or.jp