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恋する瞬間、みたいな本との出会い。

ふわふわと頭が軽くなる。

心がじわじわと満たされて、体内に血液がめぐるのを感じる。

やけに夕陽が綺麗で、いつまでも空を眺めていたいような
雨がふり続く日は、一粒一粒の輝きを目で追い、音を耳で受け取りたくなるような

衝動に駆られる。


すべて、かけがえのない瞬間。



少女時代、ときおりこんな感覚があった。

どんなとき?いつから?なんて、具体的なことはわからない。けれど、気づいたときにはもう、引き返せないくらい、好き。すごく好き。

いや、むっちゃ好き

と気づく瞬間。

言葉にしてしまったが最後。頭でも自覚をし始める。もっと話したい、もっと一緒にいたい。

”もっと”に支配される。



大人になって、めんどうなことから距離を置く。

避けていたのではない。
身体が勝手に反応をする。

徐々に、あの頃に感じていた感覚があいまいになる。



じわじわと、ゆっくりと。

すこし、から
とても、に
やがて、”むちゃくちゃ”好きになる。

この特別な感覚。


大人になった私たちは、いつしか正解らしきルートを選ぶようになる。誰かが試したことのある方法、おすすめや高評価のお墨付きの商品を。

それも、いい。
失敗がほとんどない約束をされたもの。

それなりに、いい。

だがそこに、”むちゃくちゃ”いい、と沸き起こるような衝動はあるのだろうか。



先日、本屋さんで1冊の本を購入した。

1時間店内をうろうろし、手に取っては試し読みを繰り返した。そしてようやく1冊、「これを読みたい!」を見つけた。


大事に両手で抱え、その足でカフェに入り、3分の1ほど読み進めた。

その後はゆっくりと休日の時間や、寝る前の読書の時間に充てた。

ひとつのエピソードを読み終えるたびに、もっと続きを読みたい!衝動と、先に進むのがもったいない理性との対極の感情を抱く。それを繰り返しながら、じわじわと着実に心を掴まれていった。


『ランチ酒』とタイトルに謳いながらも、食を語るグルメな話でもなければ、食べ物の写真やイラストさえ登場はしない。

そこにあるのは、ひとりの女性の人生とその女性が出会う人々の人生。幸福とか絶望とか、そんな極端で大それたヒューマンストーリーではない。

「あ、知ってる」

となる、ありふれた感覚。


うっかり自分のことかな、と思うような、よく知っているあの人のことかな、それとも今日駅ですれ違ったあの子のことかも、と思うよな、そのへんにころんと落ちていそうな、輝き。

そう、光るもの。

本人からしたら「美しい」ことではないかもしれない。けれど、それを思い悩む、考える、口ずさむ姿は、人間らしくって、誇り高い。


その「輝き」は、すぐにどうこうはならない。

じわじわと、くるのだ。

頭が軽くなって、心が満たされて、身体に血液がめぐる。

そして、がっしりと掴まれる。

その頃には、もう後に引けない。
”むっちゃ”好きがはじまっている。



この瞬間は、何かに似ている。と思った。

何度か、心惹かれる言葉やお話と出会うたびに、なんだろうと頭をひねらせたけれど納得のいく答えが見つからなかった。

ようやく、思い出した。

あ、知ってる。


これは、「恋」だ。


恋とは、人に抱く感情とばかり思っていた。
けれど、見渡してみれば「好き」はたくさんあって、ときおりその中から消えることのない「好き」が日々生まれている。


心が喜ぶような、身体が潤うような、瞬間がいつだってある。

純粋でガラスのハートなあの頃。
頑固で頭でっかちな今日この頃。


どっちも、どっちで、美しい。

これは「恋」なのだ、

と大きな頭で受けいれて、この瞬間を変わらぬ心で受けとめていく。

その先には、まだ知らない出会いがたくさんあるはず。



2冊目に続いています。全3巻
素敵すぎる出会いは、これから「恋」と呼ぶことにする。


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