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キセキの軌跡。

奇跡が起こった。

いつもの帰り道、確かに見覚えのある横顔が視界を横切る。

「あれ、もしかして…」

いやまさかねと思いながら、その存在を気に掛ける。横顔が後ろ姿になり、諦めかけたその瞬間。

くるりとこちら側に姿を見せた。

「〇〇ちゃん??」

一瞬の沈黙を挟み、わーー!と互いに駆け寄る。
手を取り合い、大袈裟なくらい笑みがこぼれる。

あ、変わらない。あのときのままだ。


こうして、17年間ぶりの再会を果たした。




私たちは、中学時代の同級生だった。
同じクラスになったこともなければ、部活も異なる。田舎の小さな学校だからこそ、存在だけは把握しているような当たり障りのない関係だった。


“友人”となったのは中学三年生のとき。町役場が企画するショートステイ型の交換留学に、夏休みを利用して参加をした。希望者のみが参加するというもので、手を挙げ面接を経て揃ったメンバーのうちのひとりに、その友人がいた。

ステイ先のお家には2人ずつ日本人が振り分けられ、私はその友人と2週間を共にすることになった。

「よろしくね」

ほぼ初めましてのふたり。いろんな不安があれど、まだ見ぬ世界へと希望を募らせ気持ちが高揚していた。



授業では何を話しているのか最後までわからなかったけれど、学校の敷地に野生の小動物がウロウロしていたり、服装が自由だったり、お弁当がジャンキーでカラフルなものだったり…
とにかく毎日が刺激に溢れていた。

ステイ先はホームマザーと娘と大きな犬の3人家族。時折、バイクをブンブンとふかしながら母の彼氏が遊びにやってくる。そんな自由な家だった。

週末は海岸沿いに腰掛けながら、大量の揚げたてポテトをコーラで流し込み、現地の人を気取ってみたりもしたけれど、彼氏と母が娘の前で別れ際のキッスをかますのをみて、やっぱり日本人の若者にとっては大きなカルチャーショックだった。


毎日が発見と冒険に満ち溢れるなか、結局のところ、ベッドに入り寝落ちするまで友人と話に花を咲かせていたことが、いちばん記憶に残っている。

せっかく海外まで行って、日本人とのおしゃべりが楽しいなんて、とも思う。けれど、初めての経験を共にし分かち合えた仲間というのは、いつまで経ってもかけがえのない存在になるのでは

と、当時は思っていた。



だが、

中学を卒業し、互いの別々の進路に進んでからというものの、私たちはめっきり合わなくなった。

気に触ることを言ってしまったとか、ケンカ別れをしてしまったとか、そんな特別な理由はない。

異国地でかけがえのない瞬間を共にした仲間であっても、これから接点がない相手とはわざわざ繋がろうとはしないし、繋がっていたとしても次第に薄れていく、というのはよくある話なのだろう。


元気にしてるかな?とふと考えるも、いつの日か思い出すことも無くなっていた。




「ぜんぜん変わらんね」

と互いの顔を見て、言葉を交わし合う。ほんとうに彼女は何も変わっていない。短い髪のツヤもしっかりした目鼻立ちも、あの頃と同じ輝きを放っている。

粋のいい寿司屋でも洒落たイタリアンでもない、地元にもあるチェーンの焼き鳥屋に流されるようにたどり着き、カウンター奥の席に腰掛ける。

幼馴染でも、仲の良かった友人でもないのに、次から次へとあふれ出す17年間のこと。なぜだかわからないが、この子に聞いてほしい、話したいと体の底から湧いてくる。

それはきっと、15歳という多感な時期に、今まで経験したことのないビッグイベントを共に過ごしたから。それぞれにとって、進路を決めるきっかけとなった出来事だったから。



それなのに、長らく彼女に連絡を取らなかったのは、どうしても気が引けてしまう自分がいたから、と思う。
文武両道、才色兼備という言葉が似合い、そのうえお家柄だっていい彼女は、当時の私にはあまりにも輝かしくて眩しくて、別世界の人のように思えてしまった。


だが、この長い長い月日を経てわかる。
いろんな荷物やしがらみをおろして、ようやく。


彼女は彼女のままなのだ。

野心があって、希望に満ち溢れていて、ただただ輝いている。

完璧、なんてことは決してなくて。彼女は彼女なりの人生の選択をいくつもしてきて、その度に悩んで苦しんでもがいてきた。その分岐点になる話をひとつふたつみっつ…と聴くたびに、彼女が強くたくましく、そして脆いことを知った。

それぞれの道を今まで生きてきたはずなのに、選択の基準や、後悔するしないの基準、分析の仕方に至るまで、重なる部分がたくさんあって、まるでもうひとりの自分と話しているかのような、

やがて、彼女の話を聴くにつれて、自分の過去も癒されていくような、不思議な感覚を覚えた。




「店の中で声大きすぎたかな」

お会計を済ませ、外を歩いていたとき。友人が真顔でポツリとはく。

「え?」

「わたしの話す声が大きかったかなあって」

「ははは!!」

笑わずにはいられなかった。だって、わたしも同じことでよくクヨクヨする。

明るく見える彼女もこんな些細なことを気にするんだと、新たな一面をまた知った。

「大丈夫。叫んでもよさそうな店選んで入ったし」

「ははは!!」

と彼女も笑った。



17年のときを経て、それぞれの道を歩んでいたのに、またふと交わる。

奇跡のような軌跡をたどる出来事。

幼さの面影がのこる、大人の笑顔を見て、
私はこれから彼女のことがもっともっと好きになるだろうと思った。


旧友でも新しい友人とも違う、再友。
ローカル酒場がにあう年頃になりました。


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