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食とパンをめぐる、物語。 【食エッセイ】

たまに近所のパン屋さんに行く。

木製のドアを引くと、チリンチリンと鐘が鳴る。その音を聞いて、店員さんがこちらに駆け寄ってきてくれる。

「いらっしゃいませ!」

小ぶりの店舗に馴染むくらいの音量が、どこかほっとする。目元はすっとゆるんでいて、ついついこちらも笑みがこぼれてしまう。


15時過ぎに立ち寄るので、パンはほとんど残っていない。

駅構内にあるパン屋のように、賑やかなラインナップから選ぶ楽しさには欠けるのだけれど、

あれもいいなこれもいいなと、頭を悩ませる必要はない。


目的の品はひとつ。朝ごはん用の食パンだ。

こぢんまりした店内の、レジ横に、ちょんと可愛らしく並んでいる。
ふわふわでやさしい焼き加減のもの、がっちり四角くて重量のあるもの、レーズンをあしらったラム酒の効いたもの…

どれも負けじと美味しそう。


ラインナップは日によって異なる。
3種類のときもあれば、1種類だけのときもある。時間帯や曜日の問題なのかもしれないし、店主の気まぐれなのかも。もしかしたら、今日しか出会えないプレミアム!なものだったりして。

今日買って帰りたいは、おのずと見つかる。



大体は、スライスしてあるものを買う。

のだけど、まいど毎度これは悩みどころで。

4枚切りは肉厚でフワッフワを存分に楽しめる。タオルに顔を埋めるみたいに、その白いソフトな面でお口いっぱいに頬張りたい。きっと幸福感に包まれる。ほんのり焼いた断面に、バターを乗せてシンプルにいただいてもいいし、たっぷり蜂蜜にバニラアイスをトッピングして、ハニートーストにしちゃうのも良し。フォークとナイフでケーキみたいに食べたら朝から贅沢過ぎるかしら、、

5枚切りはちょうどいい。夫婦ふたり暮らしで、なんともキレの悪い枚数ではある。だが、厚さがいい。なんとか起きた朝、低血圧が今日の朝を重みあるものに仕立てる。ぐわっと開けたお口に、スッと収まる。もぐもぐしていると、あら不思議、お口まわりからふわっと軽くなる。食べ終わる頃には、体も足取りも爽快に。朝のスタートには心強いのよねえ。

6枚切りだって手放し難い。焼き加減を間違えると、カッチカチにもなり得る。これは悲劇。様子を見ながらほんのり色付けを試みるか、その薄さを活かして、卵と牛乳と少しのお砂糖を混ぜた液にしばらく漬けて(頃合いを見てもう片面も漬ける)、それからずっしりした食パンを持ち上げて、焦バター香るフライパンへGO!朝の味方、フレンチトーストの出来上がり。たまんない。


こんなにも想い巡らせてしまうので…
ある程度限られている方が、ありがたかったりするのよねえ。



今日のパン屋さんはいつもと様子が違った。

半分にカットされた食パンが、ごろっとひとつの塊になっている。その隣には、

”スライサーが故障中のため、カットできません。”

とメモが添えてあった。

ぷぷぷと思わずお口が緩んだ。

これで悩まなくて済むもの、と思った。


「これをください」

即決だ。


どんな風にいただくか、想いをはせる帰り道。

いつもの食パンは落ち着くけど面白味はない。サイコロサイズに切って遊ぶもよし、思い切って手でちぎって食べるも、、いいのかも。

頭の中がどんどん賑やかになる。

明日の朝は、きっと最高だ。




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