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あわよくば、誰かは見ている。
いつものコーヒー屋さん。
ある程度ひろい店内で、窓越しに外が見えるカウンター席を、わざわざ選ぶ。
机が広々して椅子が高い。背筋がピンとするから好き。
おまけにコンセント付きの、特等席。
学校帰り。今日学んだことを、あたたかいうちにものにしたい。鉄は熱いうちに打てと、誰彼構わず言うし。
家に帰ると、洗濯物やら晩ごはんの支度で、気持ちが「専業主婦」に切り替わってしまう。魔法にかかったまま、復習とクールダウンを済ませてしまう、ことにしている。
シンプルなブラックコーヒーをいただく。どっと疲れている時は、アメリカンを頼んで、身体にカフェインを優しく注入する。
心地よいBGMにやる気を乗せて、ぐっと集中する。
30分ほど経つと、ふっと左肩の凝りを感じて、身体を休める。気を許した瞬間、店内の幾つもの声が、わあっと入ってくる。
女子高生の笑い声。
ふたりの中年男性が、会話を楽しむ流暢な英語。
あちらは、関西人のおばちゃんたち?
耳を澄ますと、これは韓国語。おばちゃんが集えば、息継ぎなしのノンストップトーク。これは、万国共通らしい。
不意に外に目をむける。
いつも同じ場所で、チラシ配りをしているお兄さん。夜でもピカピカに光りそうな、蛍光色のウィンドブレーカーを着ている。
背中には、煌々と主張する、会社名。
一目瞭然で「あ、そこの店の人だ」ってわかる。
会社を背負うとは、まさに、こういうことか。
マンション情報が書かれたチラシを、道ゆく人にさばく。
誰彼構わず、永遠と。
30人にチラシを差し出して、受け取るのはひとりかふたり。
「家をお探しですか?!」と、選ばれし通行人に声を掛ける(以前チラシを受け取り少し話した)。立ち止まって話ができるのは、一握り。
話ができたとしても、店舗誘導までは繋がらない、、。
「がんばって!!」
思わず応援したくなる。
風がビュンビュン吹き始め、雨になった。
それでも、彼は傘をさし、仕事を続ける。
先ほどまで賑やかだった道に、ひとっこひとり居なくなっても、
雨宿りをするでもなく、携帯をひらくでもなく、ピンと背筋を伸ばして将来お客さんになるかもしれない人を待つ。
「すごいなあ。」
彼の行動が、見るものを純粋にさせたのだと思う。
その頑張りをみている人は、きっといる!そう伝えたくなった。
ふと、外を見る私の目と、道を通りがかるおじさんの目が合った。
こちらが見ている側だと思い込んでいたけれど、見られる側でもあったのだ、とはっとした。
長い時間、外を見ていた(お兄さんを見ていた)けれど、目が合ったのはそのおじさんだけだったから。
誰も見ていないけど、誰かはきっと見てる。
みんなに認めてもらえる方がわかりやすくて安心する。
誰か、ひとりでも見ていてくれる人がいれば、救われることってあると思う。仕事においても、恋愛においても、人生においても。何事にも。
あわよくば、って思っちゃうのが人間の性。
それならば、ひとりの人に届く、行動を続けたい。あわよくば。