モルフォ蝶に会いに
どうだい綺麗だろ、モルフォ蝶。
おじちゃん、私、これ飛んでるとこ見たよ。
おっ、すごいね、どこで。
ブラジルの公園で小さい頃。
木漏れ日が眩しい日曜日、のんびり日向ぼっこしてたら、いきなりみんな走り出したから、なんだなんだとついて行ったら、この蝶々だった。キラキラ光りながら飛んでいるのを、みんなで夢中になって追いかけて、まるで夢のなか歩いてるみたいだった。
そりゃあ、いいもの見たね。
ところで知ってるかい、モルフォ蝶のモルフォってモルヒネが語源だって。幻覚みたいに綺麗だからっていうんだ、飛んでるところが。
え、そうなの?
ボロ市のおじちゃん、残念。
家に帰って調べたら、モルフォってギリシャ語で「美しい」とか「形」という意味だったよ。ほんと綺麗だったもの。
あの時見たのはたった一頭だったけど、あれが何頭も飛んでるのに出くわしたら正気を失ってもおかしくないと思うな。
そう。
時々、誰かに話さないと、わからなくなることがある。あれは本当にあったことだったのか。記憶は砂でできたお城みたいに振り返るたび、形を変えていく。
私は、そこにいたのか。
あの森で蝶を追いかけていたあの時、あの人達の中に私もいたのか。
おじちゃんにも、そんなことない?
だから
圧倒的に美しいものが目の前をキラキラ飛んでいくのを目にしたら、すかさず時間にピンで留めておかなくては。
だって
あの人達は走って行ってしまうのだもの。
一緒に蝶を追いかけていた人達は、みんな。
追伸:
モルフォ蝶¥7000。
世田谷ボロ市は一年に一度、年末年始の15日と16日、昔追いかけた蝶を探してやって来るところ。今年行った人、会えたかな、会いたかった蝶に。