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人生が100秒だったら

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私に起きたことを100秒くらいに縮めてみよう。人生最期の瞬間、まぶたにフラッシュバックされるっていう、あんなふうに。
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キムチ or ME

キムチを取るか、私を取るか。 男は女に迫る。 女は、迷わず、 さあ、どちらを取るでしょう。 これは、14年近く住んでいたカリフォルニアで幾度となく目撃した話です。人種間の「越えられない壁」の話です。 スーパーでも売っている、あのお馴染みのキムチが人生で選択の対象になるんですか? なるんです。 海外に暮らす、アメリカに暮らす。 異国の地で、男と女は出会う。 良くある話の中でも、さらに具体的に アジア系女性とアメリカ人男性(白人、黒人、ヒスパニック等々)という良く見かけ

みんな裸だった。

ヌーディストクラブに行った。 散歩してる人も、 芝生でピクニックしてる人も、 ジャグジーに浸かってゆったりしてる人も、 テニスしてぴょんぴょんしてる人も、みんな裸で、それがここでのnorm(普通)だった。 騒ぎ立てるようなことは何ひとつなかった。 はずだった。 私以外は。 そう。 普通でなかったのは、私だけだった。 私だけ裸ではなく、水着を着ていた。 水着を着て、読みもしない本を小道具(目のやり場)として持っていった私はとっても恥ずかしかった。 後にも先にも、「服を着

生理が教えてくれたこと

喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこのことだけど、 生理が酷かった。 毎回、なんでこんな目に合わなきゃならないんだと思うくらい。生理痛の世界大会があったら、地区予選は軽く突破する自信はあった。 例えば、、 通学途中の最寄り駅(渋谷)で動けなくなって 駆け込んだ喫茶店のトイレを2時間以上独占して店の人に怪しまれたり(何を?) また別の日には、何とか家までたどり着けたものの、学生証の入っていた財布ごと落としていたことに警察から連絡があるまで気が付かなったり。 ソレに襲われると、

暗いところでも、よく目が見える。

ほんの半年足らずやらせていただいたお仕事。 私の過去とも将来とも線でつながることなく、 故に私の中では点でしか存在しないこの体験が記憶に鮮明な跡を残している。 カリフォルニアにある日本車の会社でやった通訳・翻訳の仕事は私にとってそんな体験だった。私なら私をこの仕事に雇うことは絶対に無いと断言できるくらい、お粗末なクオリティで散々迷惑をおかけしたが、通訳の現場でなければ聞けなかった貴重な話を聞くことができた。 そんなエピソードのひとつ。 その道20年余、現地仕様の車の開発に

I like it!

前の会社でお世話になった元上司が訪ねてきてくれた。ヨーロッパでの仕事の帰り、わざわざ地球を一周してサンフランシスコに住んでいた私に会いに来てくれた。 たった1泊2日の滞在だったが、 精一杯のもてなしをしたかった。 気を利かせたつもりで、彼の大好物の鯖を日本食マーケットで探してきて、朝食はご飯と味噌汁と鯖の切り身をお出しした。 ひとくち、ふたくちだけで、 完食なさらなかった様子を見て、ん? 日本では、行きつけの寿司屋から「鯖が入りましたよ」と連絡が来るほどの鯖好きが、 どう

立てこもりオジサンと猫

午後の授業が終わって帰宅しようとした時のこと。家まであともう1ブロックというところで、アパートの前の通りがパトカーで封鎖されていた。事情がわからないまま、同じように足止めをくらっていた人達の中から、とんでもないことが聞こえてきた。 道路封鎖の震源地は、「私の住んでいるアパート」だという。ということは、アパートも封鎖されているので、私は自分の家に帰れない。のんびり路肩の芝生に腰掛けて見物している場合ではない。 何がどうなっているんだ。 あのアパートには当時3年住んでいて、

私と同じ年齢

もう20年以上も前、タイタニックという大ヒット映画を見ていた時のこと。 ワイワイガヤガヤ、同い年の女友達と連れ立って入った映画館の椅子に身を委ね、物語に没入していたその時、(沈没しつつある船で乗客が逃げ惑うシーンだったか)並んで見ていた隣の友人から声をかけられた。 「あのお母さん、私達と同じくらいの歳じゃない?」 不意をつかれた。 質問の内容と、質問のタイミングに。 何と答えていいのかわからぬまま、私の中の映画は、その場面でいったん中断され、彼女の言う「ヒロインのお母さ

スタンダップ コメディアン

出会ったきっかけは何だったのか、 忘れてしまったけれど、 昔知っていた人、アレン。 もう一度、何かの集まりで会うことがあったとしても、気が付かないかもしれないくらい、その他大勢の人だった、アレン。 そんな彼のこと、何年経っても忘れられないのは、理由がある。とびっきりな理由が。 それはスタンダップ コメディ。 一緒に観に行ったという話ではなく、彼がスタンダップ コメディアン志望(wanna-be)だったから。 当時、LAに住んでいた私はLAがその世界のメッカだと知ってはい

父は何を撮りたかったのだろう

手術の日取りが決まったと妹から連絡があった。朝から久しぶりにとても良いお天気になったその日、12月2日は妹の誕生日だった。 夕べ電話で聞き分けのないことを言って遠くの妹を困らせた父は翌朝は気の抜けた風船のようになっていた。例によって遅い昼食の後、珍しく「紅葉が綺麗だから羽根木に行こう」とねだってきた。イヤだなという気持半分、しかたないなあという気持半分。言った父には返事をしなかったが、母の眼を見たら「天気がいいから、行こうか」と言う言葉になった。 仕事の電話を片付けて

柿の木がクリスマスツリー

「なんでこんなところに鍵フックがついているの」先日、剪定に来てくれた植木屋さんに尋ねられた。1本の柿の木の話である。 樹齢約30年、高さ6メートルほどのこの柿は 毎年収穫時には助っ人を頼まなければならないくらい今でもたわわに実をつけてくれる。 秋には枝がしなるほど沢山の実をつけ、 冬は一枚残らず葉を落とし、 初夏には眩しいばかりの青葉をいっせいに芽吹かせて涼しい木陰を作ってくれるこの柿の木 一年の最後の月、この時期、もうひとつの役目があった。そう、もう覚えている人

同時通訳脳

ちゃんとした会社のちゃんとした通訳をやったことがあった。無謀にも、カリフォルニアの自動車会社で技術部門の同時通訳。 自分が採用責任者だったら、自分は絶対に雇わないと断言できるくらい自信の無い分野だったが、短期でまとまった収入になったので、えいやっと飛び込んだ。 初日から後悔した。 専門技術用語がわからない。 $数億ドルの投資が左右されると言われる重要会議。「偉い人達」と「技術者達」の間に座らされた「通訳」の私に、いっせいに両者の目が注がれる。 会話をつなげない。ど

左衛門(ざえもん)

占い師を紹介する、と友人から言われた。 その占い師は、よく当たるという評判で、 友人はある女性が恋愛運を診てもらった話を例にあげた。 「あなたには、200年前の先祖の霊がついている。女癖の悪い先祖がいて、その人に泣かされた女性が彼を恨んでいる。そのせいであなたの恋愛運が悪くなっている。」 「その男性の名前は、〇〇左衞門という。」 ずいぶん具体的で、三文小説のような話ではあるが、その分、興味をそそられたのも事実だった。 当時、煮詰まっていた私の話に付き合わされていた友人

主人が、という人

「主人に聞いてみませんと」 「主人が留守なので」   よそ行きの顔をした母がその言葉を使う度に ああ、妻たるもの、主婦たるもの、これが正しい言葉遣いなのだと、幼い頃の私は思っていた。   でも見逃せなかった。 「主人は」という時の母の顔がいつも1/100秒ほど輝いていたことを。目をこらしても気がつかない程の、でも見逃せないシグナルが点滅していたことを。   それは   ここには「門」が付いていますよ、 土足で上がって来ないでくださいよ、 私というちゃんとした人は、 ちゃんとし

人様の骨

人前でよく前歯が落ちた。前ブレもなく、突然。 歯が落ちた理由とか説明してもしかたないし、 (もともと差し歯にしていたところがユルユルになったのが原因)大声出してもかえって目立つので、たいていの場合、 あっ と落ちた歯の隙間から小さな声を漏らした後、 そっ と落ちた前歯を拾って(なくしたら大変)、 そそっ とトイレに駆け込んで(近くにあればラッキー)元あったところに歯を入れるのだけれど、 戻ってくる時がとても恥ずかしかった。 笑い飛ばしてくれる気心知れた仲ならまだ良