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焼酎、蒸し暑さ、カニクリームコロッケ、そして揚げ出し豆腐

愛知よりはまだマシだろう、その根拠のない自信は駅に着いた途端に儚くも打ち砕かれた。東京、新橋。ここはサラリーマン、そして飲んだくれの街。

金曜日の新橋は蒸し暑さは人混みによってもう限界。無意識に駆け込んだ冷房の効いたコンビニ。

その入り口でウコンの力を勢いよく飲み干すワイシャツのおじさんに、この街の本気度が伝わってくる。

そして店内の栄養補給系ドリンクコーナーにもウコンの力は山積みで、思わずゴクリと固唾を飲んだ。

「おお、これがSL広場か。すごい人の数だな。こりゃあ合流できるかな」

ここに来たのはとあるフォロワーの女性と飲みに行くためだ。

普段新橋で飲み歩いているという彼女が予約した店「二貴」は三百種類以上の焼酎が揃う名店らしい。

僕はとりあえず服装の特徴と、なぜか近くで踊っていたマイケルジャクソンのそっくりさんのことを目印としてメッセージで伝えると、都知事選挙の喧騒を聞きながら待っていた。

少ししてやってきたフォロワーの女性は小柄な、そしてすごく可愛い子だった。可愛すぎてしどろもどろな挨拶となる。

しかし普段の酒飲みの投稿、そしてこの街の雰囲気とのギャップが激しく、東京ってすげえと感嘆する他なかった。

僕らが出発するとき、マイケルはまだ踊っていた。

「これって入り口なんですかね?」

彼女が指差すドアはどう見ても裏口というか勝手口というか、仕事で使ってます風な灰色のメタリックな風貌で、とても客を迎え入れる雰囲気ではなかった。

しかし周りを見てもドアはない。思い切って開けてみると隙間から耳を貫く飲み会話の塊。そしていらっしゃいませの声。

新橋、二貴。案内されたカウンターの目の前にはその評判に違わぬ焼酎の列。なぜか高い位置に置かれた甕や、ところ狭しと並べられた瓶の数々。

メニューをめくってもめくっても焼酎。そのすごさに圧倒される。

酒が弱い僕は初手から焼酎いくと死んでしまう恐れがあったため、とりあえず梅酒のソーダ割りを頼む。

さわやかな酸っぱさで湿気を忘れさせてくれる。そこにやってきた冷やしトマトが不思議と梅酒によく合って、ようやく一息の清涼が訪れた。

初めて行った店で頼んだ料理が全てうまい。これほど幸せなことはないだろう。ここにはそれがある。
生エイヒレや鯛めしも美味かったが、その中でも際立って目立っていたのはカニクリームコロッケ、そして揚げ出し豆腐だ。

カニクリームコロッケ。箸を入れると中身がとろけ……ださないタイプのものだった。濃厚でほっこりとしたクリーム、そしてカニの身が合わさって口が幸せになる。

二杯目にと頼んだ前割りの焼酎ともよく合って幸福度は鰻上りだった。カニだけど。

そして今回の優勝はなんといっても揚げ出し豆腐。普通の居酒屋ではまあいっても二軍、好きな人はいても結局メインの揚げ物などには負ける、そんなイメージ。僕もそう思っていた。

しかし運ばれてきた二貴の揚げ出し豆腐は今までのものを遥かに凌駕し、僕の頭から離れられない一品だった。

まず出汁からして異様にうまい。甘辛くいい塩梅の味付けのそれですでに焼酎がいくらでも進んでしまう。そこに浮いている万能ねぎの千切りも最高のつまみだ。

揚げ出し豆腐本体も当然素晴らしい。薄く張られたコロモはパリッと軽やか。箸を入れるとじゅわあとつゆが染み込んでいく。

口に含むと柔らかな絹豆腐とのコントラストが実に楽しく、パリ、じゅわ、とろっ、の和音を奏でて喉へと落ちていくのだ。たまらない。

思わずふたりとも無言。もしくはただひたすらに「うまい」を言うだけのロボットとなってしまった。

彼女は「これと焼酎だけでイケる」とご満悦な表情を浮かべていた。愛知県にもこの店が欲しい。そう強く願う新橋の夜だった。 

生エイヒレ。これも美味かった
噂の揚げ出し豆腐。優勝。
シメの鯛めし。余ったのはおにぎりにしてくれた。しじみの味噌汁が酔った体に染み渡る。

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緑川 悟
あなたのそのご好意が私の松屋の豚汁代になります。どうか清き豚汁をお願いいたします。

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