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「さすが、火消しがお上手ですねえ」中華そば屋伊藤@王子(東京ラーメン短歌散歩その1)
焦げくさい匂いに顔を背けると野次馬に潜む微笑む悪魔
鋭角なパンチと優しい抱擁を生み出す声の深い年輪
会話する老婦と馴染みの老警備バスロータリーに曼荼羅がある
「さすが、火消しがお上手ですねえ」
世の中には、本当に裏表のない悪人というのがいます。
損得で相手を貶めるのではなく、純粋に相手が苦しんでいることに喜びを感じる人間。
そんな人に出会ったら、とにかく距離を取って関わらない、という選択肢しかありません。
相手を変えようとか、自分が間違っているのではないかとか、考えたり行動を取ったりする時間は必ず徒労に終わるとともに、自分に興味があるとバレた暁には、ピュアな悪意の標的になるだけですので、とにかく周りからどう思われようか、自分の正義感が許さなかろうが、逃げてください。
そんなタイプの方と数年前に一緒にお仕事をしたときの話です。
その方の部下の方からちょっとテンパった感じの電話をいただき、当方の部署の関係で至急対応が必要になる可能性があることがあり、至急打ち合わせをしたいので来てほしい、と。
件の方は、割と有名な人でしたので、上司に話して、「何かわかんないけどとりあえず行ってきますわ」と話したら、「なんかあったら自分も行くから」と上司もやや警戒した感じで話があり、「その場では約束せず、全部引き取ってきますんで」と話して打ち合わせに1人で向かいました。
会議室に入ると、先方の部署は6人ほどいて、当方を取り囲むように座っており、その中央に件の方が笑顔で鎮座して、当方が入るなり、「いやあ、困ったことになりましたねえ」と大見得をいきなり切られまして、憂鬱な打ち合わせがはじまりました。
「あらあら、どうしたんですか」と、あえてその方のテンションに合わせて口を開くと、その方以外の5人が当方を責めるような口調で、「困ったこと」について説明をやや早口でします。
その様子を満足そうに目をつぶって聞いている御大。
自分が若ければ日和ってしまうところなのですが、その方案件で苦労したのは初めてではなかったので、落ち着いて事実と想像を切り分けていき、他部署に確認すべきことと部署内で整理すべきことを仕分けていきます。
整理しきると、別に至急の案件でもなく、会社としての対応が漏れているなら、当方の部署で対応しなければいけないのですが、ぼんやりと別の部署で対応していた記憶もあったので、「状況は承知いたしました。早めに教えていただきありがとうございます。対応が必要かどうか、確認してご連絡しますね」とほほ笑んだところ、5人は「よろしくお願いします!」と爽やかに言ってくれるのですが、御大は、一人つまらなそうに遠くを見ています。
自分の部署に帰って、粛々と関係者に電話したり、アポ取って会いに行ったりして、状況を整理すると、すでに対応されている、もしくは新たな対応が必要になっても別の担当部署が対応することが整理できたので、その日のうちにもう一度その部署に行って、電話をくれた方に丁寧にご説明しました。
「問題が起きる前に情報提供いただきありがとうございました」とぺらっぺらの社交辞令を置き土産に帰ろうとしたところ、数メートル離れたところで聞いていた御大が一言、「さすが、火消しがお上手ですねえ」とおっしゃりました。
その一言で、御大は、家を燃やして、中で右往左往する人を見て楽しもうとしていたんだなということを知り、ああ、やっぱりナチュラルボーン悪人っているもんなんだなあ、とその日の酒量は随分増えました。
究極の煮干しラーメン
ピュアな悪意が自分に向けられたとき、対抗するのではなく、距離を取るしか答えがないことはよくわかっているのですが、心にモヤモヤは残ります。
週末までこびりつくようにモヤモヤが取れないときは、処方箋が必要です。
処方:究極の煮干しラーメン
お薬をもらいにJR京浜東北線王子駅に向かいます。
王子駅北口を出ると、バスロータリーがありますが、そのバスロータリーではなく、右手の大きめの交差点を渡ったところにある10番乗り場・12番乗り場から「王40西新井駅前行き」または「王57豊島五丁目団地行」のバスに乗ります。
3分ほど揺られると、豊島四丁目のバス停につくので降車し、郵便局の右手の路地に入って、3分ほど歩くと、中華そば屋伊藤が出迎えてくれます。
看板がないのですが、かろうじてガラスの奥に反射して見える「伊藤」ののれん。
GoogleマップとGPSに感謝しながら、お店に入店します。
メニューは、「そば600円」「肉そば750円」「大盛り150円」のみ。
症状が重いので、店員さんに「肉そば大盛り」を注文します。
店内は地元の方が多く、ちらほら私のようなラーメン好きで遠くから来た人もいます。
テーブル席があり、小さいお子さんを連れた若いご夫婦が仲良く分け合いながら、家族で麺をすすっています。
英才教育ですなあとこの国のラーメン界の未来の明るさを確信していると、着丼です。
スープ、麺、肉、ねぎ。
無駄のないフォルム。
スープを一口すすれば、口の中にキリっと広がるスッキリとして濃厚な煮干し。
そして、強力なコシのあるパツパツの細麺。
チャーシューはホロホロで、麺・スープと合わせて食べると、煮干しの風味と肉の旨みが合わさって、感動を覚えます。
あっという間に完食。
心に広がる中華そば屋伊藤のご主人・店員さん、そして煮干しをはじめとした食材の皆さまへの感謝の気持ちに全身が満たされ、いつのまにか心のモヤモヤも消え去っていきました。
お店は調理場にいるご主人1人と注文を取ってくれる店員さん1人の2人しかおらず、いつもお忙しそうですので、お金を払ったら、お2人がいなくても、奥の厨房に聞こえるように「ごちそうさまでした!」と声をかけさせていただき退店します。
すると、顔は見えませんが、照れくさそうな店長の「はーい、毎度ー!」という優しくも芯のある職人の声が返ってきます。
お店を出ると、同じ道を戻ってバスに乗って、王子駅へ。
王子駅からは、20分ほどで歩いていくこともできます。
バスを降り、自動販売機で缶コーヒーを買い、ラーメンの余韻に浸りながら、改札口へ歩きます。
駅前のバスロータリーでは、警備員の方がバス、タクシー、歩行者を丁寧に誘導しています。
なんとなくその様子をながめていると、手押し車を押したご婦人が、老いた男性警備員の方に近づいて行って談笑しています。
休日の昼間は、バスの量も大して多くないので、朗らかな光景です。
深呼吸をして、缶コーヒーを飲み切ってごみ箱に捨て、改札をくぐって帰ります。
明日になれば、今日は休日出勤の妻に「昨日何してたの」と聞かれ、「ラーメン食いに行ってた」と答えれば、「またラーメン?バカじゃないの?」と言われることは確定しており、「お薬をもらってきたんだよ」と言っても、「は?」と言われて、不機嫌の導火線に着火することにもなりかねませんので、今日のことは心にしまい、昨日も今日もこれからも、職場で家庭でボヤを早めに消し続けるつまんない人生を送ることになるのでしょう。
次回、10月25日(月)更新予定。
「〇〇さんは俺昔から知ってるから、直接言ってもいいんだけどさ」用心棒@東大前です。
良い一日をお過ごしください。