【短歌&エッセイ】小学生のバンギャル
テキスト・短歌/坪内 万里コ
小学生から大学生にかけての私は、いわゆるバンギャルだった。全ての始まりは、バンギャルだった5歳上の姉の影響でヴィジュアルロックを聴くようになり、小5のある時、偶然ネットで見つけた大分県のヴィジュアル系バンドの虜になった。そのバンドのライブに行った事は無かったけど、ネットでライブ映像を繰り返し見たり、メンバー内で特に好きだったギタリストのH(仮名)に、おぼつかない字面と拙い文章力でファンレターを定期的に書いていた。かなりマイナーなバンドだったこともあり、しばらくすると大分から手紙の返事が届いて、自分に宛てられた、学校の先生以外で見る機会のない達筆の文字に異様にドキドキしたのを今でも思い出す。そんなやりとりを何度か繰り返していた時、バンドとして初めて名古屋でのライブが決まった。
場所は雑居ビルの中にある小さなライブハウス。人生で初めてのライブハウスは、まだ幼かった私に大きな衝撃を与えた。お札のようにステッカーがびっしりと貼られた重厚な黒いドアの向こうから轟く重低音。中に入ると舌が痺れてしまうほど全身に音楽が鼓動して、緊張して速くなっているはずの自分の鼓動が一切聞こえない。お客さんは各々突っ立ったり気怠げに壁にもたれたりして、お酒の入った透明プラカップを片手にゆらゆら音楽と揺れている。目の前に立っていた蛍光ピンクの髪色のお姉さんは、小さく頷くようにリズムを取っていて、頷くたびに唇のピアスが照明でひかめいていた。
お目当ての大分バンドがトリで出る直前、緊張しつつ少しだけ前方に出ると、それを察した周りのお客さん達がステージ最前の中央に「ここおいで」と私を通してくれた。背の高い大人に囲まれながらメンバーの登場を待っていると、ステージ袖から登場したHが私を見つけるなり分かりやすく微笑む。条件反射で私も微笑む。Hの長い金髪と力強くリードギターを掻き鳴らす姿は画面上で見るより断然格好良く、終始私はステージの柵を両手で掴み、棒立ちでその姿を眺めていた。待ち望んでいた光景があまりにも嬉しくて、身体を少しも動かす気になれなかった。視界の端では大人たちがゆらゆら揺れていた。
終演後、物販に座っていたHのところに行くと「来てくれてありがとうね」と、これまでの手紙の話題や当時流行っていたコミュニティサイトのことなど、側から見れば異様な二人だったろうけどHは小学生の私に色んな話をして笑わせてくれた。観客もまばらになった会場でバンドのステッカーを一枚購入し、Hに手を振りライブハウスを後にした。
ほどなくしてバンドは解散し、Hの名前で検索をかけてもその後のHの行方は出てこなかった。きっとバンドマンはやめている気がした。未だ行ったことのない大分県だけど、私の音楽ルーツの始まりは大分県のヴィジュアル系バンドにある。ちなみに当時から使っている私のメールアドレスは、いまだHの名前が入ったままだ。