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MTS#08「toCプロダクトの企画と戦略 ~Mirrativ & GENDAの急成長の裏側~」

MIDAS TECH STUDYは様々な会社のCTO・PM・エンジニアの方々をお招きし、パネルディスカッションやLTを通して知見や技術を学ぶ勉強会です。今回は「toCプロダクトの企画と戦略」をテーマに、株式会社ミラティブ 執行役員プロダクトマネージャー 坂本 登史文 氏@sakamoto_mirra)、株式会社GENDA CPO 重村 裕紀 氏@ geshi0123)にパネルディスカッション形式でお話いただきました。今回はその内容をレポートいたします。

登壇者紹介

坂本さん:ミラティブはスマホゲームの配信プラットフォームを作っている会社です。配信プラットフォームというと、1人の配信をたくさんのギャラリーの方が見ているといった印象がありますが、ミラティブは「ゲームを通じて誰かとコミュニケーションをとることで、インターネット上の居場所となる」ということをコンセプトにしています。なので、配信で自分のことを話したり、他の配信に行ったりすることで双方にコミュニケーションができるサービスを作っています。
自分は執行役員 プロダクトマネージャーとして、アプリの仕様を含めたプラットフォーム全体の企画、設計やコミュニティをどのように作っていくかということについて、責任を持っています。

重村さん:はじめにGENDAの概要を説明させていただくと、GENDAは「世界一のエンタメ企業」を目指し、プロダクト&サービスの新規開発やM&Aを駆使するなどして、急成長している会社です。2020年12月に株式会社セガ エンタテインメント(現:㈱GENDA GiGO Entertainment)がグループ入りし、現在はゲームセンターを運営するアミューズメント施設運営事業や、オンラインクレーンゲーム事業などを展開しています。

その中でも私はゲームセンターの会員アプリやオンラインクレーンゲームアプリ(LIFTる。/ GiGO ONLINE CRANE)、オペレーション改善のための店舗スタッフ向けアプリなどお客さま向けのサービスから、社内向けアプリまで幅広くプロダクトに関わっています。

企画の打率を上げるには? 

まず初めに、「企画の打率をどのように上げるか」というお話についてまずは坂本さんにお聞きしました。

初期のデータ分析は、分析しない。とにかく集計。集計。集計。

坂本さん:新しいアプリや機能を作る際に、最初期のフェーズではデータ分析は必要ないと思っています。ユーザーが100人規模の場合は、バイネームでユーザーを覚えて、ユーザーの属性やモチベーション変化の要因などを調べ、その中で主なユーザー行動やアプリの改善点について考えていくようにしています。初期段階で分析を始めても、分析のための分析になってしまうなという印象です。
また集計の中でも、滞在時間やリテンションといった熱量指標だけ見るようにしています。ユーザー数の増減はサービスに大きく関係はなく、それよりも、こちらの期待するユーザー層(滞在時間が長い等)に絞って、属性や利用目的などを調べるようにしています。ライブ配信の場合、配信を見ることでユーザーの情報に毎日アクセスできるため、そこからの示唆を得やすい業界であると思います。

定性と定量。両輪が一致して初めて意思決定する。

坂本さん:定性と定量どちらかだけで意思決定をすることはないです。機能を実装する際に、どのくらいのユーザーが使うかを試算しますが、それだけで実装まで至ることはなく、バイユーザーで実際に誰が使うのかということを話してから意思決定することが多いです。

分析基盤だけでなく、文化基盤に投資しよう。

坂本さん:最近だとBigQueryやRedshift、Snowflakeなどの分析基盤を整えている会社が多いと思うのですが、それだけでなく、構築した分析データを使って定量的に意思決定をできるようなチームづくりといった文化基盤の構築にも力を入れています。toCはアウトプットまでのスピードが非常に重要な業界なのですが、スピードが遅いチームを調べてみると、分析がうまくいっていないことがあります。そのため、アウトプットまでのスピードを基準にして分析チームの教育を行っています。
また、ミラティブでは専門の分析チームがあり、そこで定量的なデータを管理しているので、自分はより定性的な、実際のコミュニティの利用者の分析等に軸足を置きやすい環境です。

最終意思決定という概念を棄てる。全て(仮)である。

坂本さん:toCのアプリの場合は、出した機能がダメだったら戻せばいいという気軽さはあります。ベータ版や期間限定の機能として出すことで、ユーザーの反応を見ながらブラッシュアップすることができるため、最終意思決定という概念は捨てて仮で出すという気持ちで行っています。

次にGENDAの重村さんにも、企画の打率の上げ方についてお聞きしました。

顧客戦略に沿って一本槍になる

重村さん:まず、出てきたデータだけを見て意思決定するのは難しいと思っており、企画の時に意識しているポイント4つあります。
1つ目は顧客戦略に沿って一本槍になるということ。顧客戦略とは「Who」(ターゲット)と「What」(便益)で、プロダクトとしてどのような便益を提供するのかを固める必要があると思っています。これに沿っていない施策は打率が低くなると思います。
例えば似たようなECサイトだとしても、顧客戦略の軸が違う場合は、同じ機能を作っても売れ方は異なってきます。自社の顧客戦略の軸に沿った機能を作っていくということが重要になると思います。

素うどんを磨き込む

重村さん:「素うどんを磨き込む」は、プライシングや販売戦略をこねくり回すのでなく、プロダクトの本質的な価値自体を向上させようということです。オンラインクレーンでいうと、素うどんとは「魅力的な景品」「当たった時の快感」や「景品が家に届いた時の喜び」で、これを磨き込まないとKPIは大きく伸びないなと思っています。自分も昔プッシュ通知のABテストなどをたくさんやりましたが、目先のリテンションが上がっただけで、売上や顧客満足度は上がりませんでした。

心のつぼを掴む。つぼは押されて初めて気づく。

重村さん:ゲームセンターのインサイトは、ゲームが楽しい、グッズが欲しいということよりも、そもそもゲームセンターが生きがいで、常に行くきっかけを探していると思っています。クーポンアプリなど開発していますが、ユーザーは安いから行くのではなく、クーポンというきっかけがあるからゲームセンターに通います。インサイトの説明は難しいですが、その辺りをしっかり掴んでいく必要があると思っています。

実装前に調査する

重村さん:ここは坂本さんと意見が違うかもしれませんが、実装前に調査をするようにしています。エンジニア時代に、とにかく様々な機能を実装していましたが、1年間事業がほとんど伸びなかった経験がありました。その経験から、顧客に使われない機能をエンジニアに実装させるのは罪だと思いました。そのため、機能を実装する際にインタビューやコンセプトテストを行っています。

インタビューの際には言葉をそのまま鵜呑みにするだけでなく、インタビュー中の理解スピードや悩む素振りなども注目しています。悩みながらほしいと答えた機能は実際には利用されにくい傾向にあります。また、企画検討中の機能の利用意向を事前に調査することでヒット率の高い機能をあぶり出すことができるのではないかと思っています。

ここまでのお二方の話を踏まえて、さらにテーマを深掘っていきたいと思います。

重村さんは企画から実装までの戦略を決めて一本槍で行われていますが、坂本さんの場合どうですか

坂本さん:ミラティブは、配信プラットフォームとしての枠組みの中に、アバターやライブゲームといったコンテンツがあります。例えるなら遊園地のような構造を持ったサービスです。そのため、一本槍というよりは、チームやそのプロダクトごとにKPIなどを設定し投資を行っていくという形になります。

ミラティブにおける「素うどん」とはどういうものでしょうか

ミラティブは「配信を通じて誰かとコミュニケーションを楽しみたい」というのがコアであり、アバターやライブゲーム、ランキング機能はそれに付属するものです。

内部データの作成分析と最終意思決定についてGENDAではどのようにされていますか

重村さん:ベーシックな数値としてはARPUやMAU、リテンションしか出しておらず、どちらかというとアンケート調査などが多いです。
詳しいユーザー属性ごとの行動データなどは、アドホックなデータとして仮説の根拠づけのための判断材料として出しています。
最終意思決定については基本的にPMに任せています。基本的には顧客戦略と四半期に出すOKRに沿って現場で意思決定をするという形にしています。

事業計画とロードマップ

次に「事業計画とロードマップをどのように作成、運用していくか」についてお話しいただきました。

「作るもの」のロードマップは意味ない。解決する課題のロードマップを敷く。

坂本さん:作る機能を指示するのではなく、改善したいKPIや作りたい文化をベースにロードマップを敷き、そのためにどのような機能を作るのかをPMと相談するようにしています。toCアプリ限定の話ですが、作るものを目標に置いてしまうと、実装したことに満足し、その先の課題解決に行きつかないことが多いため、あまり意味がないなと思っています。
また、ユーザーストーリーに関しても、課題に合わせて作成しています。

ロードマップではなくOKRで管理

重村さん:僕はあまりロードマップの管理はしておらず、事業計画と並列で事業戦略があって、それを四半期ごとにOKRに下ろしていくようにしています。

ロードマップとしては四半期ごとの施策の策定とそれによる来期末時点のKPIの推定を行うのですが、年間計画はあくまで参考で、四半期ごとに改めて今必要な課題を落とし込むといった運用をしています。

重村さん:課題からの施策という点では上図の右の表のように運営しており、KPIごとの数値課題について、機能作成等の施策を決めています。
GENDAでは現在4、5サービスの開発を行っており、1チームにかけるエンジニアリソースがあまり多くないというのが現状です。そのため、施策を回すサイクルとしては1ヶ月ほどになるため、施策の精度を高めていけるよう心がけています。
プロダクトだと施策は半年しか作らず、残り半年はリカバリー期間に置くことが多いです。Q1, Q2で確度の高い施策を入れられると事業計画として理想的ですね。

戦略はシナリオベースで

坂本さん:事業として何かに取り組む場合、シナリオを作成するようにしています。先ほどもお伝えしましたが、「xxx機能」といったものは限定していません。課題を解くための期間とゴールは設定しますが、「xxx機能」と定義してしまうと、作ったことに満足してしまい実際の課題解決にPMの目が向きづらくなってしまうと思っています。なので、PMには施策ではなく課題や目標だけを渡し、PMの裁量が大きくなるような運用にしています。
また、ミラティブでは2週間くらいで機能開発をしており、PDCAの期間が短いことが特徴です。課題を設定し、施策がうまくいかなくても次の施策をすぐ試すということをクォーター内で回せるようになっています。

経営陣へのベストプラクティス

重村さん:事業計画の時に不確実性を盛り込むことは大事で、大体Q1、Q2の施策が達成できた際の数値を目標に設定しています。全部うまくいったら最高ですし、うまくいかなくてもQ3、Q4でリカバリーできるくらいの期待値調整をしています。
経営のレポートは週例で行っていて、四半期ごとのKPI、リリースされた機能、OKRのアップデート等について共有しています。
また、MetricsとしてアクティブユーザーやARPU等のKPI推移を、24ヶ月分の月次データと16週分の週次データをチャートで出すことで、長期的トレンドと変動がすぐに分かるように意識しています。toCサービスはボラティリティが高く、長期で数値を見る必要があると思っているので、前年度と比較することで数値の正しい評価ができるようにしています。

経営に報告するKPIはストーリーを添えて

坂本さん:報告する際はストーリーを添えることを意識しています。例えば車で80km/hで走っているとしても、その道路が高速か一般道かによって数値の評価が変わります。経営に報告する際も、数値だけ報告するのではなく文脈を添えて、その数値をどう捉えているかをセットで伝えます。そうすることで、現在の事業における数値を正しく認知し、数値に対する解像度を上げて意思決定のミスを減らすようにしています。
また、経営陣のフィードバックですが、ミラティブでは経営陣も含め社員全員が日頃からサービスに触れているため、ユーザー目線で意見をもらえます。また、海外事例などPM陣が見落としがちな観点の補完をしてくれたりします。


参加者からの質問

ユーザーアンケートはどのように取っていますか

重村さん:自分はP&Gやマクドナルド等、消費財マーケティングの手法を応用することが多く、それに近しい内容を聞いています。性別、年代、世帯区分や、競合サービスごとのユーザー区分をはじめ、ユーザーの利用目的、サービスイメージ、サービス離反理由などを聞いています。
それにプラスしてコンセプトテストなどを取っています。

一般のPMと、CPOや執行役員の違いについて教えてください

坂本さん:PMから執行役員になるには、PMで成果を出すことはもちろん重要なのですが、執行役員だと自分がものづくりをしてそれがそのままユーザーに出るわけではないため、人をうまくマネジメントしてチームの成果を上げるという心構えや手段が違うという感じです。

重村さん:CPOは、PMとして顧客が求める企画を作るのではなく、企画が生まれる仕組み、構造を作るという点でゲームのルールが全然違うと思っています。それに加えてマーケティングや事業責任、オペレーションといった周辺領域もかなり必要であると思っています。

今日のtoC向けの話はどの程度toBに応用できますか

坂本さん:今回の話はほとんどtoB向けには使えないと思っています。toBだとバイヤーの方は、業務フローを改善するプロダクトをいかに早く作るかということを論理的に検討するので、ロードマップは非常に丁寧に書きますし、戦い方は全然違います。

総括

今回は執行取締役 プロダクトマネージャー、そしてCPOとして活躍しているお二方にご登壇いただき、プロダクト開発における戦略やロードマップの策定について語っていただきました。
施策ベースではなく課題ベースでロードマップを立てていくことでPMの裁量権を伸ばしKPIの達成率を上げるという共通点がみられました。ユーザーの熱量が反映される指標を重点的に集計し、ターゲットユーザーの動向はバイネームで徹底的に分析するミラティブ、アンケートによる情報を元に実装を進めるGENDAとプロダクト開発の取り組み方に違いが見られたのも大変興味深かったです。
お忙しい中ご登壇、ご清聴下さった方々、誠にありがとうございました。

次回イベントは「Money Forward,GENDA,BuySell TechnologiesのGo最前線」と題し、各社GOでの運用や開発についてお話しして頂きます。

「Money Forward,GENDA,BuySell TechnologiesのGo最前線」のお申し込みはこちら↓から
https://midastech.connpass.com/event/266874/

MIDAS TECH STUDYでは今後も急成長企業の方々をお招きしイベントを開催して参りますので是非今後ともご参加よろしくお願いいたします。



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