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プロダクト成功の鍵は"課題設定" 深津貴之氏、マネーフォワード山田一也氏が語るUXデザインの考え方

こんにちは!
Micoworksプロダクトマネージャーの淡島です。
今回のnoteでは「プロダクト戦略」の社内セッションレポートの後編をお届けします。

▼前回のレポートはこちらから

前回に続いてMicoworks顧問であるTHE GUILD代表取締役の深津貴之さん、マネーフォワードビジネスカンパニーCSO山田一也さんの両名をゲストに「プロダクトにおけるUXデザイン」をテーマに、ディスカッションを行いました。

【ゲストプロフィール】

深津貴之さん
株式会社THE GUILD 代表取締役
武蔵工業大学(現:東京都市大学)卒業後、2年間のイギリス留学でプロダクトデザインを学ぶ。その後、株式会社thaへの入社を経て株式会社Art & Mobileや株式会社THE GUILDを設立。note株式会社のCXOなども務める。

山田一也さん
株式会社マネーフォワード 執行役員 ビジネスカンパニー CSO
2006年に公認会計士試験に合格し監査法人トーマツに入所。その後、株式会社パンカクにて執行役員CFO、株式会社Bridgeにて執行役員ベンチャーサポート事業担当を経て、2014年に株式会社マネーフォワードへ入社し、現在はビジネスカンパニーCSOとして戦略全体を統括。

UXとUIは何が違うのか?


Micoworks代表 山田修(以下、Micoworks山田):
前回に続けて、「プロダクト開発におけるUXデザイン」というテーマでディスカッションさせてください。

最近、プロダクト開発領域で UX デザインの重要性が叫ばれるようになってきていると思います。それに伴い、UXデザイナーの需要も高まっていますが、UXデザイナーの職務とは何でしょうか。

株式会社THE GUILD 代表取締役 深津貴之さん(以下、深津さん):
UX はユーザーの認知、体験、行動、記憶など含めたサービス体験に関わります。そのため、UXデザイナーはプロダクト設計の前工程から整理していく役割を担います。

一方、並列して語られることの多い「UI デザイナー」は画面のボタンの位置関係や、操作挙動をデザインする人のこと。職人的な業務特化したプロフェッショナルですね。

Micoworks山田:
求人を「UI・UX デザイナー」でまとめて出してる会社も多いですが、
UX デザイナーとUIデザイナーに求められる職能は異なりますか?

深津さん:
全く別の職種ですね。
「UI/UXデザイナー」という表記は、「会計/経営」のような書き方ですね。
経営の一技能として会計能力はあるけど、会計能力だけでは経営まではできないよねっていう話。メインセットとサブセットがくっついてる状況だと思います。

Micoworks山田:
実際、UIデザイナーとUXデザイナーはキャリアは別々のルートなんですか?

深津さん:
基本的には、UX デザイナーがスキルアップのためにUIを学ぶのはいいとは思います。

しかし、UI だけを極めるというのは、文章力を極めるのに近い。文章力があれば小説をかけるか…というと、そんなことはないですよね。

それだけだと、いいサービス設計できるかは別の話です。イメージとしてはUXのほうが広く横断的な職能、UIのほうがよりエキスパート性が高い職能…というイメージでしょうか。

UX設計で重要なのは「課題設定」


マネーフォワードビジネスカンパニーCSO 山田一也さん(以下、マネフォ山田さん):
プロダクト開発においてUXはかなり大事だと考えています。
UXデザイナーだけに限らず、プロダクトマネージャーもUXを学習した方がいいと思っています。

深津さん:
そうですね。
UXデザイナーはまず初めに、
・プロダクトを誰よりも触って、誰よりも詳しくなること
・ユーザーのことを把握すること
を一歩目としてやれると理想的です。

これは、プロダクトマネージャーでも共通するかと思います。
UXをしっかり設計できてれば、個別のUI 設計は要件定義すると
プロフェッショナルがしっかり整えてくれると思います。

マネフォ山田さん:
UXの段階で明らかに課題設定を間違えたり、解決の方向性を誤るとどんなに素晴らしいユーザーインターフェースでもお客さまの課題は解決できないんですよね。
プロダクトの成功を決めるのは、UX の課題設定だと考えています。

深津さん:
例えば、「MicoCloud」のようなマーケティングシステムのUX を決めるとしたら、以下の2つで全く異なるプロダクトになると思っています。

①300個のボタンを駆使して、ピンポイントでターゲットを設定。顧客ごとにカスタマイズしたマーケティングを実現できるプロダクト。

②カスタマイズの自由度は少ないけれど、3つのボタンから選ぶだけ。誰でも簡単に操作できて一定の効果が期待できるプロダクト。

どちらも良いツールになると思います。でも、全く違うターゲットに対して異なるUXを提供しているんです。どちらの体験を提供したいのか理解して、機能を決めるのが大事になってきますね。

Micoworks山田:
このような顧客体験の定義はプロダクト設計のはじめに定義すべきでしょうか?

深津さん:
はじめに定義した方がおすすめですね。

小規模の事業者が使うプロダクトの場合、辞書一冊分のマニュアルを読んで8時間の講習を受けて100個のボタンを暗記して、、、というのはおそらくやりたがらない。少人数だと多数の業務を兼務するので。

むしろ1週間に1度操作するだけで、あとは本業に集中できる環境を生み出せる。そんなプロダクトを望んでる気がします。

Micoworks山田:
おっしゃる通りです。

深津さん:
プロダクトによって"誰の"、"どういった悩み"が解決し、その人が最終的にどんな状態になるのかを決められると良いと思います。

ターゲットとなる顧客に求められているのは何か?たとえば「プロダクトを毎日6時間駆使して、最高のパフォーマンスが出せるサービス」なのか?
それとも「徹底的に業務を簡易化させて1日1分で終わらせるサービス」が望まれてるのか?

山田さん:
なるほど。プロダクトのターゲットと課題設定をするために、最も大事なことは何ですか?

深津さん:
まずは顧客へのヒアリング。そして、自分自身が業務オペレーションを体感して課題感を把握することが大切ですね。

マネフォ山田さん:
わたしもマネーフォワードでプロダクトマネージャーの教育に携わっていますが、ユーザーインターフェースよりも、むしろ顧客が日々何を考えているのか、顧客が業務で課題を感じているのは何かを理解することを重視しています。

インターフェースは、プロダクトマネジメントのごく一部分でしかありませんし、後からいくらでも修正できます。
でも、上流工程の課題設定を間違えてしまうと、途中でプロダクトをゼロから作り直すような事態になりかねません。
そのため、初期の課題設定の段階にコストをかけた方がいいと考えています。

深津さん:
僕は「良い UX を何か」を説明する際に、掃除機の例を出すことが多いんです。

掃除機Aは、素晴らしい性能や精度を誇る掃除機。
この掃除機を使うと部屋がとても綺麗になります。

一方で、掃除機Bは自動で勝手に部屋を綺麗にしてくれる製品。
この掃除機があれば、そもそも掃除をしなくてよくなるので、他のことに有意義な時間を使えるようになります。

さらに別の方向として、掃除機Cは日々の掃除がものすごく楽しくなるというのが売りの製品。機能が特別優れているわけじゃないけれど、毎日苦痛だった掃除が楽しみでたまらなくなる。

どの製品も「いい UX」なんですけど、どの製品を目指すかで全く違う山の登り方になると感じています。

Micoworks山田:
プロダクトの課題解決の方向性を決定するのは、UX デザイナーなのでしょうか。

深津さん:
UX デザイナーの理想的な能力の一つですね。
ただし、最終的な決断を下すのは経営陣になるのではないでしょうか。

山田さん:
そう捉えると、UX デザイナーは非常に高度なスキルセットが求められますね。

UXデザイナーの責務は、ユーザーインサイトを徹底的に深めること

マネフォ山田さん:
プロダクトの課題解決の方向づけを一人で行うのは難しいので、マネーフォワードの場合、プロダクトマネージャーと UX デザイナーの組み合わせで行うことが多いです。

インタビュー手法や、顧客の声からユーザーインサイトを深めていくのはUXデザイナーに知見があります。一方、業務の解像度や、ユーザーの課題感はプロダクトマネージャーが持っているケースが多い。その二人の掛け合わせでプロダクト企画開発を進めるやり方を採っています。

深津さん:
UXデザイナーが最低限行うべきだと思うのは、ユーザーインサイトを深めて「ユーザーを幸せにするためのサービス体験が、Xパターン考えられます」という道筋をしっかり導き出すこと。

それを踏まえて、技術的、金銭的、マーケット的制約が組み合わさった中で実現可能な方法はどれか、利益を上げる産業になるのは何かといった意思決定は経営陣やプロダクトマネージャーが行うのが理想です。

Micoworks山田:
マネーフォワードの場合、UX デザイナーの採用ははじめから経験者を採っているのでしょうか?

マネフォ山田さん:
元々 UX デザイナーとして中途入社された方もいますし、UI デザインから独学で勉強してUX デザイナーにジョブチェンジするパターンもありますね。

専門性が高く、社内に十分教育できる人材がいなかったこともあって、社外での勉強や機会を積極的に活用してもらえるように、会社として費用負担という形で支援しています。

Micoworks山田:
スタートアップのフェーズでは外部機会も積極的に活用しながら、メンバーのスキルアップの支援をしていくことが必要ですね。
お二人のお話を通して、プロダクトの課題設定を担うUXデザインの重要性がよくわかりました。

クライアントヒアリングや現場の課題感の把握を進めると共に、スキルアップ機会の準備を含めて、「MicoCloud」の機能開発や組織体制の改善に活かしていきたいと思います。

深津さん、山田さん、改めてありがとうございました!