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異学年学級での『学び合い』の教科書

はじめに


1.『学び合い』とは

『学び合い』(二重カギカッコ)とは、上越教育大学の西川純先生が提唱している教育観に基づく実践です。まずは、『学び合い』におけるスタンダートな授業の型を紹介します

①語る

授業の始め5分は、教師による語りをします。これは、学習内容ではなく、授業を通してどういった姿を子どもたちに求めるのかということを語ります。『学び合い』では、一人も見捨てず全員達成が求まられます。そこで「全員が達成するために、みんなで考えて動いてください」ということを伝える場合が多いです。

②子ども同士で学び合う

『学び合い』でのスタンダートな課題の出し方としては、本時の問題をすべて示した後、一番押さえたいポイントの課題について「〇〇について友だちに説明し、3人からサインをもらうこと」とします。本時の課題を確認したら、あとはひたすら子どもたちは課題に向かいます。そこでは、一人で黙々と課題に取り組んでもいいし、友だちと一緒に相談しながら取り組んでもいいです。教師は、困っている子がいたら「Aさんが困ってるみたいだよ。誰か助けてくれないかなー」とか「Bさんがとてもいい考えをしているね」などとつぶやきながら、子どもたち同士をファシリテートする役割に徹します。

③フィードバック

授業終了5分前になったら、授業の様子を教師がフィードバックします。学習内容ではなく、学習の様子(態度)についてのフィードバックがメインになります。つまり、一人も見捨てないために、誰かに頼ったり、誰かを助けたりする姿があったかどうかを見て、それを価値付けていくフィードバックです。

本書では、こうした『学び合い』の実践をベースに、異学年合同での『学び合い』をどのように行っていくかを考察していきます。なお、前述した『学び合い』の実践については、多数の書籍にその実践の内容やコツが書かれていますので、未読の方はぜひ一読されてみてください。
以下の書籍は、初めてでも読みやすいのでおすすめです。

2.学校における異学年学級

学校現場では、先生の意図とは関係なく異学年構成されるクラスというのが存在します。それは主に「特別支援学級」「複式学級」です。本書で述べる異学年学級は、この2つの学級形態のことを指します。

特別支援学級

 特別支援学級は、学校によって実態が様々です。種類としては「弱視」「難聴」「知的障害」「肢体不自由」「病弱・身体虚弱」「言語障害」「自閉症・情緒障害」の7種類があります。共通することは「子どもたちの特性に合わせ、特別な支援(ニーズ)に応じて学級編成がなされる」という点です。例えば、ぼくの経験した小学校現場では、主に「情緒学級」と「知的学級」のクラスがありました。どちらのクラスの子も、その特性に応じた支援が必要なので、1つのクラスとして構成されます。なので「同じクラスに2年、4年、6年生がごちゃまぜ」のような状況です。これはぼくの勤務校が特殊なのではなく、全国の特別支援学級では普通に見られることです。

複式学級

 日本には、多くの学校があります。人口50万人以上の大都市から人口100人以下の村まで、住む地域は多様ですが、義務教育としてすべての子どもが通う事のできるよう設置されています。そして当然ですが、住む地域によって子どもの数も違います。クラスの人数の平均は、全国的に20~30人程度だと思われますが、その地域に「子どもが3人しかいない」という状況も十分にあり得るわけです。そのため、小中学校では、複式学級というものがあります。これは、前述した特別支援学級のように、異学年構成されたクラスのことです。特別支援学級は子どものニーズに合わせて学級編成が行われるのに対し、複式学級は子どもの数の少なさを根拠として、学級を一つにまとめていくものです。

『学び合い』の実践は、子どもたちの多様性を最大の強みとして実践を行っています。しかし、上記した2つの異学年学級においては、通常よりも極端に人数が少ないという点から、スタンダートな『学び合い』の実践が非常に難しいです。そこで以下に、ぼくが異学年学級で行ってきた『学び合い』の実践方法について詳しく解説していきます。

3.授業の準備

①課題設定の仕方

 ここでは『学び合い』での基本的な課題設定の仕方と、それに加え、異学年での『学び合い』の課題設定の注意点についてまとめました。

・教科書を使う
 教科の問題集をそのまま使うのが、一番やりやすいです。準備もほとんどいりません。本時でやるべきページと問題を板書し、スタートさせればいいのです。ノート指導は先生方それぞれの方法でされていいと思いますが、なにもしなくてもかまいません。「課題が達成できる」ことが目的であって「ノートをきれいにまとめる」ことは目的ではないからです。なので、あまりこだわり過ぎると『学び合い』の命である子ども達の関わりの時間を奪う可能性もあります。そのあたりは、学級の状況に合わせて対応していただけたらと思います。

・ドリルを使う
 国語や算数のドリルを購入されている学校は多いと思います。それをそのまま使うことも考えられます。算数ドリルのような問題集の場合「このページをやり、最後の問題を友だちに説明してサインをもらいましょう」という課題設定が考えられます。また、漢字ドリルのような「こなしていく系」の場合は、「1ページ終わるごとに、友だち同士でチェックし合ってください。3人からOKをもらったら、次のページに進みましょう」のような課題設定が考えられます。

・教科用ノートを使う
 教科によっては、普通のノートではなく教科用ノートを使用する場合があります。例えば小学校理科では、地域柄さまざまな土地の特色があり、自然観察に差があるため副読本を使用することがあります。北海道と沖縄で同じ教科書を使用すると、ちがいがあり過ぎて難しいのです。そのため、地域の特色に合わせた教科用ノートを購入し、それを使用することがあります。この場合は、前述したドリルのような使い方で「このページをやり、最後の問題を友だちに説明してサインをもらいましょう」という課題設定が考えられます。

・プリントを作成する
課題は単元テストを参考にします。具体的には、単元テストの問題と解答をのせ「説明してサインをもらいましょう」とします。1授業につきプリント1枚とすると、子ども達も見通しを持ちやすいです。プリントはノートに貼り付ける、もしくはファイリングしていくといいです。

≪異学年学級での注意点≫
 前述した課題設定の仕方は、通常学級でも異学年学級でも使用することができます。しかし、異学年学級での大きな特徴の一つに「少人数である」という点が挙げられます。高学年が一人の場合、サインをもらえる相手が先生一人しかいない、という場合があります。その場合、高学年のプリントは「先生からサインをもらう」とします。
・同学年が3人未満のときは、人数に合わせて「2人からサイン」「1人からサイン」としてもいいと思います。ただし、人数が少なく多様な考えが生まれにくかったり、間違った考えを修正せずに最後まで走り切ってしまう恐れもあります。それを考慮し、先生のチェックが必要になる場面もあると想定されます。なので、ぼくの実践では「友だち3人(※学級の実態に応じて調整)からサインをもらい、最後は先生からサインをもらう」としました。すると、最後に軌道修正ができるので、学びの方向性がズレることはなくなります。

②支援の仕方

 『学び合い』の学習では、とにかく子ども達同士の関わり合いが命です。そのため、立ち歩きを推奨します。多くの先生方は「え?」と思われるでしょう。しかし、30人学級であれば、クラスの中には先生に教えてもらわなくてもできる子や、自力で教科書等を読んで課題解決できる子がいます。なので、その子たちの力を発揮させ、子ども達同士で学び合うことを保障すれば、学級全体の学習はきちんと成立すると考えています。言い換えると、教師は子ども達のファシリテーターとして「積極的に教えない」というスタンスが必要です。

≪異学年学級での注意点≫
 しかし、異学年学級の場合、その学年の子どもが1人だけという状況もあり得ます。そのときは、物理的に学び合う相手がいないので、優先的にその1人と教師がマンツーマンで学び合うようにした方がいいと思います。その1人がもしその学級の最高学年であれば、先生に説明しサインをもらえたら合格にします。また、上学年がいれば、先生に説明しサインをもらったあと、上学年の子たちに説明に行かせてあげればいいです。
どの学年も複数の子どもがいる場合でも、せいぜい3~4名程度なので、そこだけで多様性を確保することは難しいです。学力層が偏っていた場合は、の3~4名で真剣に学び合っても課題解決が難しいという状況はよくあります。そうした事態を防ぐために、教師はなるべく高学年を優先的に支援してあげます。すると、早めに終わった子どもたちが下学年との学び合いに参加できるからです。
どちらにせよ、異学年学級での『学び合い』においては、教師のサポートは必要であると、ぼくは考えています。

4.『学び合い』の可能性

 異学年学級での支援は、通常学級とは全く異なります。経験されていないと伝わりにくいのですが、やはり「学年がちがう子たちを同じ時間に指導する」ことや「少人数」という特徴から、特に授業の在り方を大きく変えていく必要があると思います。ぼく自身、本記事を書いている時点で特別支援学級の担任として3年目に入っていますが、それまでの10年間の通常学級での指導方法とは大きな変革を求められた3年でもありました。
 そんな中、ぼくは特別支援学級という異学年学級での『学び合い』にチャレンジし、今はなんとか学習が軌道に乗ってきたように感じ、改めて自分の実践を言語化してみようと思い立ち、このような記事を書いています。

なお、本記事の中の実践はぼくの“現在の学級”での取り組みを元に記述していますが、おそらく来年同じように異学年学級を持った場合、また全然ちがった実践内容になると思います。それほど、異学年学級での実践は、子どもたちの実態に応じて対応していかないといけない難しさがあると感じているからです。なので、本記事の実践は、あくまでも現時点でのぼくの「最適解」であって「正解」ではないということを押さえたうえで、参考にされてください。よろしくお願いします!


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