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読書感想文 「でぃすぺる」 今村昌弘著

小学生3人が事件を解決していく推理小説、「でぃすぺる」。

私は今村昌弘が好きで、「屍人荘の殺人」で衝撃を受けた。ゾンビが登場する推理小説は初めてで、こんな推理小説があるんだと思った。ゾンビそのものが問題ではなく、殺人事件が起き、その犯人を推理していく面白さは、ゾンビが迫ってくる恐怖が重なったり、トリックを状況描写の中で堂々と読者に挑戦していくスタイルに、私はとても緊張感を持って読み進めることができた。それ以来、ずっと今村昌弘を追っかけている。

そして、今回の「でぃすぺる」。オカルト肯定派ユースケ、、オカルト否定派サツキ、ジャッジ役ミナ、という3人の役割がハッキリしていて、サツキの亡くなったお姉さんの残した7つの怪談の本当に意味を探っていく物語。

実体験と正確な描写だけれど、感情が入るユースケに対して、あくまでも論理的に状況推理をしていくサツキ、それぞれを見ながら、冷静に判断を下していくミナ。ミナにそれぞれの意見が否定されて最後まで推理は続く。

小学生の行動範囲では、証拠を集めることができないのを、「推理のルール」を作って、推理の正しさを判断していくのにも驚いた。これにはあるおばあさんのアドバイスがあったのだけれど。

「でぃすぺる」の意味は「追い散らす、不安を拭い去る、晴らす、一掃する」という意味らしい。

7つの怪談の裏に隠された真相を一つ一つ解きほぐすごとに、ユースケとサツキは、それぞれの敗北を感じる。それは「ルールに反しているから」。

7つめの怪談に最大のヒントが隠されていたが、これは今村昌弘がこの小説に賭けた読者への挑戦でもあった。

「十のうちたった一つの約束事を私は守れていないのだから」

「でぃすぺる」 今村昌弘著

推理小説の理論を掲げて、それをヒントにする当たり、それを推理小説に詳しいミナが解き、それに基づいてユースケとサツキがお互いに議論を交わし、最後に「疑惑を一掃し」、ミナが「正解!」とジャッジをくだす。

そして最後の展開に持って行くのだけれど、最終的な「でぃすぺる」に至ったのか、もしかしたら、続編が作られるのか、それが残る余韻のある終わり方だった。

同じ物事を違う観点で論理的に推理する楽しさ、これを存分に味わえる作品。最後まで次の展開をワクワクしながら読み進めることができる筆力や、描写力はやはりすごいと思わせる。

そして余談だが、初めて「ジュブナイル」という言葉を知った作品だった。この作品は小学生だからこそ展開できる話だったのもあって、非常に設定の緻密さを感じた。

#読書感想文

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