接骨院・鍼灸院・マッサージ院でも要注意!ステマ広告の措置命令を考える
2023年10月から景品表示法に「ステマ規制」が盛り込まれ、運用が始まった。あれから8か月経った2024年6月に「ステマ規制」による初めての措置命令が消費者庁から出された。
今回、措置命令の対象となったのは医療法人。初めての措置命令なので消費者庁も慎重になったことだろう。なにしろこれが今後の基準になるといってもおかしくないからだ。
振り返ると2023年10月までに、一体どのようなことをすれば「ステマ広告」となるのかを消費者庁に問い合わせたことがある。しかし消費者庁は具体的な事例についてウェブサイトなどで注意喚起していること以外は「イエス」とも「ノー」とも言わない。これは「ステマ」に限ったことではないが、消費者庁が事例を出してしまうと必ず裏をかこうとする者が現れるからだろう。
そういうわけで、「ステマ規制」の初めての措置命令である。しっかり分析して今後に生かさなければならない。
ウェブやSNSだけでなくグーグルマップも対象
ステマ規制といえば、消費者庁の注意喚起にも挙げられている著名人を使ったものと考える。著名人がオススメしている商品が、実はお金をもらって宣伝していた。そしてそれによって消費者が購入する際に正しい判断ができなくなる、というものだ。もちろん「広告」であることが明らかであれば問題はない。
多くの人が想定していたのは、いわゆるSNSだったと考えている。しかし今回対象となったのはグーグルマップの口コミ(Googleでのサービス名はGoogleビジネスプロフィール)だった。
店舗型ビジネスにおけるグーグルマップの重要性は今に始まったものではない。接骨院・整骨院だけでなく、あらゆる開業ビジネスに記されているほど当たり前のものだ。
そして開業医のグーグルマップの口コミといえば、ありもしないデタラメな口コミによる問題がマスコミに取り上げられたこともある。それだけ経営する側も来院・来店する側も重要視している。であるから最初のターゲットになったのかは定かではない。しかしながら少なくとも消費者庁はウェブサイトやSNSだけでなく、グーグルマップの口コミも見ているということを示したのである。
口コミ依頼ではなく高評価依頼
今回の措置命令は星4以上の高評価を依頼するもので、口コミを依頼するものでなかった。
接骨院・整骨院の広告は口コミに勝るものはないといわれてきた。現在もGoogleマップに限らず口コミを集めることはとても重要視されている。ただ多くの場合、口コミは何もしなくても自然と集まるものではない。やはり依頼をしなければアピールにつながるものは集まりにくい。
そもそも口コミの依頼は当然いい口コミを求めて依頼するものであるし、依頼された方もそういう認識になるだろう。だがそれをあからさまに口に出すと「ステマ」になるのである。
いろいろな理由はあるのだろうが病院や診療所は高評価より低評価、いい口コミより悪い口コミが多くなるようだ。今回、指導された医療法人も割引付きの高評価依頼を始める前は高評価獲得に苦戦していたように見受けられる。そこであからさまな高評価依頼に踏み切ったのだろう。
ポイントとしては星の数の指定のみでも「ステマ」になるというところだろう。まさかとは思うが、指導された医療法人は文面の指示は規制の対象になると認識していたため、星の数だけを指定したのだろうか。
金額の大小ではない
今回対象となった医療法人で行っていたのは、星4以上の高評価を付けた患者へのインフルエンザ予防接種の550円割引と、それほど大きな値引きではない。このことから消費者庁の考え方は金額の大小ではない、ということがわかる。
そもそも柔整・あはきの施術所では保険適用の施術の値引きはアウトだし、自費施術でも割引をうたうことは要注意だ。なぜなら療養費支給基準で「経済上の利益での誘引」が禁止されているからだ。仮に割引を目当てに来た患者が『確実に自費施術のみ』であればいいが、その患者がいつ保険適用施術を受けることになるかわからない。結果的に経済上の利益で保険適用の患者を誘引したことになる可能性があるのだ。
そのうえで、割引や追加のサービスなどと引き換えに高評価や口コミを書いてもらうのであれば、その高評価や口コミは「ステマ」であり、きちんとわかるように「広告」であることに記載が必要である。
ステマ認定の高評価はどうすればいい?
さて、ここまでは何が「ステマ広告」になりうるのかを見てきた。最後に、万が一ステマ認定されてしまった口コミや高評価はどうすればいいか、を考えてみたい。
今回の措置命令で、消費者庁は大まかに以下のことを医療法人に求めている。
・再発防止策を講じ、法人の役員と従業員、クリニックの医療従事者と従業員に周知徹底。
・ステマ認定された広告を表示させないようにする。
・これらを行ったことを速やかに文書で消費者庁長官に報告。
これらの内容はこれまでの景品表示法とほぼ同様の対応であり、消費者庁はいつも通りのことを求めているように見える。
ここで難しいのは2番目のステマ認定された広告を表示させないようにすることだろう。今回の事案が起こったのはGoogleマップの口コミだ。消費者庁はどのような経緯でステマかどうかの判断をしたのかわからないが、医療法人やクリニック側がこれらの口コミを削除するのは簡単ではない。
なぜなら、Googleマップの口コミをフル活用されている方なら知っているかもしれないが、口コミの削除ができるのは投稿した本人かGoogleだけだ。つまり医療法人やクリニックがどれだけ働きかけたとしても、本人やGoogleが削除してくれなければ、消費者庁からの命令は完了しない。医療法人やクリニックにできることがあるとすれば、Googleマップを一旦削除してしまうことだろう。措置命令とは関係のない口コミまで消えてしまうが仕方がない。
また措置命令とは別だが、Googleは禁止および制限されているコンテンツにおいて「企業が提供するインセンティブ(金銭的報酬、割引、無料の商品やサービスなど)が誘因となって投稿されているコンテンツ。」を禁止している。今回の事案であれば、Googleに依頼すれば削除してもらえる可能性は高い。とはいえ、自分の意思ではどうにもできないことなので、削除されるにしてもいつ削除されるのかはわからない。
まとめ
1.柔整・あはきの施術所でもGoogleマップの口コミは経営上重要
2.Googleマップに限らず口コミ依頼はしてもいいが割引はNG
3.ステマは口コミだけでなく高評価依頼も対象
4.外部の口コミサイトなどでステマ認定されると削除が難しい
以上、十分にお気を付けを。