開業「THE AOYAMA GRAND HOTEL」 バレリーナの夢の跡
私が舞台女優をしていた頃、ミュージカル女優という枠なのに踊りの苦手な私は、必死にバレエのレッスンに通っていた。
場所は青山にある「ベルコモンズ」へ。
ここ、ベルコモンズの上階にあった「青山ダンシングスクエア」は故・小川亜矢子先生が日本で初めてチケット制で、様々なジャンルが習えるダンススタジオを開いた場所。
沢山の女優やバレリーナが、大舞台に出ることを夢見て通った場所。
私は、先生の凛とした美しさが忘れられない。
1976年ー2014年まで、ベルコモンズがここにあった。
そして、今年の8月5日、新たな施設として生まれ変わった。
『THE AOYAMA GRAND HOTEL』
4F、カジュアルダイニングとバーとして過ごせるのはThe BELCOMO。
土地の記憶を受け継いでいる。
ホテルとレストランのレセプションが一体型。
レストラン奥に進むと、大きく開かれた窓によって店内とテラス席が解放的に繋がっている。
レストラン入り口にあるバーでは軽く一杯が楽しめる。
そして、4Fのレセプションから上階は客室へ。
まるで、誰かの部屋に訪れたような居心地の良さ。
ここは80年代のヴィンテージマンションというコンセプトに統一されている。細部へのこだわりは、ベッドフレームにまで徹底されている。
ホテルの内装デザインしたのは、A.N.Dの小坂竜さん。世界に誇る日本のインテリアデザイナーが、新たなホテルの空間を作りあげた。
それは、ラグジュアリー過ぎない、懐かしさを感じさせる上質な時間の提案。
80年代のインテリアとして成り立つよう、特別に入れられたのはアートディレクター八木保氏による竹のベッドフレームだ。この高さは、リモアのスーツケースが収納できる高さにされている。
八木氏は、スティーブ・ジョブスと仕事をした数少ない日本人のうちの一人。アップルストアの1号店をデザインした人物だ。
機能的であり、かつ日本らしい素材で心地よい眠りを生み出すもの。
インテリアとして成立し、メイドインジャパンにこだわって取り入れられたという。
煌びやかな美しさはないけれど、丁寧に作りこまれたヴィンテージ感がアンニュイな空気を纏っていて美しい。
昔、ここでバレエのレッスンを受けていた記憶、
その懐かしさを打ち消さない場所だった。
案内してくれた男性は終始とても親切で、こう話してくれた。
「僕は、社員じゃなくてアルバイトで採用されたんです。卒業して一度内定は決まっていたのですが、もっと楽しいことをしたいと思ってここで働き始めました。今は、毎日とても楽しいです!」
そうか、ここでは、今は、職種は違っても、他の誰かが夢を追いかけている場所。
私もまた、仕事も生き方も変わった今の自分で、
ここ青山グランドホテルでの新しい過ごし方を楽しみたい。
青山グランドホテル
東京都港区北青山二丁目14番4 THE AOYAMA GRAND HOTEL
レストラン THE BELCOMO
7:00〜22:00 / 03-6271-5429
ルーフトップテラス The Top
19:00〜22:00
https://aoyamagrand.com/
八木保 | グラフィックデザイナー
1949年兵庫県神戸市生まれ。『浜野商品研究所』を経て、1984年に渡米。『エスプリ』のアートディレクターを務め、広告やカタログ、パッケージ、プロダクト、ストアサインなどのビジュアルコミュニケーションで世界的な評価を獲得する。主なデザインに、『アップルストア』のコンセプトデザインのコンサルタント、『グランドハイアット東京』のデザインディレクション、『マル二木工』の「nextmaruni」チェアなど。近年ではナパバレーで生産されている『KENZO ESTATE』のワインラベルデザイン、「JAPAN HOUSE Los Angeles」のクリエイティブディレクションを担当。また、環境保護団体へのデザイン提供などを中心に各種ボランティア活動も積極的に行う。http://www.yagidesign.com