ウソ吐きは、泥棒猫の始まり?
こんにちは!(こんばんは!)
暑いわね。(寒いわね)
シロよ。(クロじゃないわ)
みんな、どうしている?
私は寝ている。
あくびしている。
猫だからね。
さーて、立ち上がって、伸びよ。ノビー。
えーと、何の話だっけ?
ああ、私が猫っていう話だっけ?
でもそんなの今更って感じよね。
皆、知っているよね。
とにかく、私は白い猫だよ。
よろしくね。今は外猫だから。
もう何が言いたいのか、
よく分からなくなってきたわ。
何だっけ?
でも猫の思考なんて、こんなものよ。期待しないで。
にゃーお。
ねぇねぇ、知っている?
猫という言葉は、寝るという動詞から来ているそうよ。
――豆ね。
ちな、犬は、居るという動詞から来ているそうよ。
――ふ~ん。
じゃあ、猿は、去るという動詞から来ているのかしらね?
――どうでもいいわ。
鳥は、取るという動詞から来ている。
――ああ、もう、この話はやめやめ。
私は猫。今は猫。猫なんだからね。デレないわよ!
今日はちょっと、不思議な話をしたいの。
秘密のお話よ。
コレ、あなただけに伝えているから、他言無用でお願いね。
え?どんな話だって?
まぁ、そんな大した話じゃないわ。
あなたも多分、何となく知っている話よ。
そうね。
猫なんだけど、人間みたいな子って、時々いるじゃない?
よく鳴くし、よくお返事して、動きや反応が、人間ぽい子よ。
アレ、元人間よ。
間違いないわ。
「人間失格」で転落して、猫に転生しているのよ。
私の知り合いに、そういう子がいて、お話を聞くの。
「ミミちゃん」って言うんだけど、人間だったそうよ。
人間だった時も、そう呼ばれていたって言ってた。
夜のお店で、バーニーガールでもやっていたのかしらね?
それとも猫耳の「ミミちゃん」?
元々ケモノっぽい子だったのかしらね。
とにかく、人間だった時の記憶があるんだって!
でも猫だと喋れないから、ニャーニャー鳴くだけ。
ちょっと悲しいね。
でも猫同士なら、意思疎通できなくもないわ。
私的には、結構重要な話で、色々な秘密を知ったわ。
まずお話を聞いて、思った事はこうよ。
人間が猫に転生するなら、
猫が人間に転生する事もあるんじゃないかしら?
どう?
中々の名推理だと思わない?
イケるかな?
ミミちゃんは、「人間失格」で転落したけど、
私は「人間合格」で昇格するの。
そうなると、何が「人間失格」なんだろうね?
また何が「人間合格」なのか、確かめないといけないね。
だから、私はミミちゃんのお話を聞いたの。
人間だった頃の話よ。
うん。ウソ吐きは、泥棒猫の始まり?だった。
何て言うか、凄い生き方していた。
ウソにウソを重ねて、オスを手玉に取るの。
凄い上手。
信じられないくらい同時並行でやって、
一度に何人も手玉にするの。
時々、失敗するけど、全然懲りていない。
子供とかできちゃって、堕していたけど、
アレはヤバいね。
だから今、サクラ耳なんだね。
何か納得。危ないもんね。
とにかく、ひたすら寝技に強くて、
略奪愛のメスだったみたい。
次々メスの人から、
オスの人を奪って行ったみたい。
何でそんな事をやっていたかと言うと、
単純に楽しかったからみたい。
メスからオスを奪い取る事に、
純粋に喜びを感じていたみたい。
だから刺されて、死んじゃった後も、
ちっとも後悔していなかった。
あっ、やっぱ、そういう終わり方?みたいな?
意外と生に執着がなくて、
散り際は、妙に潔かった。
自分が美しくて、気持ち良ければ、
いつ死んでもいいみたい。
そこには美学があるわ。
でも周りには、超迷惑な生き方よね。
だからエンマ様にも、
一体何が悪いのか分からない、
と言ったそうよ。
いや、人間関係沢山壊しているし、
子供堕しまくっているし、ダメでしょ。
とにかく、盗む事に喜びを感じ、
一切悪びれない。まさに泥棒猫ね。
晴れて「人間失格」になり、
動物に転生したみたい。
一般的に、犬になる事が多いそうだけど、
ミミちゃんの場合は猫だった。
まぁ、本人の希望というか、
ミミちゃんの生き方そのもの?みたいな?
人から恋人を奪う事に、
自分の優位性を感じて、盗みまくる。
うん。泥棒猫ね。
それ以外の選択肢はない。
動物的な生き方をすると、
その次は、その動物に転生する訳ね。
じゃあ、人間的な生き方をすると、
次は人間に転生できるのかしら?
これは発見よ。
要検討ね。考えるわ。
デンケン、デンケン、パンセ?
私は考える猫?
あるプロセスの逆を辿れば、
反対側に辿り着く筈だから、論理的には正しい筈。
うん。方法論としては正しい。
あとは自分で試して、実証するしかないわ。
でもその人間的な生き方が、
どんなものか、よく分からない。
そうなると、やっぱり、
家猫になるしかないのかしらね。
う~ん。
このキャンプ場での外猫生活も、
結構良かったのよ。
好きなだけ人の傍にいて、「ちゅーる」がもらえる。
美味しいわ。
それに、色んな人の役に立っている実感はあった。
好きよ。
何て言うか――本中華?
ごめん、ちょっと意味不明だったわね。
滑ったわ。
忘れて、前回の冷やし中華に、
無理やり繋げたかったのよ。
それはさておき、私は旅に出るわ。
探さないで下さい。
すでに当たりは付けてあるの。
キャンプ場から離れて、隣町に行くわ。電車よ。
ICカードはないけど、
しっぽでソフトタッチすれば、改札もOKよ。
こうして私は、ホームから黄色い電車に乗ったわ。
電車猫ね。
土多端(どたばた)から込合(こみあい)まで。
一駅だわ。
窓から、飛ぶように流れて行く景色を独り、眺める。
人、人、
街、街、
車、車、
家、家、
道、道……。
ごめん。ちょっとまた思考が飛んだ。
猫だから許して。
私は込合駅に降りると、商店街を抜けて、
土多端方面に向かった。
うん、キャンプ場からも行けなくもないけど、
電車に乗った方が早いのよ。
私たち猫でも、隣町は遠いわ。
ま、行けなくもない距離って感じ?
最近はGPS付き首輪とかあるから、
人間たちも私たちの動向は掴んでいるみたい。
でも私たちも人間の乗り物は、
使わせてもらうわ。
だから電車猫。
ローカル線限定ね。
夕方、ある一軒家の前に立った。
私はこの家の住人を知っている。
前にキャンプ場にお客さんとして来たの。
案外、近所だと分かったから、調べた。
外猫のネットワークを舐めないでね。
伊達に路地裏で集会開いていないわ。
お仲間の外猫がすでに偵察済みよ。
ここはその中でも優良物件。
私たち外猫も、身の振り方はいつも考えていて、
いざという時のステイ先はあるの。
私は中庭に回ると、青い芝生の庭を渡って、
軒先の下にちょこんと座った。
にゃーお。
ちょっと、家の人を呼んでみる。
「アレ?白い猫ちゃん?」
窓を開けて、若いメスの人が出て来た。
にゃー。
この人はママね。確か子供がいる筈。
「どうしたの?何か用?」
いや、ちょっとご挨拶に来ただけよ。
あの人はいない?
「ん?ん?中に入りたいの?」
私が首を伸ばして、
家の中を見ようとすると、ママはそう言った。
いないなら、また来るわ。じゃあね。
「アレー?もう行っちゃうの?」
ママが私に声をかける。
私は背中を見せながら、一声鳴いた。
にゃーお。
それから毎日、あの人の家に行った。
青い芝生の家だ。
何度か外れがあり、ママと数回会った。
そのうち、「ちゅーる」とか貰ったけど、別にその話はいいわ。
ある日のお昼ごろ、とうとう私はあの人に会った。
「…………」
眼が合った。
私は青い芝生の上に座り、あの人は軒先に座っている。
「あー、シロが来た!」
いそいそとママが出て来た。
後ろに子供の姿も見える。四歳児だ。
「……何か、見た事がある猫だな」
あの人は私を見てそう言った。
にゃーお。
そうよ。キャンプ場で会ったでしょう?
覚えていないの?
「この子、最近、よく来るのよ。家に入れて欲しいみたいで……」
「……でもお前、猫アレルギーあるだろ?」
あの人は、ママにそう言った。そうなの?
「う~ん。私が我慢すれば、大丈夫かな……」
ママは髪を触って、くるくるやっていた。
あの人は黙っていた。
私は背中を向けると、青い芝生を歩いた。
キャンプ場は遠い。
「……シロ、おいで」
あの人は優しくそう言った。
にゃー!
私は走って、あの人の腕に飛び込んだ。
私は白い猫だよ 3/5
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