心臓はポンプであるという話
心臓は血液を全身に送り出すポンプの役割をもっています。血液を全身に循環させるために「循環器系」といった名前が付けられていて、心臓と全身に張り巡らされた血管とから成っています。血管は閉鎖空間なので、血管自体が破れるといった損傷がなければ、血液が血管の外に出ることはありません。ただ、血液は血管の中をダラダラと流れているわけではなく、心臓がポンプのように動いて血液を送り出しています。その働きの表れとして、心臓が動いているという状態を作り出すのですが、これを拍動といった表現を使います。これは心臓が収縮と拡張をリズミカルに繰り返している状態を示しています。
収縮の仕組み
心臓は「心筋」という言葉があるくらいですから、筋肉で出来ています。そうでなければ、動くことが出来ません。筋肉なので、神経による電気的な刺激によって収縮をします。この時の刺激を送る神経は、脳神経といったモノではなく、心臓自体が自分でリズムを決めて、一定のペースで刺激を送り続けます。自分でリズムを決めて自分を動かすという機能なので「自動能」といった表現をしています。
心臓の中に、この自動能を持つ細胞が集まっている場所がが集まっている場所があるのですが、実際のペースは一つ一つ細胞ごとにに異なる固有のリズムを持っています。ただ、これでは心臓を動かすことが出来ません。固有のリズムを持つ細胞が集まった時、そのリズムが同調し始めて揃いだします。そうすると一つの細胞の動きでは弱くても、多数の細胞のリズムが同期して動くので大きな力となっていきます。
それが起点となって、電気的な刺激を伝えるスタートになり、次々の心臓の各部分を順に動かしていくことになって、全体として心臓の拍動として整ったものになるのです。電気的な刺激を伝えるための一定のルートがあって、これを刺激伝導系と呼んでいます。この刺激伝導系があることで、一定の手順で心臓がリズミカルに拍動を行なうことが出来ます。
血液は心臓に戻ったあと、また心臓から出ていくわけですが、心臓の中での血液の移動にも順序が存在しています。前回、心臓に戻ってきた血液が入る小さな部屋を「房」と呼び、心臓から送り出される部屋を「室」と呼ぶといった話がありました。人間の場合、血液は必ず 房 → 室 の順に心臓の中を上から下へ縦に移動します。全身をめぐって戻ってきた血液は右側の房(右房)に入り、下の室(右室)を通って肺に向かって出ていきます。肺で酸素を受け取ると血液は、今度は左の房(左房)に入り、そしてその下にある室(左室)から再び全身をめぐるために出ていきます。
房と室は収縮のタイミングをずらす
この血液の流れから分かることは、房と室が同じタイミングで収縮してはいけないということですね。房が収縮する時、血液は房から送り出されますから、受け入れる室の方は収縮していてはいけません。そして、室が血液を送り出すため収縮するときは、房は次の血液を受け入れるために拡張することになります。こうして房と室、上と下の部屋がタイミングをずらして収縮と拡張を繰り返すことで、血液をスムーズに受け入れ、そして送り出すことができるのです。
房と室、ともに血液は一方向にしか流れないような構造になっています。逆流しないように、それぞれ血液の入り口や出口には弁がついていて、収縮する時は血液の入り口の弁が閉じて出口の弁が開きます。反対に拡張する時は入り口の弁が開き、出口の弁が閉じるような構造になっています。
もし房か室で血液の逆流が起きた場合は、これは弁の働きが十分ではないことになります。そして逆流がある分だけ血液を送り出す量が少なくなります。弁膜症といった疾患になりますが、入り口や出口が狭くなる場合は狭窄症、閉じ方が不十分になった場合は閉鎖不全症と呼びます。
刺激伝導系
先に挙げた心臓の房や室の収縮と拡張のリズムを作り出しているのが、刺激伝導系と呼ばれるものです。固有のリズムで自動能を持つ細胞の集まりがリズムを同調しあって一つのリズムをつくりあげることから始まるのですが、この細胞が集まったスタート地点を「洞結節(とうけっせつ)」と呼びます。心臓の上の方に位置して、場所的には右房の上の方にあります。ここからスタートした電気的な刺激は、3本のルートを通るあいだに房が動いて収縮します。そのあと電気的な刺激は房と室の境目辺りに位置する「房室結節(ぼうしつけっせつ)」と呼ばれる場所に辿り着きます。ここは房と室の境目ですから、両者の役割をつなぐ場所と言えるかもしれませんが、ここで電気的な刺激はスピードを落とします。ストレートに電気的な刺激が流れてしまうと、房と室がともに似たようなタイミングで収縮することになってしまうので、これを防ぐための仕組みです。こうして時間差を作ったうえで、電気的刺激はさらに下って室の壁に辿り着き、これを全体として一気に収縮させます。こうして血液はスムーズに流れていくことができるのです。
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