『絶景本棚』ノート
本の雑誌編集部編
本の雑誌社刊
この本は本の雑誌社という出版社が、ブックガイドと書評からなる『本の雑誌』という変てこなネーミングの雑誌に連載されていた書斎訪問記事「本棚が見たい!」を単行本にしたものである。
本の雑誌社はご存じのように椎名誠(作家)、目黒考二(編集者)、沢野ひとし(ヘタウマ絵の元祖?)、木村晋介(椎名誠の本によれば確か弁護士)のほか、第1号の社員としては後に有名になる作家の群ようこらがいた出版社である。
昔、それこそ私が出版社に勤めていた40年ほど前は、『本の雑誌』はJR市ヶ谷駅周辺(東京都千代田区)の本屋には置いてあったが、その数年後には、それらの本屋は全て潰れてしまった。いまでも大きな書店には置いてあるかもしれないが、そこいらの本屋ではほとんど見かけない。ネットを見ると、いまだこの雑誌は発行されてるようで慶賀の至りである。
でちょっと脱線。市ヶ谷の本屋で思い出したが、椎名誠の作家としてのデビュー作の『さらば国分寺書店のオババ』というエッセイ集をその本屋で見つけて読んだのが、ファンになったきっかけである。文体が独特で、後に「昭和軽薄体」などと呼ばれたが、その頃の時代にピッタリの軽やかな文章が重い内容に反して、すんなりと頭に入ってきた。その後、椎名誠の本は、小説やエッセイなどほとんど読んでいる。
さて、この本のオビには、「人の魂、本棚に宿る」とある。この本に登場する書斎の主は、趣味も専門もバラバラである。4つの章に分かれていて、第1章は百花繚乱篇、第2章は不撓不屈篇、第3章は泰然自若篇、第4章は一球入魂篇となっていて、合計34人の方々の本棚をカラー写真に収めて書斎の構造などの解説がある。
この34人のうち、その名前を私が知っていたのはわずか5名であった。手に取った時は、自分の書斎の本棚の整理に役立つかなと思ったのだが、あに図らんや、ただただ圧倒された。そして、背表紙の文字が読めるくらいに写っているページもあるので、次の興味は、この人はどんな本を読んでいるのかという背表紙読書に移った。
著者名の五十音順に並べてあったり、版型を揃えて並べてあったり、分野別に並べてあったり、いろんな方法で本棚が埋め尽くされている。もちろんまったく整理という概念なしに山積み平積みの人もいる。おそらく本棚から溢れて自然とそうなったのだろうが……。
本棚も作り付けは当たり前、最初から図書館級の収納力のある書庫を作ったり、書庫代わりにマンションの一室を借りたり、いろいろだ。
しかし何故、人は本を溜め込むのだろう。かく言う私も本は捨てられないクチだ。私が手に取ったなかで一番古い本は、小学校2年生の時、誕生日のお祝いに伯母からもらった『クオレ物語』だ。これまで何度かの引っ越しでも全て持ってきていて、いまは住居が定まったので、安心してさらに溜め込んできた。改めて全部の本を一覧することができれば、いらない本が出てくるかも知れないが、それも10冊くらいのような気がする。もっとも、そんな手間と時間があれば、本を読む時間に充てるけれども……。本を捨てるのは自分の人生を削り取るような気がするから、死ぬまで本は捨てられないと思う。残された家族は困るだろうな、とも思うが、死んでから先のことは心配しても仕方がない。だってもうこの世にいないんだから。ただ、もうほとんど手に入らない本だけは、まとめておこうとは思うが、さていつになることやら。