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新たな景色を共に 保育業界の可能性と課題:㈱カタグルマ_中編

■はじめに

こんにちは、ベンチャーキャピタルMICの有賀です。モバイル・インターネットキャピタル株式会社(以下MIC)は、1999年の創業時からデジタルテック領域において、リード投資を基本とし、シリーズAを中心とするオールステージにてスタートアップへ投資支援活動を行う独立系のベンチャーキャピタルです。投資先のスタートアップへの支援の一環として、事業会社との事業連携等オープンイノベーションにも注力中です。

前編に引き続き、ゲストは株式会社カタグルマの代表取締役・大嶽広展さんです。カタグルマが挑むSaaS×保育の可能性とは?創業時に苦労したこととは?3本立ての中編となる本記事では、起業家後の話にフォーカスを当てていきます。

👉前編はこちら👈


■サービス立ち上げ時の成功談&失敗談

MIC有賀:
サービスを創業翌年にはベータ版をリリース、6月には正式リリースということで、相当立ち上がりがスピーディーだったと思うんですが、サービス立ち上げ時の顧客獲得や広報活動における、失敗談や成功談を教えていただけますか?
 
カタグルマ大嶽さん:
はい、まずは成功からお伝えします。当時、まだまだそのタイミングでは資金調達もエクイティではしていなかったので、本当に限られた資金で広報や顧客活動をしていかなければいけないという状況でした。ただ私個人としてのある種強みとして、前職時代に保育業界向けに様々な広報活動をしていたので、何が効果的で何が難しい手法なのかということは一定理解をしていたいました。その中でもやはり、セミナーやウェビナーというアプローチが非常に効果的でした。
資金はさほどないので大胆な投資ができない中でも、ウェビナーやセミナーというものを開催して、一定の業界関係者の方に来ていただいていました。そこで弊社のプロダクトに興味を持っていただいて、そこからコンバージョンが出てきたというのは大きかったかな、と思います。

一方で失敗としては、今の話とも関連するんですけども。特に初期は、業界の知り合いの方々へ個別に「こういうプロダクトを作ったのでぜひ導入してほしい」とお声がけをしていて、「分かった」と導入いただいた先が20社くらいありました。それは非常にありがたかったんですが、ただその動機付けがはっきりできない状態で導入が進んでいったので、実は結構早期にチャーン(解約)が増えたんですよね。なので、もちろん初期で導入いただいたのはありがたい話だったのですが、現場の理解が深まらない中で、経営者が一方的に導入を進めてしまったようなケースも多く、チャーンが増えてしまったというのは失敗だったのかなと。もう少し丁寧にプロシージャする(手続きを進める)必要があったかな、とそんな記憶はあります。当然全部ではないですが、一定数そういったケースがありました。

■ミッションに掲げる「新たな景色」に込められた思い

MIC有賀:
御社ミッションとして「子どもに関わる全ての人に新たな景色を。」と掲げていらっしゃいますが、個人的にこの「新たな景色」という点に大嶽さんの思いが強く込められているように感じます。この「新たな景色」とはどんな景色を想定しているのか、お聞きしてもいいでしょうか?
 
カタグルマ大嶽さん:
そうですね。仰る通り、この「新たな景色」という言葉には我々の思いが込められています。
例えば保育の現場は、本当に毎日、毎時間、毎分、子ども、そして保護者のことをひたすら考えている先生方が、一生懸命に仕事をされている現場なんですね。そういった先生方がいらっしゃるからこそ、保育という世界が成り立っているんです。ただ一方で、どうしても近視眼的になりやすかったり、視野が狭くなってしまいがちなんですよね。極端な言い方をすると、社会との触れ合いがなくなるというか、そういう先生方も実は多いので、「保育の現場を辞めて他の仕事に就きたい」という思いも芽生えやすい業界でもあるんです。そういう意味で、世の中的には当たり前に浸透しているものが、業界的には浸透していない、ということもあるんです。

例えば、非常にシンプルなところで言うと、マーケティングとか採用の場面で、企業は当然のようにSNSを活用しながら進められていると思うんですが、保育業界においてSNSが活用され始めたのは、本当にここ最近の話だったりします。未だに「Instagramって何?」という経営者の方もいらっしゃる世界です。ですから、一般企業にとっては当たり前みたいなものも含めて、私たちがそういった方々を肩に乗せて肩車することで、新しい技術やノウハウ、ビジネスモデルなどを、これまで見たことのない景色を見ることができる、そんな会社であり続けたいという思いがあります。業界特有の事情を持って、「新しい景色」という言い方をあえてしています。

■ 社会性と収益性のバランスをあきらめずに追求していく方法

MIC有賀:
ありがとうございます。大嶽さんがご自身のnoteで、「保育・教育業界のように社会性の高い業界と対峙した際に、奉仕精神が強くなってボランティアの域を超えられず、結果収益が作れずに事業の継続性に支障をきたしてしまう事業者も少なくないと、気持ちはわかりますが決して良いことではありませんよね」と話していらっしゃった記事がありました。介護や医療など、貢献精神が高い業界では、同様のジレンマを抱えている方が多いのでは、と思うのですが、御社ではこの問題にどのように対峙していらっしゃいますか?
 
カタグルマ大嶽さん:
財政って非常に難しい問題であるのは間違いないですよね。私自身、経営は社会性と収益性のバランスだと思ってるんです。収益性は、言い換えると経済性という言葉に置き換えられると思うんですけれども、この社会性と収益性のバランスをイメージするときに、2つの円を想像していただくといいかなと思います。
例えば、左側に社会性の円があって、右側に収益性・経済性の円があって、この円は決して別々に切り離されているものではなく、必ずどんな事業でも重なっている部分があると思うんです。その円と円が重なっている部分に着目することが、とっても大事じゃないかなと思っています。

少し専門的な話になってしまうんですが、認定こども園っていう制度があるんですね。認定こども園というのは、国が2015年に幼稚園と保育園をミックスしたものです。それまでは、幼稚園は働いてない保護者が教育のために、保育園であれば働いている保護者のための福祉でしたが、これを一緒にしてどんな親でも預けられるようにしました。かなり政策誘導して、この認定こども園が増えていて、今では保育園と同じくらいの数になっているんです。非常に素晴らしい制度ではあったんですが、一定数「私たちは幼稚園だ」「私たちは保育園だ」と主張して、この認定こども園になりたくないという方々もいらっしゃいました。
実は、国が政策的に増やすことは出来た一番大きい要因は、インセンティブなんです。具体的には、子ども1人あたりの収入単価、国から出される収入単価を引き上げたんですね。言い方は乱暴なんですけれども、いわゆる儲かる仕組みにしたんです。すると、「そういう仕組みに乗りたくない」という社会性の強い経営者、事業者もいらっしゃって。「地域のため、社会のために幼稚園として教育機関として残るんだ」という方々も、たくさんいらっしゃったわけですね。

ただこの認定こども園というのは、働いてる保護者も働いてない保護者も預けられるので、急に仕事をせざるを得ない状況になった時にでも、園を変えずにそのまま預けられるという、社会的意義もある事業だったりするんです。
これが社会性と収益性の2つの円の合点だと思ってまして、こういったものをしっかりと見つけ出してそれを広げていく、私はそういう姿勢が重要なのではないかと思っています。

保育や介護、医療、それ以外の事業も含めて、社会性と事業性の円の合点というのがある中で、ここにちゃんとフォーカスをしていく。特に奉仕精神が強い福祉の業界になればなるほど、どうしてもその収益性が「悪」みたいな捉え方をされるんですが、「悪」ではなくて、社会性と収益性の合点が必ずあるはずなので、そこに対する事業をしっかりやっていきましょうと、そういう意味で書いたnoteですね。
 
MIC有賀:
ありがとうございます。この円が重なり合う部分を見つけていく、なおかつそこで働いている方々に対して、それを理解していただく啓蒙活動も必要になってくるわけですね。レガシーな業界であればあるほどすごくハードルが高いような感じはするんですけれども、結構ご苦労もあったりするんでしょうか?
 
カタグルマ大嶽さん:
仰る通りですね。まさにそこでして「収益性が上がるから」や「儲かるから」なんて言い方をしたら、一気に大きなハレーションが起きて浸透しなくなるのがこの業界なんです。難しいんですけども、やっぱりこれはメッセージのあり方かなと思っています。そういったこと(収益性など)はあまり話さずに、この事業をやる、もしくはサービスを導入することで、先生たちや保護者、子どもたちにとってどういう変化があるのか。それをどこまで腹落ちさせて、自分の利益というものも追求させられるか、そういうメッセージが大事だと思っています。
加えて、働いている方々は何より「子ども」という視点があるので、「子どもにとって」もしくは「保護者にとって」という観点で物事を伝えていかないと、なかなか浸透しない難しさはあります。ただ一方で、そういったことを理解してもらえれば逆に推進力が上がる業界でもあるので、非常に面白いと思います。 

MIC有賀:
伸び代はものすごくある業界ということですね、ありがとうございます。
さて、カタグルマ特集最終話となる来週は、弊社の担当キャピタリストも交えて、資金調達やVCとの関係についてお届けをして参ります。大嶽さん、来週もよろしくお願いいたします。
 
カタグルマ大嶽さん:
はい、よろしくお願いいたします。

👉3週目後編)へ続く👈


▶Podcast最新話はこちら🎧✨

MICでは投資先企業を紹介する公式Podcast番組「起業家のキモチ~シーズン4~」を毎週火曜日に更新中。カタグルマ大嶽さんにご出演いただいたPodcastもSpotify、Apple Podcastなど各種プラットフォームからご視聴いただけます。
カタグルマ大嶽さんご出演の回:起業家のキモチシーズン4_EP37~EP39


▶モバイルインターネットキャピタル株式会社概要

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